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相良耀子と花見パーティ

 二年前の六月に更紗は死んだ。

 俺が知ったのは情けない事に亡くなった半年後。


 全てが終わった後に義妹から「人伝手で聞いた話ですけど。」と耳打ちされて呆然としてお終いだ。

 そんな俺と違い、相良耀子は娘と思っていたほどの友人を未だに悼んでいたのである。

 彼女は更紗がとても頭にくるとても破壊的な悪魔だったと語った。


 相良は五十代半ばと思えない程若々しく、顔にも年相応の皺もなく、釣ったアーモンド型の瞳を持つ優美な美しい女性である。

 更紗の事を語る時は失った子供を想う母親の顔つきとなり、そのやつれた表情を見せる彼女に俺は自分の薄情さを思い知らされ、依頼を断るつもりでありながら話も聞かずに辞去をする事が出来なくなってしまったのだ。


 相良が更紗と出合ったのは、更紗の姉の夫である和泉いずみ和匡かずまさの花見パーティであった。

 元はただの地方の地主夫人でしかなかった彼女だが、今や押しも押されぬ大富豪だ。

 彼女に近づきたがる人間は多く、常に招待状は山高く積みあがっている。

 そんな彼女がパーティに出る目的は人間観察という名の、くだらない人間達へを扱き下ろして笑うためだけであった。


 ホテルのホールを貸しきった豪奢なパーティ会場で、彼女は何時もの毒舌を振るう自分自身にまで飽いてしまっていたと気づき、この長い時間を、パーティではなく自分の人生のこれからまでも無為に感じてしまっていたのだという。


「つまらないなら帰っちゃえばいいじゃない。」


 勘に触る言い方の声に振り向くと、短い髪にズボン姿の少女がいた。


「あなたこそ、つまらないなら子供部屋に戻りなさいよ。」


 少女は口がそこまで歪むかと思うほどの気味の悪い笑顔になった。


「つまらなかったら詰まるものにすればいいからね。このパーティは浪費家の姉が催したかっただけで、義兄の会社には不要のものなの。姉がこれ以上浪費しないようにお仕置きをして、且つ、義兄の為になるには何をしたほうがいい?」


 少女の質問に生まれて初めて相良は目を白黒とさせた。

 やり手のはずの自分が、見るからに女学校も出ていない子供の言葉に呆然としているのだ。


「わからないわ。」


 すると更紗はツンと鼻を上げた。


「ああいう物欲の強いお馬鹿さんはね、大事なものを奪えばいいのよ。」


 会場の時計が時刻を告げると、更紗はトコトコと階段を上がっていく。

 ただそれだけの行為であるのに、一人また一人と、談笑中のパーティ客が更紗に注目していくのだ。

 少女は階段の天辺の辺りで、全員の注目を浴びていることを知っているかのように振り向いて、彼女を注目している人々に満開の笑顔を見せた。


「お越しくださった皆様、今宵は優しい姉が親の無い子供達の為にオークションを行いたいと申しております。」


 そこで大きく手を叩くと、女中の一人がビロードで包まれた四角い箱を持って来た。

 受け取った更紗は、カパっとその箱を開く。

 話に聞いていた南洋真珠の、それもブラックパールのネックレスだ。

 この花見は美緒子がこれを見せびらかす目的だと聞いていたが、彼女の首元に飾られていない事に客が首を傾げていたのだ。


「コレに値段を付けてください。一番高い値を付けられた方に差し上げます。」


「あれは本当に愉快だったわ。買ったばかりのネックレスを身に付ける事も出来ずに妹に売り払われて、おまけに慈善行為と褒められれば文句も言えない。そして、今後も続けたいと姉は申しております、なんて〆たものだから、美緒子は二度と無駄なパーティを開かなくなったのよ。宝石の馬鹿買いもね。」


 嬉しそうに思い出を語る相良は、思い出したと女中に写真を持ってこさせた。


「この子はもっと美しくなったはずなのに。殺されたのよ。」


 相良と写る更紗は、俺の覚えていた頃と同じく瞳に力があった。

 そして、予感していたとおりに美しく成長していた。

 あの大きすぎる目は成長するにつれて、大人の輪郭に合う美しいものになったのだ。

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