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悪女とは

「でもさぁ、竹ちゃん。和泉を狂わせた美緒子ってそんな悪女だったの?写真は確かに女優みたいに美人だけどさぁ。」


「人形みたいな女性だったよ。自分が無いから服や持ち物、そして外見に拘るだけのね。和泉はずっと母親のせいだと言っていたが、そうだね、今にして思うと母親の駒になって義父の前で裸踊りするサロメのようだったね。」


 そこで弟の妻になった美佐子を思い出した。

 彼女は持ち物や外見に拘るが、人と違う何かを持つのではなく、全く同じものを持とうとしている。

 女学生時代は友人たちと同じ持ち物に服装、そして今や母の着物まで纏い、母のような髪型に化粧だ。

 あれは逆になんなのだろう。


「駒って、サロメって凄い悪女でしょ。」


 田辺がせんべいを齧りながら素っ頓狂な声をあげた。


「アァ、ヨカナーン、ヨカナーン。あれもそんな悪女って感じでもなかったけどね。竹ちゃんが言っているサロメは聖書の方か。」


 元情報将校のインテリは判った顔で微笑み、田辺はそんな俺達が少し面白くなさそうだ。


「聖書でも悪女ではないのですか?」


「長谷の唱えたオスカーワイルドの戯曲にされるまで、聖書の彼女はただの小娘で母ヘロデヤの道具扱いだよ。ヘロデヤは自分を非難したヨハネを殺すために、サロメを裸踊りさせて、褒美にヨハネの首を所望させたのだからね。本当の悪女はヘロデヤの方なんだよ。」


「あぁ、和泉が絹子さえいなければって、それですかぁ。でも、絹子は結婚した一年後には拓郎に連れ去られていないでしょ。」


「二十歳過ぎたら急に独り立ちは無理でしょう。きっと母親というコントロールを失って、そのせいで和泉にそれまで以上の攻撃性をみせたんじゃないかな。和泉は母親を排除すればと考えていたかもしれないけど、その行為は狂信者から教祖を奪うようなものだからね。神様を失った狂信者はそれまで以上に神様の言葉を守ろうと頑張るのさ。」


 頬杖を付く長谷は、情報将校時代の傍観を漂わせていた。

 俺達も神様を失っている。

 そして神様の言葉を受けて我武者羅に生きているのだ。

 恥を晒しながらも。


「それじゃあ、絹子が普通の女性であれば和泉はお人形のような美緒子と幸せになれたのかもしれないですね。隊長の姑って相良さんになりますけど大丈夫ですか?小舅が矢野ですよ。ねぇ、長谷ちゃん。矢野ちゃんが白狼団って、それも頭領だったって本当?」


 田辺の台詞に長谷はハハハと軽く笑って喜んでいるが、更紗は人形じゃないから大丈夫なはずだ。

 あの子はケダモノなだけなのだから。

 矢野に関しても今のところは好青年だ。

 きっと大丈夫だろう。


 美緒子に悩まされ金を盗まれて狂気に陥った和泉は、飼い犬の拓郎の造反を知って二人を殺してしまう。

 そこを更紗に目撃されて、逃げる彼女を車で刎ねてしまったのだ。

 彼女が記憶喪失な事をいい事に美緒子として囲み、正造を殺して遺産を相続させようと目論んだ所、彼は皮肉な真実をようやく知る事となったのだ。


 美緒子は天野家の遺産相続人ではない、と。


 更紗に戻そうとしても彼女は和泉を完全に拒んでおり、更紗に戻せば相良が財力を使って更紗が和泉から奪われる事は想像に難くない。

 彼は完全に詰んでいた。


「子供がいればって、天を手篭めにしようにもケダモノ過ぎて怖かったらしいよ。それで数年かけて怯えさせて言いなりにしようと考えていたら今回の流れで、ちょっと和泉が可哀相に思えちゃった。」


 珍しく長谷が和泉に同情し、俺に哀れみの視線まで寄越していた。

 え、俺に憐み?

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