決意(ボクがオレになるまで)
この俺が、この世界を揺るがす、絶世の反逆者だ
1、
【あの日のことを振り返ろうと思う】
今10歳のボク、強い。すごく強い。同じ歳のヤツらには喧嘩でも何でも負け知らず。どんなヤツにも屈しない精神がある。
……いや、アイツらにはどうしてかビビってしまう。
そもそもどうしてボクは強いのか、それは単純に親の教育だ。
訓練によってボクは強くなった。それには親に感謝している。
けれど許せない。自分の理想のために他人の気持ちなんて考えずに、ただ強い子に育てようとする信念が。
血反吐が出ても心配しない、のんのんと続けさせる、……こんなヤツを許していいのか?
いや、ボクが許してあげていないだけかもしれない。でもボクは鍛練に耐えられるような性格じゃない。みんなと楽しく遊んだりしたい。
けれどもう遅い。なぜならみんな、ボクを見るとちびって逃げるようになったから。
「どうしてこんなことをさせるの?」
何度か聞いたことがある。そのたびに親は過去の自分語りをして、勝手に話を終わらせるんだ。
頭が腐っているに違いない。その気色の悪さに心から強く呪ってやった。
つまりアイツらというのは両親のことで、結果的にボクが言いたいのは、
<親が大キライだ>
そういうことだ。
【そんなある日のことだった。変化とは突然なんだとその日知ることになった】
ピンポーン
インターホンの鳴る音に反応した母さんが、外へ顔を出しに行った。
すっかりと空が暗くなった今、家族みんなで晩ごはん。
こういうオフの時間は家族団らんで楽しもうという親の想いがあるのだろう、意外にも想像のつくような一般的な家庭であり、父さんと母さんはボクに明るく接してくる。
……しかし、こんな時間でさえボクは好きになれない。
オンとオフの差が違いすぎるんだ。だから、笑顔も笑い声もすべて偽物のような気がした。それは本物なのか疑うようになった。
ただ単にボクの性格的な問題で、一緒にいることを素直に認めていないだけかもしれない。でも地獄の日々を送り続けているせいで脳がマヒして、今にでも親元から離れたいとしか思わなくなった。
結局、親同様にボクも常人じゃないってことなんだ。
「なあレオ、お前は父さんと母さんを憎んでいるか?」
父親が急にそんなことを言ってきた。
「いや別に………」
「本音は?別に気にしないぞ、、、って言えばやっぱり気にはなるけど、あまり嘘はついてほしくないなあ、」
「いや、本当に何もないよ」
問い詰めているようだったからボクは嘘をついた。特に何か言ったって変わることないだろうし、無駄口を叩く必要はない。
というより何だよ急にそんなこと質問してきやがって。
「父さんがレオに厳しくしているのは、レオのため……だけではないんだ。皆のためでもあって、父さんと母さんのためでもあるんだ」
……今までにあまり聞かなかった口調だった。
「何回も同じこと言う。お前が一番の希望なんだ。お前にしかできないと思っている。こんな早い時期から訓練させているのは慣れさせるためなんだ。甘やかした後からではもう遅い。
これは父さんと母さんが決めたことだ。嫌なことはたくさんあると思う。それでも、許してくれ」
いつの間にかすんなり話を聞いていた。意外にも、そんな理由でスパルタしていたなんて思わなかった。少し心が動かされたかもしれない。
「どうしてボクなんだ? 確かに自分でも才能があるとは思っているけど、ボクの何を見て希望って感じたの? ボクにはわからないよ。
それに父さんの野望だろ?人に押し付けないで自分でどうにかしないの?」
最もな意見を叩きつけてやった。
「……父さんも必死になった時期があった。でもな、単純な強さがなかった。…だから諦めた。
どうしてレオにこんなことさせるか、だったよな?もう包み隠さず言うべきだよな。教えるよ」
急にこんな暗い話を持ち掛けて、なおかつ本人が居ないにも関わらず急に母さんの秘密を暴露しようとする父さんを見て、何か変な気持ちになった。
「疑問に思ったことないか?なんで母さんはあんなにも強いのか。お前も見たことあるだろ、あの魔力。もう30歳後半なのに一般軍人より遥かに強い。
実はそれに関係していてお前は____」
!!!?
ビックリした……!
話の途中で、急に外から強魔法であろう音が鳴り響いた。
母さんが戻ってきた。
「とりあえず付近の人たちは倒した。ケイネス、とうとうバレたわ。2人共、今すぐ逃げるよ」
【この出来事が、オレの人生を大きく変えるのだとこのときのボクは思わなかった】
2、
突然のことでボクは動揺を隠し切れない。
どうしてこうなったか聞いても、「後で話すから!」としか言わない。
今は魔術式自動車で逃げているけど、追手が近づいてきてる。しかも、魔法・銃弾・爆弾が飛び交っていて、単純にボクたちを殺しに掛かかっている…。
焦っていて頭が真っ白だ。とにかくもう何が何だかわからない……
ただ、あのマークから敵はアルカディア軍だと分かる。でもおかしい。どうして自国の兵士がボクたちを狙っているんだ……!?
……もしかしてコイツらのせいで?
もしもこれが原因なら、どうして今まで気づかなかったのだろう。考えれば簡単な話だった。
父さんが昔の自分語りをしていたときに言ったこと、それは父さんが元は隣国に存在していたカナレス国の人だったこと。
今、アルカディア王国は世界一領土を保有していて世界一恐ろしい国だ。
何か古そうな本で読んだことがある。カナレスは国名も権利も失い、アルカディアに対して極悪な差別を受けている。アルカディアに支配されている国が反逆行為を犯すと、躊躇なく処刑されること。
これが今のアルカディアの常識。そんな中でカナレス人とアルカディア人が結婚していい訳がない。一緒に居ることさえ許されない。
つまり、何かしらでこの家族の国籍がバレた。
親に無関心だったから深く考えようともせずに気づかないままだった。今更気づいたところでもう遅い。
こんな家庭に生まれた自分が可哀想に思えてきた。本当に何から何まで嫌な親だ。
_____
______
「うそ……」
母さんが呟いた。
どうしたのだろうと思い、下を向いていたボクはガラス越しに外を見渡す。
・・・思わず目が大きく開いた。
親がいるから少しは安心していた。けど、それは大きな間違いだった。
そう、3人に対してあり得ない数の戦闘機を見てしまった。
車自体にシールド魔法が装着されているが、当然耐えられなかった。そして遂に車が破壊された。そのまま四方に囲まれ、ボクたちは逃げ場を失った。
3、
意識を失っていた。
目が覚めて周りを見渡すと、たくさんの銃口が向けられていた。
恐怖と焦りと同時に死を感じた。
指揮官らしいじじいがタバコを吸いながらボクたちの前に姿を現した。
「はっはっは! 素晴らしい光景だなぁ~。お前たちって本当に愚かな人間だよなぁ!」
「黙れ!!」
イラっとしてそう叫んだ。魔法を使おうとすると、背後から魔法による攻撃でボクは弾け跳んだ。しまいには、じじいから腹パンをくらってしまった。
「ぁぁ!!」
痛みが走って大きく声を荒らげた。
……正直、ボクの実力がコイツらに通用すると思っていた。けど舐めていた。こんなにも早くボッコボコにされ、痛みで動けなくなるなんて思いもしなかった。
「うるさいガキだなぁ。もうコイツをさっさと処分しろぉ誰か」
「もうやめて!」
素早くボクに駆け寄った母さんはボクの身体全体を覆うようにして抱え込んだ。
「どうして私はこんなにもバカなの…………こんなことになるならこの子ともっと楽しい時間を過ごせば良かった………!
お願い……この子だけには何も危害を加えないで!」
「アハハハハ!!」
周りの連中が笑っている。
なんなんだよコイツら……頭狂いやがって……!!
「普通目上の人に何か頼むなら土下座して敬語で言うべきだろ?さっさとしろよ」
『そんなのしなくていいんだ!』そう思いながらも、哀れなことに母さんは言われた通りの対応をした。
「……………お願いします… この子だけには何もしないでください……」
やめてくれ母さん、そんな恥さらしの姿見たくない……!
死ぬのは怖い____けどもういいんだ。だから、やめてくれ……
「アハハ!面白すぎるぞこれぇ!!
でもねぇ親御さん、ワシらはね、アンタら全員を殺すことが仕事なんだい。だからね、もうここでバイバイじゃい!」
嘘だろ…… 母さん!!!
………銃声が鳴り響いた
……このままボクも終わってしまうのか……?何もできずに、ただ泣きわめくことしかできないのか……?嫌なことから背くこともできないのか……?
嫌なことってなんだ?結局、何が悪くて嫌なんだ?
そんなの決まっている……アルカディアだ。そもそも親が呪われた存在になったのも全てコイツらが原因だ。本当に悪魔なのは、極悪非道なやり方で世界を支配しようとするコイツらだ。だから____
ボクは殺したい……!絶対に殺してやる!
こんなところで死んでたまるか!全て果たすまで……絶対に……!
絶対に……
絶対に……
え?
母さんを見てみると、撃たれていなかった。
「危なかった……」
銃弾を父さんがシールド魔法で守ってくれた!
ボクと母さんに注目が集まっているうちに密かに魔法を展開していたのだ。
「ちっ 邪魔しやがって…… 全員打て!」
「消えた!? あんな魔法を使えるのか!?」
何だよこれ……
敵と同じくらい驚いた。
まさか父さんがテレポート魔法を使うことができるなんて思わなかった。あの、テレポート魔法を。
「あそこにいるぞ!」
移動距離がわずか約50メートルといったところだが、囲いの外には脱出できた。追ってこられたが、それだけでもだいぶマシだ。
なんか、初めて父さんがカッコイイと感じた。
「いけるかマリア?」
「うん」
母さんがいきなり敵集に向かって爆裂魔法を発動。それは生半可な威力ではなかった。思わずボクは身体が固まった。母さんのその一撃だけで前線の陣形を乱した。
【そういえば不思議だ。母さんはこんな魔法使えたのにどうしてオレを庇うまでのことをしたのか】
「2人とも私につかまって、早く!」
ボクの親、どうなっているの……?
まさか母さんまでテレポート魔法を使った。しかも移動距離が長い。
どうなっているんだ?都市伝説になっている、あのテレポート魔法だぞ……!?
……父さんも母さんもスゴい人だったんだ!
今まではただの邪魔者だと思ってきた。けど違っていた。いざというときに助けてくれるヒーローだったんだ!
【幼少期の子供は感情の入れ替わりが激しい。だからこのときのオレは、鍛練の苦しさから親を嫌っていたにも関わらず、たった1つのことでこのように親に愛着を持つようになっていた】
いける……! 逃げ切れる……!
「ケイネス、そろそろ……」
「うん、わかった」
父さんと母さんが2人で何かヒソヒソと話していた。
なんだろうと思っていると、母さんがボクの肩に手を置いた。
真剣な眼差しだった。
「希望があるように感じ実際今は絶望的な状況よ。追手はあと少しでやって来るし、例え逃げ切れたとしても必ず次も襲いかかってくる。助かる可能性なんてほとんど無いわ。
でも1つ、助かる可能性を上げる方法があるの。
…………それは、私と父さんが囮になって戦っている間にレオ1人でこの海を渡ってかの国から逃げる。もうそれしかない、今からやってもらうわ」
えっ………… 嘘に…決まっている……よな?
「この海を、この西の方向に真っ直ぐ進んだ先にニッポンという国があるわ。世界中の先進国の中でも、平和とは言えないけれど最も安全な場所よ。もう……言いたいことわかるでしょ…? 私たちには守りたいものがあるの。それはあなたの命。………だからお願い、構わず1人で逃げて…!」
「ちょっと待ってよ!他にまだ方法はあるだろ!」
「考えた。けれど、結局これしか最善策はないと思った」
「じ、じゃあ逃げ方は?ボクに海を越えるような魔法なんかない!」
「さっきアルカディア軍に囲まれたとき、あなたを抱きしめたでしょ?そのときに水上移動魔法を伝承させておいたの」
あのとき…!? あのピンチな状況でも尚、ボクが助かるように行動していた!?
「ボク1人じゃ何もできない!たどり着いても無理なんだ!」
「最初は誰だってそう思う。でもどこかであなたを拾ってくれる人に出逢うよ、きっと。しかもニッポンだよ? 絶対大丈夫、時間が経てば慣れていけるわ。だから勇気をもって」
何を言っても主張は変わらないようだった。それなら、
「父さんと母さんの夢はどうするつもりなんだ!ボクを利用するんじゃなかったの!!」
「私……間違っていた。自分の都合に合わせるために人の気持ちをねじ曲げてまで行動していた。それってただの虐待なんだって今頃になって気づいた。死の危機にいると、いろんなことに気づいて後悔するの。レオには後悔させたくない」
違う!そうじゃない……!そうじゃないんだ……
「だから私は最後、あなたに命令するわ。………それはニッポンで自由に、幸せに生きること。
普通に学校に通って、友達と遊んで、勉強して、就職して、結婚して、人生を楽しみなさい。背負うものはもう何もないの。今までの苦労が水の泡になって本当にごめんなさい……。 でもその苦労が、いつか役立つときがくるわ、絶対に」
「オレも同じだ。今までレオに迷惑かけてばっかりだった。ごめんな……これからは1人だけれど、頑張るんだぞ………」
______
_______
「ボクは母さんと父さんと一緒に居たいよ!!」
「ホント?…………ありがとね…」
「確かにボクは親が嫌いだった。でもさっき守ってくれたように、根はとても優しいところがあって、そこが大好きなんだ!それだけじゃない、他にもいっぱいある!だから一緒に居てくれよ……」
【今思えば、どうしてあのとき、一緒に居たいなんて言ったのだろうか。けれどその判断が、今のオレも、親に会いたいという気持ちになっているのだが】
「本当にありがとう………………でも、だめ。もう時間がないの……!」
「嫌だ!ボクは行かない!」
「なら、無理やりそうしてやるよ」
4、
!? 誰だ!?
振り返ると、テレポート魔法発動時の光。1人の、20代くらいの紫髪をした男が現れた。
……敵だ。アルカディア軍の制服を着ている。
「離れろレオ。父さんと母さんがなんとかする。いくぞマリア」
「うん……わかっているよ」
そして、父さんと母さんはその男に魔法を放った。
それは一瞬のことだった。
ボクの顔に数滴の赤い液体が付いた。
なんだろうと思ったけど、すぐに理解した。こんなにも大きく眼が開いたことはなかった。
この日、初めて人が殺されるのを見た。また、その人はボクにとって大切な人。
「ぁぁああああああ!!!」
とにかくコイツを殺してやるという思いで無我夢中だった。駆け引きも防御もせず、死に物狂いで攻めた。しかし、すべて弾かれてしまう。
分かっていた、勝てないと分かっていた。どうせ自分も殺されるとわかっていた。
別にそれでもいいんだ。父さんと母さんと一緒に死ぬことができるから。
死の恐怖なんてもうない。
未練はあるけど、自分は無力だから何もできない。
この残酷な世界で、残酷な終わり方をするんだ。
「どうして逃げようとしない?」
「ボクの顔を見ればわかるだろ」
「へぇ…、そんなに親が大事か?」
「てめぇ……!!」
アイツはそう言うとクスッと笑い、見下すような視線を向けてきた。
「あーそうか、ならオレもいかせてもらおうかな」
そう言ってボクに攻撃を仕掛けてきた。
丁度、雨が降り始めた。
ボクは地面に横たわって倒れた。
力が入らない。 負けた。
……あぁ、終わったなこれ。
雨音だけが聞こえるこの静寂な空に、仰向けになりながらクソ野郎と会話を交わした。
「早く殺せよ……」
「……お前は命乞いとかしないのか?そんなにも死にたいのか?」
「……あぁそうさ。こんなクソみたいな世界で、大切な人を失って、そんなので生きていこうと思えるか……?ボクは思わないな……」
するとボクの回答に呆れたのか、クソ野郎は1つため息。
「お前は間違っている。その言葉はただの逃げだ。聞くが、こんな悲劇が起きて悔しくないのか?」
「悔しいさ……」
ああ悔しいさ。コイツを本気でぶっ殺したい…!
どうしてこんなヤツにボクは負けるんだ!
クソ!クソ!クソ
「なら立ち上がれよ!どうしてすぐそうやって諦める?まだ何も始まってないじゃないか。オレを殺したいのだろ?本当にそうしたければ強くなれよ!」
「ボクにはできない…… 力が欲しい……」
「お前にはすでに力がある。誰にも負けない力が。
それと、選択を間違えるな。逃げずに立ち向かった勇気は認める。だがそれは最悪の選択だ。オレじゃなければこの時点で殺されていたぞ。だから、最優先の行動をしろ。そしていつか、またここに戻ってこい」
はぁ……?
何を言っているんだコイツは……!?
ボクの親を殺したんだぞ……なのにどうしてそんなこと言うんだ……
………コイツ、ボクを殺そうとしないのか??
「チャンスをやる。お前を見逃す。テレポート魔法でニッポン方向にできるだけ遠くに飛ばしてやる。魔法の到達先は海だ。
そこで決めろ。そのまま沈んで沈んで死ぬのか、それとも前に進むのか。
……もう時間だ。治癒魔法でお前を回復させたからもう動けるだろ?
じゃあな。まあ頑張れよ」
「お、おい待て!!」
辺りが眩しい光に覆われた。次に目を開けると海の上にいた。そのまま落下し、水しぶきが舞った。
すうぅと沈んでゆく____
やるしかないだろ
海面へと這い上がる。
[水上移動魔法]
父さん……
母さん……
決意した。
自分なんだ………
悪を行った人は悪い。それは当たり前だ。けれどそれよりも悪いのは、その悪行を抑え込むことのできない弱い人だ。
=それが自分なんだ=
赤い眼で凝望する一筋の暉に導かれて、
「だからボク……いやオレは、強くなる……!
オレを苦しめた、人も組織も制度も、すべてぶち壊す!!
その元凶になるアルカディアを、いつの日か必ず_______」
この乱れた天の夜空に、誓った。
いつの日か、必ず_______
【これがオレ、レオナルド・リュークの逆襲が始まった日だ】
「先は長い………でも頑張れ
さてと……
こちらアストレア、作戦は無事成功した」