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LASKAー勇者は魔を追い旅をするー  作者: 朝舞
水の都、セレイーン
1/7

ちょっとした騒ぎ

シリーズⅡスタートしました!

LASKAー勇者はとりあえず依頼をこなすー

の続編です。

初めての方は、LASKA(作 朝舞)からお読みください。


「さて、どうしたものか」


長い銀髪の間から、切れ長の目が静かに前を見据えている。完璧なラインを描いた美しい彼の横顔は、どこか憂い気に熟孝している……ようにも見える。


ディークリフトはただ気怠く呟いただけだろうが、彼の美貌は簡単に理想を形にするのだ。


青年を先頭に旅を続けて、目的地であるセレイーンの王都を目前とした一行だったが、どういう訳か立ち入らずにいた。


「何か問題があるんですか?」


ぞろぞろと巨大な門をくぐっていく人々を遠目に見ながら、ラスカは首を傾げる。

必要なものは、身分証明書といくらかの通行料くらいだ。そのどちらも揃っているというのに、なぜ遠目から様子を伺っているのか分からない。


「あの門だ」


ディークリフトにくいっと顎先で示されたその門は、たしかに変わった造形をしていた。その大きさもさることながら、柱や壁に複雑な紋様が刻まれている。


だが、それだけだ。


そこへ、まだあどけなさの残る少年の声が割って入る。


「セレイーンは、アレスティアと同じように多民族を受け入れているんだけどね」


言葉の足りない青年に代わり、この少年……レイが補足で説明するのはいつものことだ。


「素性をごまかされないように、あの門には何か仕掛けがあるみたいなんだ。王都は、特に管理がしっかりしているんだよ」

「あぁ、だから警戒しているんですね」

「オレとルイは、もう何度か素性を明かされてしまっているからね……」

『ね〜』


レイとよく似た少女が、浮かない様子の彼とは対照的に、朗らかに相槌を打つ。

二人は双子の兄妹という()()だ。


その時、ディークリフトの目から気怠さが抜け落ちた。


「あぁ、そうか。そうだったな」


どうやら、解決策がうかんだらしい。




☆★☆★




門には複数の通路があり、人間、獣人、魔人、その他の種族で分けられていた。

一行は人間の列に並び、


ピーーーーーー!


「……ん?」


順番がまわってきたディークリフトが先にそこを通過すると、警鈴が鳴り響いた。


もちろん、すぐに門番に止められる。


ピーーーーーー!

ピーーーーーー!

ピーーーーーー!


……全員止められた。


ピーーーーーー!


「あれ……?」


ラスカの後に門を通った少年が、おっとりと目を瞬かせる。


「え、サーシュさんもですか?」

「そう、みたい……」


彼は、四人の旅に同行している()()だ。

冒険者として共に行動するようになったのは最近の事だが、以前に共闘した事がありーー


「お前達、ついて来い」


つらつらと説明している暇もないらしい。武装した兵に囲まれて、五人は仕方なく場所を移動する。


「一人ずつ、ここに立ってみろ」


門の一番端。確か、その他の種族専用の通路だ。

ずいぶんと大雑把な振り分けだが、三大種族以外は数が少ないのでまとめられたのだろう。


威圧感のある兵達の態度に顔をしかめながらも、ディークリフトが渋々通路の前に立った。正確に言えば、通路の前に設置された魔道具の上に立つ。


すると、そこに鏡があるかのように人影が立ち昇った。人だと認識できる程度で、その姿ははっきりとは見えない。おまけに、謎の強い光を放っていた。


「人間離れしてはいるが、人間だな。よし、いいぞ」

「なんだ、この言われようは」


男の言葉に、彼は不機嫌そうに魔道具を降りる。




「次は、サーシュさん乗ってみてよ」

「え……?」


レイに背中を押され、戸惑いながらも少年が前に出る。

すると現れたのは、彼とよく似た人影と、もう一人の影。


「人間……だが、二人だと?!」

「これって……」


騒めく兵達をよそに、サーシュは人影に手を伸ばした。


「もしかして……煌?」


とたんに、その若草色の瞳が暗くなる。


「おぉ、これは妾なのか。こんなものまで映すとは、この魔道具もよくできておる」

「あ、サーシュさんの身体には、煌さんという別の人格が憑依しているんです」


呆気にとられる兵達に、ラスカは簡単に説明する。それを聞いた彼らは、揃って少年に同情の眼差しを向けた。


「憑依ということは、取り憑かれているのか?大変だな……。さぁ、降りていいぞ。」

「取り憑いているとは失礼な。……煌、怒らないで、ね?」


煌は途中で引っ込んでしまったらしく、後には困った表情のサーシュが残された。




『つぎ、るーがのる!』


ルイがぴょんっと飛び乗ると同時に、ザアァッと勢いよく何かが吹き上がった。


「なんだ?!」


驚きの声を上げる兵達の前で、人間ではなく、獣人でもなく、魔人でもなく……ヒトの形さえ為さずに、ただ眩いばかりの光だけが映し出される。


「お前、ヒトじゃないな?!!」


兵士達が一斉に武器を向け、ルイを包囲した。

少女はきょとんと彼らを見上げたあと、首を傾げた。


『そうだよ?』

「何者だっ!」

『えっと、いっちゃだめって……』

「いいから言え!」

『だって……』

「仕方ないな。……ルイ」


困った様子の彼女に、レイが声をかけた。少女とよく似た彼にも、男達は警戒心を顕にしている。


「おじさん達はこれが仕事なんだから。ちゃんと教えてあげなくちゃね」


少年の言葉に、彼らは動けずにただ武器を構えていた。双子の兄妹はまだ子供で、自分達は圧倒的に優位だと思っているはずなのだが、緊張に身体を縛られている。


それは、未知の存在に対しての畏怖。


「ほら、ぼんやりしてたらだめだよ。しっかりと見てないと」


くつくつと笑う少年の肌が、水晶のように透き通っていく。金糸のような髪は氷柱のように色味を失い、碧い瞳は神秘の輝きを増す。

躯体には古めかしい紋様が浮かび上がる。


『るーも!』


身を翻した少女は一瞬にして、少年と同じような姿に変わった。ただ、少し色味が違う。レイが氷だとすると、ルイは炎を思わせる。


「俺の従魔だ。見ての通り、魔神だ」


言葉を失い、腰を抜かしている男達に、ディークリフトがさらりと言う。

そう、これが彼の思いついた()だった。




『人外であることが見破られたなら、それを演じればいい。ただ、使徒であることは隠さなくてはいけない』


この世界に存在するもので使徒に一番近い、魔神になりきってしまおうというのだ。

伝説の魔神の真偽までは分からないだろう、と。

なんとも大胆で非現実的な策だが、レイとルイの力の強さを考えると一番説得力があった。


「さすがに目立つから人間の姿にしていたんだが、このままの方が良かっただろうか」


ディークリフトは男達に一応問いかけるが、まともに答えられる者はいないようだ。


「わ、わわ!何の騒ぎなのです?!」


その時、どこかおかしな口調の幼い声が響いた。

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