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私は猫

作者: OKI10

百合ものに違いない。

私は猫。

そう、あのニャーニャー鳴く猫なの。

でも普通の猫とちょっと違うのはね、尻尾が二つあるところ。

猫又って呼ばれてるの。

妖怪なのよ、化け物なのよ。

普段は人の少ないお山の穴に住んでるの。

時々外に出て、ご飯を食べに行ったりするの。




でもね、私はその中でも変なの。

人間に恋しちゃったの。

ランドセルを背負った女の子に恋しちゃったの。

笑いながら友達と話してる顔が、雰囲気がすごい素敵で、一目惚れだったの。

追いかけて、追いかけて、焦がれてた。

私は悩んだの、悩んだ末に人に化けることにしたの。

でも女の子の姿にしかなれなかった。私は雌だから。

だから私はうんと可愛く化けたの。うんと、その子にも負けないくらい可愛く化けたの。


その子が中学生になるときに、同じ学校に入ったの。

入学式の時に、おんなじ教室のあの子に真っ先に話しかけたの。


なんて言ったかは覚えてない、緊張してたから。

「その髪飾り素敵だね」とか「その筆箱かわいいね」くらいだったと思う。

でもあの子は喜んでくれたの、いっぱいお話ししたの。私はその時「音子」って名乗ってたの。その子は「桜」って名前だったの。


なんとか桜ちゃんとお友達になって、私は幸せだったの。桜ちゃんは人気者で、私以外にもいっぱいお友達がいたの。おかげで、その桜ちゃんとお友達の私にもたくさんお友達ができたの。


楽しかったなあ、お友達と、色んなところに行ったの!ご飯を食べるのもしばらく忘れるくらい楽しかったの。

皆私の家に来たがってたけど、それはお断りしたの。だってお山の穴だもの、怪しまれちゃう。


でもね、ひとつだけ苦しいことがあったの。

時々、桜ちゃんが補修って言うのに捕まって、いつもは一緒に帰ってるんだけど私だけで帰る日があったの。

そういう日はね、私いつも河原に寄って、花占いをするの。花占いって分かるかな、花びら一枚一枚取ってって、好き、嫌い、ってやるの。

それをやってたらね、桜ちゃんに追いつかれちゃったの。


「音子ちゃんもそういうことするんだ!誰が好きなの?教えて教えて〜」


私が好きなのは桜ちゃんなの。でもね、それは言えないの。気持ち悪がられちゃう。

なんて答えたらいいかわからなくて、苦しくて苦しくて、泣いちゃったの。

桜ちゃん、慌ててなだめようとしてくれたなあ...


そのあとにね、私が泣き止んだ頃に桜ちゃん言ったの。

「私も好きな人ができて」って。

私、涙も忘れて固まっちゃった。その好きな人っていうのは、部活の先輩の男の人だったの。スラっとして、かっこいい人なの。

「私、先輩が卒業しちゃう前に告白しようと思うんだ」

そういう桜ちゃんをね、私は「頑張って、音子も応援してるから」って励ましたの。




おうちの穴に帰ったあとで、散々泣いた。ついにくたびれて人から猫に戻っちゃうくらい。

私が男の子だったらどんなにいいか。桜ちゃんと真っ当な恋ができたなら。自分が雌に生まれたことを責めたの。

でもその次の日はきちんと学校に行って、桜ちゃんの相談に親友として乗ってあげるの。健気でしょ?

帰って泣いてすっきりして、学校ではお友達として笑い合って...へんてこな毎日だったの。


しばらくしてね、卒業式の時期にお電話かかってきたの。桜ちゃんからでね、先輩とお付き合いできることになったんだって。

私は心の底から祝福したの。涙混じりになったの。

「音子ちゃんが泣くことないじゃん」

桜ちゃんに笑われちゃったの。

お電話切った後でもね、涙は止まらなかったの。




高校にあがってからも桜ちゃんとはお友達だったの。桜ちゃんと先輩はお付き合いを続けてたの。

少しずつ私の心にも区切りがついてきて、高校を出たら山に戻ろうと思ったの。ふつうに猫又として生きようって思ってたの。




でもね、事件は起こったの。

おうちに帰って進路課題に「大学はいきません」って書いてる時、お電話かかってきたの。

桜ちゃんから、先輩に捨てられたって。浮気されて挙げ句の果てに捨てられた、って。


私は怒ったの。私の好きな桜ちゃんを傷つけた先輩に怒ったの。だから先輩のところに行って、ずたずたにしてやったの。浮気相手の女ごと、一緒にずたずたにしてやったの。

それで、私のご飯になってもらったの。




しばらくして失踪事件って形でニュースになって、それを見た桜ちゃん、不謹慎だけどって言いながら喜んでたの。

その日の放課後ね、久しぶりに一緒に帰って、一緒に喜んだの、手を取ってぴょんぴょん跳ねてたの。そしたらね、私の髪の毛から何かが落ちたの。


それね、桜ちゃんが先輩とお付き合いしてるときに、先輩にあげたピアスだったの。ずたずたにしたときに私の髪に絡まっちゃってたみたい。


それを拾ってね、桜ちゃん真っ青になったの。

「音子ちゃん...もしかして...」

そう言うとね、桜ちゃん逃げ出しちゃったの。

追いかけようとしたけど、追いついたところで私、なんて言われるか分からなかったからやめたの。




とぼとぼ一人でお山まで帰ったの、明日なんて桜ちゃんに言い訳しようって思いながら。

お山まで来たからね、少しだけ化けるのも手を抜いてたの、尻尾とお耳が生えてたの。

そしたらね、後ろから声がしたの。


「なんでこんなところにいるの...音子ちゃん...」


桜ちゃんだったの、つけてきてたらしいの。


「この辺、家とかないよね。音子ちゃんどこに住んでるの?山が家だとか言わないよね!?それで、その尻尾と耳は何なの!?」


桜ちゃん、真っ青のままでまくしたてたの。

でね、最後にこう聞いたの。


「音子ちゃん、一体何者なの...?」


そう聞かれたからね、私は髪を風になびかせながら、夕焼けの中お山を背にこう言ったの。




「妖怪なのよ、化け物なのよ」


でね、言葉を失う桜ちゃんにこう言ったの。


「ずっと前から好きなの、桜ちゃん。だから...ひとつになろ?」




〜〜〜





お話はここまでなの。

この後桜ちゃんとはお別れしたの、悲しかったけど、ひとつになれたからいいの。


...あ、でもまた少しお別れの時が来たのかも。少しお花摘みに行ってきますなの。覗いちゃダメなのよ?








お花摘みに行く前にもう一つだけ言っておくの。


お別れの言葉は、さよなら、じゃなくて、ごちそうさま、なの。

百合を書きたかったのに。

どうしてこうなったし。

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