もう一度だけ
強さは正義なのか、弱さは悪なのか。
そんなのいつ決めた?誰が決めた?
……でもそんなのもう考えなくたっていい。
なぜなら俺は、力を手に入れたから。
1、
マリアと出会って2年が経った。
この2年間でたくさんの経験をした。
最初に、近所の人たちに挨拶することから始まった。後で迷惑にならないよう覚悟を決め、自らカナレス人であることを周りの住民に明かした。
はじめは、スパイだとか訳のわからない噂をされるほどの嫌われようであったが、マリアと共に何度も訪問を繰り返す中で噂はいつの間にか消えていた。
なんといっても、あのマリア王女姫だ。皆納得するのも仕方ないはずだ。
早く打ち解けられたことが何より良かった。ここの住民は優しい人ばかりなんだと実感した。いや、一部を除けばアルカディア人は全員良心的なのかもしれない。
この地域の子供たちの遊び相手もするようになった。魔法を見せびらかして驚かせたり、その他いろいろと。
オレはガキから結構人気があったらしい。
職場探しもした。あまりやる気がなかったが、マリアへの感謝は忘れられなかったから恩に着て、すぐに切り替えた。
3件隣に住むおっさんが畑の後継ぎを勧めてきたので、おっさんの弟子になった。
それだけだと収入は少ないから建築業にも携わった。
物を触れずに動かせる念力魔法を使うことができるから、同業者からは熱く信頼された。
マリアと一緒に、ショッピング、旅行、映画、ゲームなど、あらゆる娯楽を満喫した。
仕事などの影響でなかなか都合が合わず、回数は多くはなかったけれど十分に楽しめた。
住む拠点を変えた。職場も変えた。その日、マリアの隠し事を知った。
そして改めて自分がカナレス人であることに気づかされた。
こうした経験でたくさんマリアと触れ合った。
そのうちに、オレは彼女のことが好きになっていた。
いつかは伝えないといけない、ずっとそう思ってきた。けれど恥ずかしさに負け、なかなか自分の気持ちを伝えられなかった。
それと同時に怖さがあった。例え気持ちを伝えたとして、良くない返事だった場合オレはこの先マリアと一緒にいられなくなると思った。
でも、だからこそオレは今日絶対に言うんだと決めた。いつまでもそんな関係続かないと思ったから。真の関係を築くことで喜怒哀楽を分かち合うことができると思ったから。
だから、今……!______
「ねえ、ケイネス、ちょっと大事な話なんだけど聞いてくれる?」
オレが話しかけようとした瞬間、逆に話しかけられた。タイミング外されて普通に最悪なんですけれども。
なんだよもう…大事な話って。こっちの方が大事なんだぞぉ。
「な、なに?大事な話って」
マリアは一呼吸した。少し間が空くと、彼女の顔が赤く染まっていた。
何だろうかこの空気は……
そしてその衝撃的な発言はオレにとって生涯忘れることがないのだろう、そう思った。
「ケイネスが好き……… 私と結婚しない……?」
もちろんはじめの返事はこうである。
「えっ?」
2、
ブエェェェ!!!!?
ただただ驚いた。
オレが言おうとした『付き合って下さい』を超える『結婚しない?』を奇跡的なタイミングで逆に言われたこと、マリアがオレのこと好きだったこと。
マジで!?マジで!?マジで!?マジで!?
逆プロポーズじゃん!!
全世界の人に伝えたい。これこそが正しい『心臓が爆発しそうだ』という表現だと。
マリアの顔を見た。さっきよりも赤くなっているように見える。
今、彼女の心境はどうなっているのだろうか?
でもこれだけは分かる。恥じらいを捨て決断したのだと。
凄く嬉しかった、オレのことが好きだなんて。
「こちらこそよろしくお願いします」
返事だけした。ここでオレがあれこれ言うとかえって彼女を困らすだけだ。それと、何となくそうした方がカッコいい気がするし。
彼女は嬉しそうな顔をしていた。
「これからはマリア・リュークだね!」
いやぁ……マジで胸キュンキュンなんですけど。
何から何まで可愛いんだよなぁ、と、しみじみ感じるワタクシでありました。
こっちに移動してきたマリアは、オレの隣へと肩と肩が引っ付くように寄り添ってきた。
オレの腕を優しく抱き締めてきた。
ドキドキが……治まらない……
(結婚指輪とかは用意してなかったようです……)
「ケイネスは自分の子供欲しい??私は欲しいなぁー」
また爆弾発言してビックリした。こんな大胆な人だっけ?……あ、大胆な人だったわ。
子供は、産めば育児に苦労する。けれど、より楽しい暮らしにもなれる。
出産というのは現状が安定した状態を前提に、後先のことを考えてするべきだとオレは思う。
個人的には賛否両論あるけど、どっちでも良い。どんな状態であっても、恩人の思い通りにさせたい。彼女の望みに合わせて、オレも賛同するだけだ。
「うん、オレも子供欲しい」
.
.
.
.
沈黙が続いた。
「…………そうだ、今しよう今やろう……!いつまで待っても意味ない……もう、ここまで来たんだ……!」
小声でモゾモゾと独り言のマリア。何と言ったか聞こえなかった。
心配して声をかけようとすると、彼女の口が先に動いた。
「今の生活はとても幸せなの……好きな人と一緒にいて……楽しいことも苦しいことも共有し合う、そんな最高な日々に…文句は何一つないの」
「マリア……?どうした……?」
急にそんなことを言ってきた。さっきよりも随分と暗く変わった彼女の表情が、オレを不安にさせる。
「ただ、やっぱり私はまだ諦めきれない……気持ちを抑えきれない……あの幼稚な考えをまだ、捨てることができない……」
「え……何言っているんだ?全く内容が分からないのだけど……」
さすがのオレも、彼女が変だと思い始める。
「まだ分からないの?言ったよね?あの日の約束」
「あの日?」
「そう、大事なことを伝えた、あの日のこと」
…………
……はっ!! オレは気づいてしまった。
「まさか……!」
「あの日告げた、『いつの日か』が、遂に来たんだよ……!」
そうだ、それは、
アルカディア王国への反逆______
「絶好のチャンスだと思っている。だからなるべく早く、ならば今言わないと……!ってね」
「いや待て!どうして今!?まともに生きてる兵士なんてほぼいない、仮にいたとしても過去の惨劇を繰り返すだけだ!」
もうあんな光景を、見たくない!
「分かっているよ。だから選んでほしいの、ケイネス。これから私たちが生む子供をどうするか。2人の血が交わる子孫を」
「え……?」
「やっぱりすべて忘れて、背負うことのない、正しく従順な、可愛らしい、普通の子に育てるのか。それとも、私たちの意志を受け継ぐ唯一の逆襲の一手となる兵士に育てるのか」
オレには、マリアのこと分かりきっている、そう思っていた。けれど分かっていなかった。こんなにもマリアが、恨んでいて、我慢できないくらいになっていたことを。
けれどオレの答えを待っていた。オレのyesかnoのどちらかによって判断を変えるほど、我を忘れてはいなかった。
キミは想像を遥かに超える素晴らしいお嬢様だ。オレはまだまだ理解が足りていなかった。
王女姫だから何でも自分が決める・自分に決定権があるから邪魔させない、そんな人物像を想像していた。
こんなオレに最後まで付き合ってくれるなんて、キミって人は……
「……ゴメン、マリア。あの日約束したのに、いざってなれば決めきれない。だからもう少し考えさせて。……もう今日は寝るよ」
寝室に向かい、寝転がった。
「うん、キミのペースでいいよ。焦らず、ゆっくり考えて。それじゃあ、お休みね」
.
.
.
.
.
自ら犯した過ちを思い返した。
取り返しのつかない絶望をした。それを理由に自分の意志を塞いでいた。心残りがあるくせに無理やり全て諦めて忘れようとしていた。
けれど1つの光が見えた。
……だからって、掴もうとは思えない。過ちを繰り返したくないから。
オレはヒーローではない救世主ではない。ただの、人の中の人だ。
だからその人が、1人で舞い上がっても、意味無いんだ。
……………………
……………………
……………………
……………………
これで満足するのだろうか?
確かにマリアが言った通り、別に何もしなくていいんだ。好きな人と生きる、こんなにも幸せなこと他にない。
けれどそれは満足と言えるのだろうか?
はたして『幸せ』と『満足』は同じなのか?
………………否、これは違う。
このまま生き続け、老後もマリアと生きて、そしていつかは死ぬ。
そのいつかがやって来たとき、オレは絶対に後悔する。
あのときこうしていれば良かった、と。
人生は失敗の連続だ。だから失敗を無くすために、逃げるのか?
……いや違うだろ。成功に変えるのだろ?
それができて、初めての『満足』だろ?
これが正解なのか間違いなのかは分からない。けれど、生きる中で、生きる意味を探し求め続ける『人生の冒険』は、必要じゃないのか?
おいオレ、本当に可哀想なヤツになってしまうぞ。
「『自分は主人公だ、特別な存在だ』そんなこと思っているヤツは、前に進めないんだよ。お前はどうだ?ケイネス」
ははは………… 笑わせんなよ……
***
「あーーーおはよーー、ふあぁぁ……」
「マリア、昨日の話の続き」
「んー?なぁにー?」
「マリア、オレはキミのお陰で今も生きている。だから口出しできる人間じゃないし、キミを楽に自由にさせるよう最大限の努力をする。いや、今までだってそうしてきている。だから、自分の思い通りにすればいい。誰の意見に従うことなく後悔しない選択肢を、自分で選んで」
ルーカス、お前はまだ分かってないよ。
たった一度や二度の失敗で、何知っているかのように語ってんだよ。
そして、長い月日が経った。
1人の男の子がこの世界に生まれた。
名を、レオナルド・リューク