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LASKAー勇者は魔を追い旅をするー  作者: 朝舞
水の都、セレイーン
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潮風香る街




掌で顔を仰ぎながら、ローザイスは報告書に目を通していた。


彼女は室内外問わず、常にフードを被っている。暑いのなら外せばいいのに、と密やかに思いながら、ラスカはその作業が終わるのを待っていた。


ディークリフトに、レイとルイも一緒だ。数日前に請け負った依頼を全て終えたので、そろって報告に来たのだ。


ーーー私は、眠ってしまっていたから何もできていないんだけど……


ラスカはもやもやとした気持ちを抱えながら、満足そうなローザイスの横顔を眺める。


「『歌姫』。あれだけの魔物の浄化をこんな短期間で終えるなんて、流石ね」

『ありがと〜』


褒められ、照れ笑いを浮かべるルイ。

一方、ディークリフトは退屈そうに指輪を弄んでいる。


「ここは平和なようだし、俺達は次の目的地を目指そうと思う」

「あ、待ってちょうだい。セレイーンのギルド支部からも、めぼしい情報を集めておいたの」


驚くほどの手腕の持ち主である。流石はセレイーンのギルドマスターといったところか。


さっさと部屋を後にしようとした青年は、卓上に拡げられた依頼書を見て渋々その場に留まった。


「浄化の依頼は問題なさそうだけど、厄介なのがこれね」


そう抜き取られた依頼書に目をやって、ディークリフトはあからさまに嫌な顔をした。


「……それは専門外だ」

「どうかしら?灰吹きから蛇が出るっていうこともあるのよ?」


うんざりと答える彼の反応は予測していたのか、彼女はさらりと受け流すと、その書類をレイへと手渡した。


その内容が気になるのは皆同じだったようで、少年がぱらぱらと依頼書を捲るのをじっと見ていた。


「ローザイスさんの言うことも、一理あるかもね」


レイの一言に、ディークリフトは面白くなさそうな表情を浮かべる。


「今までも、そういうことあったよね。伝染病から、奴隷狩りに。横領問題から、人型ドールにーーね?」

「これも人型ドールの仕業かもしれない、とでも言うのか」

「そこまではオレも分かんないよ、ディーク。でも、可能性はゼロじゃあない」


青年はふんっと鼻を鳴らすと、少年から依頼書を取り上げた。


「まったく……」


ざっと他の書類も全て手に取ると、彼は振り返りもせずに部屋を出て行ってしまった。




ーーー




「リークリフトは、行動が……早い、ね……」


サーシュの言葉に、戸惑いが混じっているのも無理はないだろう。


ここは、セレイーンの王都からだいぶ離れた海沿いの街。建ち並ぶ建物はみな白く、強い夏の日差しを反射している。青い海と空によく映え、絵画のような美しさがあった。


そこへ潮風が合わさって、訪れた者を清々しい心地にさせるーーこんな時でなければ、ゆっくりと観光してまわりたいものだ。


「ディークは人形(ドール)を追い求めているからね。そして、それが生きる意味だと思っている」

「生きる、意味……」


サーシュは複雑な表情を浮かべていたが、地図を見ているレイはそれに気がついていないようだ。


「着いたよ。まずは拠点を確保しなくちゃね」

「それなら、向こうの方はどうですか?」


ラスカが高台の方を指さすと、二人はすぐに頷き同意を示す。


「あそこなら、街を一望できるね」

「いいと……思う」


街中を移動し始めると、その地形が造り上げた独特な特徴を感じることができた。

この地はかなり高低差があり、段々と並ぶ建物は複雑に積み上げた積み木のように並んでいる。


坂道が多いのは当たり前のことだが、一見密集している建物の間にも複雑な小道がいくつも絡み合っていた。


近道に使えて便利だろうが、見通しが悪い。


「嫌な地形ですね」

「ほんと、そうだね。逃げる者には有利だけど、追う者には不利だろうな」


サーシュはというと、不安そうに周りの景色を見回しながら歩いている。


「……知らない、山道を……歩いてる、みたい」


どうやら、街にいながら遭難を体感していたらしい。




☆★☆★☆




「ここからも海が見えますよ!」

「けっこう……高い、ね」


案内された部屋で、ラスカとサーシュは窓の外を眺めていた。


だだっ広い草原で暮らしていた少年にとっては、圧倒されるものを感じるのだろう。おずおずと窓際から離れた彼と入れ替わるようにして、今度はレイがやって来る。


「意外と坂道が多かったね。すぐに道に迷いそうだよ」


サーシュとは対照的に、窓から身を乗り出すようにして街をざっと見渡していた。


「でも、予想以上に見晴らしがいい」


満足そうに頷くと、少年はぱっと窓から離れる。見晴らしがいい、というのは景色に感動していた訳ではないのだ。


ここなら、何か騒ぎが起きてもすぐに気がつくことができる、という意味でしかない。


レイはちゃっちゃと部屋に防音の為の結界をはり、別行動しているディークリフトとルイに連絡をとっていた。


短いやり取りの後で、少年は二人の方を見る。


「浄化の依頼の方も、もう終わっているみたい。オレはギルド支部に行くけれど、ラスカ達はどうする?」

「街を散策してみようと思います」

「ボクは……ちょっーー妾も共に行くぞ。こやつは骨がないからな」


煌が、サーシュへの苦言を言いつつ、ずいと表に出てくる。

二重人格とは、こうも性格の異なるものだろうか。いや、この二人の場合は憑依だったか。


憑依されているサーシュの立場が弱いように見えるのが少し不憫にも思える。


「じゃあ、日暮れ前にはここに戻るようにね」


そう言い残して宿を出るレイの後ろ姿を見ながら、煌は苦笑をうかべていた。


「ほんとうによく働く。ただ、少年の姿でいるのなら、もう少し子供らしく振る舞えばよいものを」

「しっかりしているのは長所でもあるんですけどね」


簡単に荷物の整理を済ませ、ラスカも出かける準備を始める。

準備といっても、お金を少し持ち、あとは大剣を背負うだけなのですぐに終わる。


「書類は持って行かぬのか?」

「依頼書は重要な情報なので、持ち歩かないようにしているんです。覚えているので大丈夫ですよ」

「なんと!」


煌は感嘆の声をあげると、まじまじとラスカを見つめた。


「ラスカは聡いのだな」

「あ、ありがとうございます」


意外な褒め言葉に思わず萎縮したのが、妙に滑稽になってしまった。

顔を見合わせた二人は、つい笑い合う。


「ほら、行きましょう!」

「そうだな」




潮風香る美しい街。




子供の消えた場所へ。


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