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転生に失敗しました

読みに来てくださりありがとうございます。

 テッテレー!

「あなたは転生に失敗しました……。Good luck!」



 「君たちにはこれから異世界へと転生してもらいたい。そして異世界の人間を魔族から救って欲しいのだ。勿論、ただでやってくれとは言わない。特殊なスキルと向こうの世界での裕福な暮らしを保証しよう。」


 10分ほど前、自称神とやらにそんな事を言われました。

 そう言われたはずなのです。


 あ、申し遅れました。

 私の名前は影山薄(かげやま はく)と言います。

 名前の由来は特にありません。

 親が酔っ払った勢いで付けた名前らしいです。


 私は先程まで地球で生きていました。

 年齢は17歳、つまり高校2年生です。

 自分で言うのも何ですが比較的普通の高校生だったと思います。


 で、一時間前は学校の恒例行事であるスキー合宿を行う雪山へとバスで向かっていたのです。

 では何故神に会うような事になってしまったのか、と言いますとですね……乗っていたバスがガードレールを突き破って崖から空へと飛び出してしまったらしいのですよ。

 今となってはそれが運転手のミスなのかどうかすらも分かりませんが、とにかくバスは崖から真っ逆さまに落ちたらしいです。

 当然奇跡など起こるわけもなく私は死にました。


 あ、一つ言い忘れていました。

 死んだ時に私は眠っていたので今話した事は死んだ後で聞いた話です。

 そのため伝聞が混じっていますがそこは御容赦ください。


 ちなみに私自身は眠っていた事には後悔はしていません。

 自分が死ぬ瞬間を覚えていないというのは少し悲しい事のような気もしますが、おかげで痛みを感じなかったのは幸いでした。

 勿論、事故死する時点でかなりの凶運ではありますがね。


 で、次に目が覚めると……そこには神がいました。

 当然びっくりしましたよ。

 起きた瞬間はスキー場に着いたのかなと思っていたのに目の前に突然神を名乗る存在が現れたのですから。

 午後の紅茶を午前に飲まされた時と同様のショックを受けましたよ。

 その後神様に魔族を倒してほしいと言われたのです。


 その時はこう、何というか盛り上がりましたね。

 典型的なラノベのように無双する事は出来なくともそれなりに幸せな生活を送れるかなと。

 少なくともやりたい事の1つや2つは出来るかなと。

 仮に魔王に負けて死ぬとしても、理不尽な事故で人生を終えるよりはもう一度チャンスを与えられてその結果死ぬという事の方が満足出来るかなと。


 勿論、その話が嘘かもしれないとは思いました。

 そんな甘い話がそう簡単にあってたまるか、とね。

 でもその神様とやらが言っていた事は少なくとも一部は本当だったらしくて特殊なスキルを貰えたのですよ。

 確か《アンデッド操作》という結構特殊な……というか邪悪なスキルでしたが。


 あ、私個人としては気に入っていましたよ。

 強いかどうかについては分かりませんでしたが、単純に身体能力が上がるよりかはザ・ファンタジーな能力ですからね。

 まあ死体と向き合わねばならないという事を考えると少し憂鬱でしたが、それもいずれは慣れるだろうと楽観的に考えていました。


 で、他のクラスメイト達も《防御力向上》とか《高速再生》とかそういう感じのスキルを貰ってその後一斉に転生したはずなのです。

 そう、人間へと転生したはずなのですよね。


 それで問題の今の自分の状況は、と言いますと……何と身体がないのです。

 比喩でも何でもなく身体がないのです。

 それも一部だけじゃありません。

 全部が、足も手も胴も顔もありません。


 どういうこと?と思うかもしれないので簡単に言いますと……幽霊、あるいはゴーストを想像してくださればよろしいかと。

 意識は確かにあるけれど自分の身体があるはずの場所が透けて見える、そういう事です。


 ああ、誤解を避けるために言っておきますが全く見えないというわけではありません。

 本来ならば身体があるはずの場所に極薄の色付きガラスがあるような感じです。

 こう見えてもパニックに陥っていて説明しにくいのですが、まあそういう事だと強引に納得して下さい。


 そう言えば転生をした際に、気の抜ける音と共に「あなたは転生に失敗しました。」というやけに明るい声が聞こえてきたのですが……現状から判断するとどうやら事実だったようですね。

 2度目の生を望んだ以上あまり文句を言える立場ではないとは思いますが……魔物でも何でもいいからせめてまともな生き物には転生させて欲しかったです。

 だって見たこともない植物や虫を見つけても、触れる事はおろか匂いを嗅ぐことさえも出来ないのですよ?

 その上食事も出来ませんからもう異世界生活の5割は損しているようなものです。


 その割にはやたらハイテンションなのではと思うかもしれませんが……そうでなくてはやっていられるか!という話ですよ。

 ストレスを抱えた社会人がヤケ酒しますよね、多分あれと同じです。

 要は現実逃避をしたいのです。


 物質的な面ではともかくとして、前世よりも裕福な生活が始まるのだなあと希望を抱いていた矢先にですよ?

 神を名乗る者のせいで知り合いもいない何の知識もない世界へと、それも周りに人っ子一人いないような場所へと飛ばされて気が狂いそうにならないわけがないでしょう?

 その上、体がないとか論外にもほどがあります。

 私はまだ未成年ですが目の前に酒があったならばがぶ飲みするぐらいのパニックです。

 あー通りすがりのロシア人にでもウォッカを分けてもらいたい気分です……。

 いっそソ連人でも良いから……そちらの方が難しいですか。

 

 スゥーハァァー。

 落ち着け、落ち着け。

 ほら落ち着いた。


 ……そんなわけで暇で暇で仕方がないのです。

 異世界を堪能する事も出来ませんし、それに今いる場所がですね……草原なんですよ。

 右を見ても左を見ても後ろを見ても一回転して前を見ても草しか生えていないのですよ。

 つまりまともな肉体を手に入れられなかった上に場所まで完璧に事故っているというわけです。

 これのどこが裕福な暮らしなのでしょうか?

 もう一度神に会ったらクーリングオフでも要求してやりたいです。


 で、暇を持て余したので幽霊になって何が変わったのかを検証してみようと思ったのです。

 例えば首の向きを180度変える事が可能なのか、とかですね。

 色々と試してみた結果気に入った事が1つありまして。

 それが……何と空中浮遊なのですよ。

 今現在もしている最中なのですが、どうも幽霊は重力の影響も受けないみたいなので空も飛べるという事らしいです。

 そもそも地面に触れる事すら出来ないので、飛べるというよりは飛ぶ事しか出来ないと言う方が正しいかもしれませんが。


 残念ながら風も感じないのでスカイダイビングみたいに気持ち良くはないですが、それでも高い所から見る景色というのは良い物です。

 何というか全能感に浸れます。

 神様の気分ってのはこんな感じなのでしょうか?


 ああ、思考が逸れてしまいました。

 どうも私はマイペース過ぎるのでそこは御容赦願いたいです。

 ひとまず状況を整理しますと


・死んだ

・能力を与えられた

・転生に失敗した

・幽霊になった

・現在地不明


 こういう事ですね。

 既に詰んでいます。

 本当にありがとうございました。


 ……冗談はさておきこれからどうしましょうか。

 そもそも私の身体が他人からどのように見えるかさえ良く分かりませんが、当面は元クラスメイトと合流するのを目標にするしかないのでしょうね。

 でもそのためにもまず、私の身体の特徴についてある程度確認しておくべきだと思います。

 何せ明らかに普通ではないですから。

 それが原因で死ぬような事があれば……ねえ?

 あほらしくてあほらしくて。


 まず聴覚と視覚はありますが他の感覚はないです。

 これは当然と言えば当然ですか。

 幽霊らしき者なのですから。


 そして透けて見える私の身体は、ぱっと見には死んだ時と変わらないように見えます。

 あ、裸じゃないですよ。

 どういう原理か死んだ時の服を着ている状態で透けて見えているのです。

 宇宙の意志のような物が男子高校生の裸を見たくはないと思ったからかも知れませんね。


 後は……そう言えばスキルはどうなったのでしょうか。

 神様は「頭で思い浮かべるとステータスが出て来るから困った時はそれで確認しろ」と言っていましたが……こういう風にステータスという文字を思い浮かべれば良いのでしょうか?


 おっ!

 思い浮かべただけで本当に出てきました!

 まるでゲームやラノベみたいですね。

 えーっとどれどれ……なんじゃこりゃ?


************************

種族      幽霊

個体名     影山薄

年齢      ?

レベル     ?

状態      お前はもう死んでいる

特殊スキル  アンデッド操作(使用出来ません)


生命力   0

体力     0

精神力   0

魔法耐性  0

魔力     0


************************

   

 ……大丈夫だ、問題ない……んなわけあるか!

 いろいろとツッコミたい所はありますが明らかにおかしいですよね!?


 種族幽霊という事は私はもう人間ですらないという事ですか?

 薄々そうではないかと思っていましたが面と向かって言われるときつい物があります。

 そして普通に考えれば何をしようが種族が変わるわけがありませんから人間には戻れないと?


 それに年齢もレベルも分からない?

 流石にそれぐらいは何とかしてくれても……。


 状態、お前はもう死んでいるって……そうですか。

 私は死人扱いなんですね。


 それに肝心のスキルは使えない?

 ……何のために貰ったのだか。


 その上能力値は全部0……。


 スゥーハァァー。

 良し、落ち着きました。

 落ち着いていないですけれど落ち着きました。

 そういう事にしておきましょう。

 とりあえずこのステータスは当てにしない方が良い、というかもう当てにするつもりは無いです。

 私が死んでいるかどうかはさておき、大抵の能力値が0でも移動は出来ていますしそれにこんな情報を受け入れたくはないですから。

 現実逃避して何になるかは分かりませんが常時うつ状態になってしまうよりはましでしょう。


 恐らくこの能力値というのは普通の生物を基準にして作られているのでしょうが……生物じゃないので当てはまっていない、そういう事だとしましょう。

 認めたくないですけど。

 私が生物ではないなんて認めたくはないですけれど!


 結論を言いますと……ステータスでは何も分からないから全て身をもって確かめなくてはならないという事になります。

 肝心のその身はないのですが。


 はあ。

 本当に今日は厄日です。

 死んだ上に異世界に転生して初めてやる事が自分の身体を調べる事だとは……。

 一体何が悲しくてこんな事をやらなければ……。

ステータス表をノリで作りましたが以後出て来ることは無いです。

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