私は猫
百合ものに違いない。
私は猫。
そう、あのニャーニャー鳴く猫なの。
でも普通の猫とちょっと違うのはね、尻尾が二つあるところ。
猫又って呼ばれてるの。
妖怪なのよ、化け物なのよ。
普段は人の少ないお山の穴に住んでるの。
時々外に出て、ご飯を食べに行ったりするの。
でもね、私はその中でも変なの。
人間に恋しちゃったの。
ランドセルを背負った女の子に恋しちゃったの。
笑いながら友達と話してる顔が、雰囲気がすごい素敵で、一目惚れだったの。
追いかけて、追いかけて、焦がれてた。
私は悩んだの、悩んだ末に人に化けることにしたの。
でも女の子の姿にしかなれなかった。私は雌だから。
だから私はうんと可愛く化けたの。うんと、その子にも負けないくらい可愛く化けたの。
その子が中学生になるときに、同じ学校に入ったの。
入学式の時に、おんなじ教室のあの子に真っ先に話しかけたの。
なんて言ったかは覚えてない、緊張してたから。
「その髪飾り素敵だね」とか「その筆箱かわいいね」くらいだったと思う。
でもあの子は喜んでくれたの、いっぱいお話ししたの。私はその時「音子」って名乗ってたの。その子は「桜」って名前だったの。
なんとか桜ちゃんとお友達になって、私は幸せだったの。桜ちゃんは人気者で、私以外にもいっぱいお友達がいたの。おかげで、その桜ちゃんとお友達の私にもたくさんお友達ができたの。
楽しかったなあ、お友達と、色んなところに行ったの!ご飯を食べるのもしばらく忘れるくらい楽しかったの。
皆私の家に来たがってたけど、それはお断りしたの。だってお山の穴だもの、怪しまれちゃう。
でもね、ひとつだけ苦しいことがあったの。
時々、桜ちゃんが補修って言うのに捕まって、いつもは一緒に帰ってるんだけど私だけで帰る日があったの。
そういう日はね、私いつも河原に寄って、花占いをするの。花占いって分かるかな、花びら一枚一枚取ってって、好き、嫌い、ってやるの。
それをやってたらね、桜ちゃんに追いつかれちゃったの。
「音子ちゃんもそういうことするんだ!誰が好きなの?教えて教えて〜」
私が好きなのは桜ちゃんなの。でもね、それは言えないの。気持ち悪がられちゃう。
なんて答えたらいいかわからなくて、苦しくて苦しくて、泣いちゃったの。
桜ちゃん、慌ててなだめようとしてくれたなあ...
そのあとにね、私が泣き止んだ頃に桜ちゃん言ったの。
「私も好きな人ができて」って。
私、涙も忘れて固まっちゃった。その好きな人っていうのは、部活の先輩の男の人だったの。スラっとして、かっこいい人なの。
「私、先輩が卒業しちゃう前に告白しようと思うんだ」
そういう桜ちゃんをね、私は「頑張って、音子も応援してるから」って励ましたの。
おうちの穴に帰ったあとで、散々泣いた。ついにくたびれて人から猫に戻っちゃうくらい。
私が男の子だったらどんなにいいか。桜ちゃんと真っ当な恋ができたなら。自分が雌に生まれたことを責めたの。
でもその次の日はきちんと学校に行って、桜ちゃんの相談に親友として乗ってあげるの。健気でしょ?
帰って泣いてすっきりして、学校ではお友達として笑い合って...へんてこな毎日だったの。
しばらくしてね、卒業式の時期にお電話かかってきたの。桜ちゃんからでね、先輩とお付き合いできることになったんだって。
私は心の底から祝福したの。涙混じりになったの。
「音子ちゃんが泣くことないじゃん」
桜ちゃんに笑われちゃったの。
お電話切った後でもね、涙は止まらなかったの。
高校にあがってからも桜ちゃんとはお友達だったの。桜ちゃんと先輩はお付き合いを続けてたの。
少しずつ私の心にも区切りがついてきて、高校を出たら山に戻ろうと思ったの。ふつうに猫又として生きようって思ってたの。
でもね、事件は起こったの。
おうちに帰って進路課題に「大学はいきません」って書いてる時、お電話かかってきたの。
桜ちゃんから、先輩に捨てられたって。浮気されて挙げ句の果てに捨てられた、って。
私は怒ったの。私の好きな桜ちゃんを傷つけた先輩に怒ったの。だから先輩のところに行って、ずたずたにしてやったの。浮気相手の女ごと、一緒にずたずたにしてやったの。
それで、私のご飯になってもらったの。
しばらくして失踪事件って形でニュースになって、それを見た桜ちゃん、不謹慎だけどって言いながら喜んでたの。
その日の放課後ね、久しぶりに一緒に帰って、一緒に喜んだの、手を取ってぴょんぴょん跳ねてたの。そしたらね、私の髪の毛から何かが落ちたの。
それね、桜ちゃんが先輩とお付き合いしてるときに、先輩にあげたピアスだったの。ずたずたにしたときに私の髪に絡まっちゃってたみたい。
それを拾ってね、桜ちゃん真っ青になったの。
「音子ちゃん...もしかして...」
そう言うとね、桜ちゃん逃げ出しちゃったの。
追いかけようとしたけど、追いついたところで私、なんて言われるか分からなかったからやめたの。
とぼとぼ一人でお山まで帰ったの、明日なんて桜ちゃんに言い訳しようって思いながら。
お山まで来たからね、少しだけ化けるのも手を抜いてたの、尻尾とお耳が生えてたの。
そしたらね、後ろから声がしたの。
「なんでこんなところにいるの...音子ちゃん...」
桜ちゃんだったの、つけてきてたらしいの。
「この辺、家とかないよね。音子ちゃんどこに住んでるの?山が家だとか言わないよね!?それで、その尻尾と耳は何なの!?」
桜ちゃん、真っ青のままでまくしたてたの。
でね、最後にこう聞いたの。
「音子ちゃん、一体何者なの...?」
そう聞かれたからね、私は髪を風になびかせながら、夕焼けの中お山を背にこう言ったの。
「妖怪なのよ、化け物なのよ」
でね、言葉を失う桜ちゃんにこう言ったの。
「ずっと前から好きなの、桜ちゃん。だから...ひとつになろ?」
〜〜〜
お話はここまでなの。
この後桜ちゃんとはお別れしたの、悲しかったけど、ひとつになれたからいいの。
...あ、でもまた少しお別れの時が来たのかも。少しお花摘みに行ってきますなの。覗いちゃダメなのよ?
お花摘みに行く前にもう一つだけ言っておくの。
お別れの言葉は、さよなら、じゃなくて、ごちそうさま、なの。
百合を書きたかったのに。
どうしてこうなったし。