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LASKAー勇者は魔を追い旅をするー  作者: 朝舞
水の都、セレイーン
2/7

リアナという少女


「リアナ様!」


情けない声の男達に呼び止められるが、リアナと呼ばれた少女は構わずにレイとルイに近づいていく。

くりくりとしたその瞳は好奇心で輝いていた。


「魔神さん? 魔神さんなのです?? 初めて見たです!」

『はじめましてー。るーだよ』

「はじめましてです! わたしはここの守護者なのです!」


ルイが差し出した手を握り返そうとして、彼女は慌てて手を引っ込めた。


「火傷しちゃうです」

『あ、ごめんねー』


すぐに人間の姿に戻ったルイに、兵士達がほっと安堵の息を漏らす。


「もしかして、立ち入り拒否されちゃったです?」


門を指差して尋ねるリアナに、ルイはこくりと頷いた。


『うん。ちょっと、こまってたの』

「魔神さんは初めてだから、止められるのは仕方がないよです。えーっと……」


肩から提げていた小さな鞄を探り、少女は腕輪を取り出してみせる。


「これをつけてたら大丈夫だよです! はい、どうぞ」

「ちょっと待て」


彼女の動きをディークリフトが手で制し、厳しい目を向けた。


「それは魔道具だろう。どういう代物だ」

「あぁ、説明を忘れてたです」


青年に対して少しだけ首をすくめ、しかし怯えた様子は見せずにリアナは答えた。


「これをつけているのは、()()な存在だという証明になるのです。何かあった時のために、居場所が分かるようになってるのです」

「監視される、ということだな」

「怖い言い方をするとそうなるですね。どうするです? つけるのやめるのです?」

「む……」


まっすぐに尋ねられ、珍しく彼がたじろぐ。


「監視される以外はないのか?例えばーー」

「何もないよです〜。危ないヒトだったら最初から入国させないでしょです〜」


この問答に飽きてきたのだろう。リアナはつまらなそうに口を尖らせた。


「分かったわかった。それをつけよう」


お手上げだとでもいうように、ディークリフトの方が折れた。

それを聞いて二つの腕輪を手渡そうとした少女に、今まで空気と化していた兵士が口を挟む。


「あ、リアナ様。そこの三人も腕輪が必要です」

「え?みんな()()なのです?」


驚いたような声のあと、少女は目の前の青年を見上げた。先程のむくれた表情はどこへやら、頬を紅潮させながら目を輝かせる。


「いろいろ調べたいです……」

「そういうことなら、俺じゃなくてこっちで頼む」

「え?」


唐突に指し示され、ラスカは内心どきりとする。これは身代わりにされたのでは?と悶々としていると、彼はぽつりと付け足した。


「どこの誰なのか分からないからな」

「ディークリフトさん……」


失った記憶を取り戻すための手がかりにならないか、機転をきかせてくれたのだろうと思い直す。


「それに、面倒くさそうだからな」

「…………ディークリフトさん……」


ひっそりと聞こえた青年の本音に、肩を落とさずにはいられなかった。




ーーー




セレイーン。

魔道具が発達しているその国の王都が、なぜ水の都と呼ばれているのか。

それは、街中に張り巡らされている水路が由来だ。


海岸沿いにある王都は貿易が盛んで、港から発展した

水路は道路と同じように重要な交通手段となっている。観光のためのものも多いが、人々が日常的に利用している船も少なくはない。


「なんだか賑やかな雰囲気ですね」


あちらこちらに色鮮やかな旗が吊るされている。最近飾られたばかりなのだろうか、どれもまだ新しいように見えた。


「パレードの準備なのです」


ラスカと手を繋ぎながら歩いていたリアナが答える。しっとりとした柔らい小さな手が心地よい。案内役を買って出た彼女に連れられて、今は王都を歩いているところだ。


「滅多に見られないと思うよです。わたしも楽しみにしているのです」


話しながら、少女はぴょんぴょんと飛び跳ねる。緩やかに波打つ彼女の髪の毛が、つられて揺れた。


「ディーク。こんな時期にパレードなんてあったっけ?」

「聞いたことないな」


レイとディークリフトの会話を背中に聞いていると、リアナがちょんちょんと手を引いてきた。


「あっちにある大きな建物が、ギルドだよです」


そう指さされた運河の向こう側に、その建物は佇んでいた。

積み上げられたレンガの壁に、赤い屋根が美しい。大きな窓は等間隔で並んでいて、目の前を流れる運河の水面が反射している。


趣はあるが、やはりギルド。室内では冒険者達の快活な声が飛び交っていた。


「わ……広いね……」

『すごーい!』


萎縮しているサーシュの側で、ルイは高い天井を見上げてはしゃいでいる。

ディークリフトはというと、魔道具らしきものを見つけては、物珍しそうに眺めていた。


「ラスカ、受付の方に行こうよ」


レイがガラガラのカウンターを指差して言う。昼時ということもあり、そちらよりも飲食スペースの方が賑わっているようだ。


「そうですね、今のうちに済ませちゃいましょう」

「わたしも行くです!」


繋いだ手をぎゅっと握るリアナに、ラスカは笑って頷いた。





「こんにちは、ギルドへようこそ」


受付嬢は二人ににこやかに挨拶をした後、ラスカの手を握ったまま離れようとしないリアナに気がついた。


「あら、リアナ様!」

「この人達に、案内をしているのです。今はお仕事中なのです」

「そうでしたか、お疲れ様です。ーー今回は、どういった御用でしょう?」


胸をはる少女に相槌を打ってから、受付嬢は二人に向き直り尋ねる。ちらりと、腕輪の存在を確認したようだった。


「ギルドマスターに会いたいんだ。アレスティアのギルド本部からの紹介状も持ってきた」

「確認いたします。しばらくお待ちください」


受付嬢はレイから封筒を受け取ると、席を外す。

その後ろ姿わ見届けて、リアナは関心したように少年を見上げた。


「魔神さんはしっかりしてるん……んぅ?」


少女の言葉は、レイに口を塞がれた事で途切れてしまう。

少年はすぐに手を離すと、そのまま人差し指を自分の唇に当ててみせた。


「リアナ、それは秘密なんだよ。みんなを怖がらせちゃうからね。オレの事は、レイって呼んでよ」

「分かったです!」




ーーー




その翌日。


セレイーンの王都は喜色で溢れていた。

街では楽団の陽気な音楽が響き、あちらこちらでは露店が立ち並ぶ。


人々は一際大きなこの水路に詰め掛けては、手にした小さな国旗を振って見せている。





水路を進む、立派な船に乗っている四人に向けて。


そのうちの一人、ディークリフトがぽつりと口を開いて言った。




「なぜこうなった」

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