幸運は最弱に助力する
「あ、あぁ失礼した。双子の能力者、幸村兄妹だ。」
「お、おおう…?」
「幸村 フレイです。」「幸村 フレイヤです。」
よく似た金髪碧眼の美少年と美少女が自己紹介をした。
フレイの方が兄で、フレイヤの方が妹らしい。
おかしいな、こんなに目立つような容姿の二人がクラスにいたら気づくと思うんだが…
「皆この二人がいた事に気づいたものはいないだろう。1年間留学をしていたんだ。今日帰学する予定だったのだが、手違いが色々在ってな…入学式に間に合わなかったんだ。」
「留学ですか?」
「あぁ。我が校には留学制度がある。本来であれば、サイノウ派との交流のために設けられた制度だが、作られたその年から利用されることは無かった。そこで制度のみを利用して外国で1年間能力について学んできたのがこの二人だ。元々外国生まれということもあって、1年間飛び級していて、さらに1年間休学扱いになるからキミたちと同じ学年だ。ちなみに二人とも4月1日生まれだから年の差はほぼ無い。」
「よろしくな。」「よろしくね。」
「よろしく、ハッピーセット。」
「「だからぁー!!」」
息の合った双子のハーフはこれまた息の合った怒りかたをした。
そんな二人はさておき、八神が疑問を投げかける。
「ところで先生、なんで俺と相性が最高なんです?」
「あぁ、そのことについては彼らから説明してもらおう。」
「うん、八神くんだったね。僕らの才能は『言葉の才能』。フレイヤも同じだ。で、能力は『幸運』という。」
「幸運…」
あぁ、それでハッピーセットか。
苗字も幸村で幸せがつくしなあ…
「単純に言えば、行使した者を幸運にするっていう分かりやすい能力なんだけど、自分には使えなくてね…。能力を使うときに現れるこの『テントウムシ』が体についている限り、幸運が約束される。」
そう言って、フレイは手のひらにゴルフボールくらいの大きなテントウムシを出した。
知っているような赤色ではなく、全身が黄色い。
「フレイヤのほうの能力は少し違ってね、周りに居るだけで『恩恵』を受けられるタイプの能力だ。」
「私の能力は『強運』。『自動認識系』の能力だから、対象を強運にするってわけにはいかないの。この小さなキノコの周り、半径5m以内の人間に幸運が訪れるって能力よ。」
フレイヤは、手のひらに少し小さめの真っ赤で白の水玉模様のあるキノコを生やした。
あまりおいしそうには見えない。むしろ毒キノコにしか見えない…。
「…チートすぎないですか…」
八神が顔を引きつらせる。
「思ったよりも強い能力じゃないよ。不幸は起きないけれど、あくまで、私たちは『運により確率を上げる』能力しか持たない。0%に何を掛けても0パーセントのまま。でも八神君の能力は何?」
「…そうか、不可能を不可能じゃなくする…。」
「えぇ。いくら小数点以下の僅かな可能性でも、私たちの能力で確率を跳ね上げれば向かうとこ敵無しってわけ!」
「まぁ、さすがに100パーセントまで確率を上げることはできないんだけどね。運だからそのときの運勢によって能力の強さも異なるし…。」
「いや…でも頼もしすぎる。これで本当に敵は居ないのかもしれない…」
と、八神が言うのも束の間。ユリナに頭を軽く叩かれた。
「おバカねヌル君。私たちは全総力上げても所詮2ndクラス。
全体的能力で言えば1stには及ばないわ。
ヌル君の能力と二人の能力が合わされば確かに強力だけど、その二人が言うように運任せって時点で頼りないところもある。その点は彼らも理解しているはずだわ。」
「…まぁ、そうだな。でもユリナの能力だって充分に強力じゃないか。もう少し自信を持っても…」
「そうね、確かに私の盾は何でも守れる。でも、1stには私と同じくらい強い能力を持ったものがたくさん居る。努力は怠らないことよ。」
サイノウ派生まれの子に、ドリョクを怠るなと言われタジタジになった八神だった。
「でも、私がキミを、皆を守るから。」
ユリナがニコッと笑った。どっちがヒロインなんだか分からん。
思わず、その笑顔に惚れそうになるもここで、授業終了のチャイムが鳴り、気は紛れた。ここから放課となる。
「よし、まだ全員は紹介できなかったが以上で今日の授業は終了だ。
月曜日までに構内を歩き回って色々見て回るといい。学園都市内の入れる場所は学内パスポートがあれば自由に使っていい事になっているからな。」
「はい!」
「よし、じゃあ解散だ。また、来週!君たちと出会えてよかった!」
熱血先生は透き通ったいい声で解散の宣言をした。
放課後は音沙汰たちと寮を見る予定だったのだが、彼らの寮が決まってしまったため、ユリナに誘われるがままにアパートへと向かう。
概観がとてもぼろいが、古びた感じがそう悪くない雰囲気にしている。
外壁の色はくすんだオレンジ色で、サンセットマンションという名前だった。
…まぁ、ここの地名は夕陽丘だから安直と言えば安直だが。
一般学生寮と違って、6部屋しかない小さなアパートであったが、上空に小さな人工太陽が浮かんでおり普通の太陽と同じように動作していたため日当たりは本当に問題ないようだ。
「へぇ…。じゃあ観葉植物とかも育てられるな。」
「あら、案外そういうのが好きなのね。」
「まぁな。変わった植物や動物を飼うのが好きでね。」
「このアパート動物オッケーだったかなぁ…。」
「おいおいそれは聞いてないぞ…動物可じゃなかったらペットたちが…」
「それなら問題はないですよ、ミスターヌル。ここはペット可のマンションですから。」
アパートの一室から銀髪の小奇麗な女性が出てきた。
まだ20代にも見える。
「み、ミスターヌルって…ええと、管理人さん?」
「えぇ。私は天野 灯。能力は見ての通り、人工太陽よ。よろしくね。」
「灯さん、私と一緒にヌル君もこのアパートに居住って可能ですか?」
「え?いやいや俺はまだここに決めたってわけじゃ…」
「えぇ、勿論歓迎するわ。早速お部屋の鍵を用意するわね。」
選択肢が無かった。
拒否権も無かった。
俺には初日や音沙汰のような才能を伸ばしてくれる寮はないのか…