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最強はドラゴンと出会う

能力バトルものは大好きなのですが、ここは一旦箸休めの日常回です…。

「ヌル君~お腹すいた~」


「雑草でも喰ってろ…。」



物凄く濃い入学式の日を終え、翌日の土曜日。

休日ではあるが、この日は教科書などを買い揃えるための日であり実質的にゆっくり休める日ではなかった。

そもそも、ゆっくり休むことも普通は必要無いのだろうが昨日起きたことがあまりにも多くて頭の中で整理をつけなければやっていられなかった。


それなのに。


この女は暢気に朝っぱらから八神の家へ押しかけ、空腹を訴えていた。

時刻は朝の8時半。休日の朝にしては少々早い時間だった。

…あれ、早いよね?


「あ、ねえこの魚焼いて食べたらおいしいんじゃない?」


八神の部屋のリビングに置かれている、横幅60cmの水槽。

そこに泳いでいる大型のフグの仲間がぎょっとした顔でこちらを見る。


「そいつはフグだ。淡水フグ。喰ったら毒で死ぬぞ。そもそも大事なペットを喰おうとは随分と不届き者だなお前は。」


「そうかフグか…料理の能力があれば食べれるかな。」


「だから喰おうとするなって!」


てっちりやふぐさしになることを恐れて、水槽のフグは中に置かれている隠れ家に引っ込んでしまった。


八神の大きな声と同時に、テーブルの上に並べられるベーコンエッグとトースト。二人分。


「女子力高い!!」


「お前が低いんだよ…。知り合って二日目の異性の部屋に朝っぱらから来るな。」



引越しすらままならないかと思いきやそうでもなく、学校の制度で家財道具などは全て当日に配布されていた。

というか、昨日このアパートの部屋に入居をするためのサインをスマホ型の学内パスポートにしたところ、即座に必要最低限以上の家電製品が運ばれてきた。多分、局長のような物質転移系の能力だろう。


洗濯機は洗い物を放り込んで好きな香りを選択すれば全自動で乾燥まで行って柔軟剤まで付けてくれるもの。掃除用ロボットもかなり使い勝手がよい。至れり尽くせりと言っても過言ではない。


また、ほぼ全ての生徒は実家からここ学園都市を拠点にして生活をする。実家から通学する生徒は1割にも満たないらしい。

そのためその引越しなども全て行ってくれる。

勿論、人を介する必要も無く全て能力によって行われた。


だから二日目にして、八神の部屋はもう何ヶ月も前から住んでいるような家具の配置になっていた。


しかし、ユリナといえばそうでもなかった。

昨日の騒動の後、せっかくだからと昼飯も共に食べた(アイスも勿論奢らされた)のだがその時に聞かされたのは、両親は既に他界していること。

サイノウ派からの追放抗争に巻き込まれ、事故に見せかけられて殺害されたらしい。

その際にユリナも殺される手筈だったが、能力が開花しその盾で自らを守って生き残ったそうだ。無自覚だったようだが。


だから、ユリナは両親が居ないおかげで支給された家財道具以外は何も持っていない。

今までは施設から義務教育過程に通っていたからだそうだ。



「だからといって俺のところに飯を食いにくるとは…。」


「ボディガード代として当然よね!」


「俺は頼んじゃいないけどな…。」


呆れる八神は指先で飼っているペットを呼び寄せる。ちょいちょいと。

人の膝下くらいの小型犬のような生き物だった。しかし、普通の犬と違って尾は2本、ふさふさの毛でカールしていて体毛は全体的に明るい緑色をしていて、瞳は真っ赤だ。


「その小さい動物は?初めて見るけど…。」


「こいつは『クー・シー』っていう生き物。犬の仲間ではあるが、固有の能力を持ってるんだ。」


「へぇ~可愛いね!能力が使えるの?」


小さい緑色の生き物は八神のほうへ駆け寄り、ベーコンを貰う。


「人間の持つ能力よりは遥かに弱いけどな。クーシーは癒しの力を唾液に持っている。舌で舐めると傷口がふさがるんだ。それにクーシーは特殊な動物種で、種全体が国によって守られてる。

 あぁ、普通の犬にはベーコンをやっちゃならんぞ。塩分が多すぎる。」


「えっ、そんな生き物を飼っていいの?」


「俺の親が特定動物種保護管理官をやっていてな、たまーに家に野外で保護した動物を持って帰ってくるんだよ。

 で、このクーシーは俺に懐き過ぎて俺の親に向かって噛みつき出す始末だったからそのまま飼育を引き受けてるだけだよ。そのうち元いた場所に返すさ。」


「ふぅんかわいいね、きみ!」


ユリナが撫でようと手を伸ばすがクーシーはひらり、とかわす。そして噛み付こうとする。


「あっ」


しかし、ユリナの盾が手のひらを覆いクーシーの牙は透明な壁に阻まれる。

そのまましばらくガジガジと噛んでいたがやがてやめた。


「びっくりした…」


「クーシーって生き物が高貴なる生き物でな、犬扱いして触ろうとすると噛み付くんだ。まぁ、こんな小さくては噛まれても痛くないし、ユリナには盾もあるし別に止めなかったが…。」


「盾があるからって随分扱いがぞんざいじゃない?」


「朝っぱらから朝飯強請(ねだ)りに来る奴を丁重に扱うのも無理がある。」


「わぅ。」


クーシーも同意の様子だ。


「冷たいなあ…この子とヌル君は契約してるの?」


遣い魔(つかいま)のことか?遣い魔はこいつじゃないよ。元々野生の個体だからな。俺の遣い魔は、この子。」


八神が指を鳴らすと、リビングの奥から小さな白い生き物が飛んできた。


「わぁ!?これってドラゴン!?」


「『ジパング・ホワイトウイング』っていうドラゴンだ。俺が7歳の時に誕生日プレゼントとして貰って契約した遣い魔。最初は卵だったから、刷り込みで俺を親だと思ってる。」


白いドラゴンは蛇のような二又の舌で八神の顔を舐める。

爬虫類というよりは、毛がふさふさしているせいで哺乳類のような印象を受ける。しかし、翼などには皮膜や鱗がちゃんとあり、頭にも小さな角が生えていて爬虫類の仲間であることが容易に分かる。


『遣い魔』は、能力者がまだ魔法使いと呼ばれていた頃からの名残だ。どんな動物と契約しようが、契約者と対象動物だけの決められた呪文でその場に召還できて使役できる。

現代では契約する動物も保護種だらけになってきて簡単には遣い魔とは契約できない。使役するには契約が必要ではあるが、単純に飼うだけなら飼育許可申請だけでいいのでこれで終わらせる人も珍しくは無い。

八神は、親が元々遣い魔などの動物を保護する仕事をしていたおかげからか、幼い頃からこの白いドラゴンと契約していた。



「いいなぁ、遣い魔。というか、ドリョク派でも遣い魔との契約自体は制限されてないんだね。」


「あくまで人間の能力の開花を物理的に制限されてるだけだからね。親の能力を使うところは見たことあるし、能力の使用が解禁されるのが高校以上ってだけだよ。それ以外はきっとサイノウ派と変わらないはず。」


「勉強になる…。その子名前は?」


「『バニラ』だ。何もトッピングなどを施してない純白の体だからこの名前になった。な、バニラ。」


「うぉう。」


小さなドラゴンは笑顔で答える。


「バニラちゃんね。よろしく!」


「ユリナは今日遣い魔を選びに行くのか?この学校では契約は自由だし、必須ってわけじゃないけど。」


「そうね、落ち着いたら、にしようかな。それに今のままじゃ契約しても可哀想だし…」


少し悲しそうにするユリナに無言で乗っかるバニラ。

もふもふした体毛で顔を包み込む。


「わっ、前が見えない!いたずらっ子かー?」


「ドラゴンは人の心と自分の心をリンクさせるんだ。悲しそうにしてたら慰めに来るし、主人が嬉しそうだったらドラゴンも嬉しそうにする。バニラは賢いから客人にも心をリンクさせられるらしいな。」


「あーもふもふ!かわいい!私この子と契約する!」


「聞いてねえし…」


ユリナはしばらくバニラと遊んでいた…。

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