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Null.

入学式も終わり、父兄らが学園ホールから去って一段落すると再び生徒たちはホールに集められる。

クラス分けの儀を執り行うのだそうだ。

大きな装置が学園ホールのステージにあり、そこで機械によってクラスが組み分けられる。

一人ひとり、装置の前へ行き分析をしてもらわないとならないためかなり時間はかかるがこれがこの学校の醍醐味でもある。また、これは全校放送で全ての学年に生中継で放送されていて、先輩たちはこれで後輩たちの名前や顔を覚えるのだそうだ。

最初は、音沙汰の能力判定だった。



『名前:音沙汰 真。サイノウは、音楽のサイノウ…。分類:特殊系。能力【強弱(ダイナミクス)】・クラス2nd』


「俺の能力は、強弱(ダイナミクス)っていうのか…。名前からして強そうだな。」


「その分、扱いが難しそうだがな。弱くもなりそうだ。」

からからと、初日が笑う。



『初日さん。』


「おっと、俺の番らしい。行ってくる。」


機械に名前を呼ばれ、ステージの上へ上がる初日。



『名前:初日 豊。サイノウは、機械のサイノウ…。分類:操作系。能力【機械操作(エンジニア)】・クラス2nd』


「おっ初日と音沙汰は同じクラスか。良かったな!」


「まぁそうなるんじゃないかとは思っていたよ。昔からずっと一緒だからな…。」


若干呆れ気味に言う。


「んなこたぁいい。次はほら、あの子だぞ…めちゃくちゃ可愛いじゃないか!」



透き通るような綺麗な髪、若干吊り目ではあるがきつい眼差しではなくしっかりとした瞳。顔立ちもこの国の人間にしては彫りが深く整っていて、容姿は一際飛び抜けている女の子だった。

実は、整列する時には八神のすぐ近くにいたのだが後ろにいたためすぐには気づいていなかった。


『山神さん。』


「はい。」

しかし、その子が機械の前に立っても分析が始まらない。

「…どういうことだろう?」


周りの生徒が首をかしげるとすぐに機械は話し始めた。


『…サイノウ派。』


「え?」


女の子は少しだけ狼狽える。

しかし、機械は無視して続けた。


『校長、思想そのものに敵意は感じませんが、彼女はサイノウ派の人間です。血筋のみ(・・・・)、ですが。よろしいのですか。』


「…バレちゃったか。そりゃそうよね。」


校長に向けて機械が疑問を投げかけた。

山神、と呼ばれた女の子は機械にすら聞こえないような小さな声でつぶやく。

機械の問いにすぐさま校長先生と思しき老人が、遠くの席から答える。

席がかなり離れていると言うのに、近くにいるように聞こえるのは、何かの能力なのだろうか。


「…能力判定機(スキルソーター)、我が校は両派共に受け入れる能力学校です。血筋が何です。サイノウ派がなんです。法律により、ドリョク派ばかりが住まう地域のこの学校は、主にドリョク派の人間が通うことになっていますがサイノウ派が通ってはならないという校則はありませんよ。取り締まる法律もありません。」


と校長が強くも、穏やかな口調で機械に言った。

周りの生徒や先生たちも落ち着かない様子だ。


『…しかし…』


「スキルソーター02。あなたも01のように破壊されたいのですか?」


『…いいでしょう。どうなっても責任は取りませんよ。彼女の能力は、優れている。』


「元々キミに責任は発生しない。」


機械は校長の話を受け入れ、続けた。


『…名前:山神(やまがみ) ユリナ。サイノウは…判定不能。分類:攻撃系。現在の能力:(リアー)。クラスは…1stに入れたいところですが、2ndにしましょう。』



「サイノウ派がうちのクラスに…」


「もう能力を使えるんだろう?一人勝ちじゃないか…」

周りの不安そうな声が彼女には聞こえたようで、


「…いえ、使えないわ。私の家族はサイノウ派から追放されてきたから…。」

彼女は少し、目を伏せてそういった。

その言葉を聞いているのかいないのか、別の生徒が口を挟む。


「でも、キミの生まれはサイノウ派なのだろう!いつこちらに仕掛けてくるか分からない人をこの学校にいれるなんて危険すぎる!スパイなんじゃないのか?」


八神たちよりはるか前に能力の判定が終わっている別のクラスの人のようだ。


「わ、私は人を傷つけるつもりなんて無いです。」


「そんな言葉が信じられるか。」


はき捨てるように、彼は言う。

一体どこのクラスだったか、ちゃんと聞いておけばよかったと八神は思った。


「それにだ。生まれた時から能力が使えるならば、この学年、いや学校一強いに決まっているだろ!みんな1からスタートするのに、こいつだけ贔屓じゃないか。」


「「そうだ!」」


「…だから能力は使えないって…」


同調するかのように、周りも声を荒げる。

今まで争いごとなんかこれっぽっちも起こらなかった生活が、能力を授かった途端にこれだ。

能力は、人を奮い立たせると同時に自信も過剰にさせてしまうのだろうか。

八神は見ていられなく、考えるより先に行動に出ていた。



「使ったことも無い能力を授かって調子に乗っているのかなんだか知らないが、途端に群れて1人を標的にするんじゃねえよ!サイノウ派がなんだよ!全員同じ人間だろ!

 最強がどうした!?そんなの努力してお前らが追い抜けばいい話だろ!彼女の能力を聞いていなかったのか?盾でどう人を傷つけるって言うんだ。」


「なんだお前!サイノウ派に肩入れする気か!」


「…過激派か。さては。」



過激派。

今までの歴史上、サイノウ派に虐げられてきたのは事実だ。ただ、今となっては遠い歴史の彼方に埋もれて現在ではそんなことはごく僅かだ。それすら許容できない人たちが過激派だ。

相手にすること事態、無意味な連中。ほとんどはこの話題になると話が通じない。


そのことは教員たちも分かっていたようで、次々と何らかの見えない力が彼らの口をふさぐ。口をパクパクさせるだけで、何も聞こえない。

行動を封じた、と言うよりは音を奪った…というような表現が正しいか。

しかし中には体を物理的に硬直状態にされている生徒もいたようで、度が過ぎているとは思うが…。

とりあえずは、いったん会場は落ち着いた。



「…さっきは悪かった。その…俺たちドリョク派はサイノウ派の人と話したことなくてさ。奴らを許せとは言わないが…。」


「別に気にしてないよ。どうせすぐにばれる事だったから。それに、庇ってくれてありがとうね。」


彼女は軽く微笑んだ。


「それならいいんだが…」


「それより、君の名前は?」


「俺は『八神 零(やがみ れい)』。よろしく。能力は、このあとわかる。」


「八神君ね。よろしく。クラスが同じだと良いけど。」


「そうだな。今は苗字の順番で並んでるだけだからな。」




とは言ったものの、八神は少しだけ怯えていた。

サイノウ派という存在自体、ドリョク派の人間は昔から敵対対象にあると教えられてきたからだ。

全てが野蛮で、好戦的…といわれてきたが、彼女を見るにそうは思えない。

容姿だけで人判断するのは少々どうかと思うが、それにしたってそんな戦闘民族のようには見えなかった。



『八神さん。』


「あ、はい!」



八神が機械に呼ばれる。とうとう自分の能力が分かる時がきたのだ。

果たして、どんな能力か。念動力(サイコキネシス)?風使い、いや精神干渉でもいいな…

と八神は妄想を膨らませる。



『名前:八神 零。才能は……』


「…ん?」


『才能は…「ドリョクをするサイノウ」』



「…ほう。」


「校長、これは…」


「うむ。今の二人…サイノウ派とドリョク派、二つを繋ぐ良いきっかけになるかもしれんな…。」


校長と教頭は期待の眼差しを八神に向ける。


しかし…


『能力は…ン?イヤ、…そんなハズ…?』


「お、おい、どうしたんですか?」


機械が狼狽えているおかしな様子を見て、こちらも狼狽えてしまう。言葉遣いがおかしくなっていることには気づいていないほどだ。

さらに機械はおかしな事を言い出す。



『…アナタ、本当にドリョク派ですか?』


「…俺の家族は代々ドリョク派だよ。山神さんと聞き方が違うようだが、サイノウ派じゃないことは分かっているんだろう?」


『それは分かっています…確認のため聞いただけです。』


「もうじれったいなぁ…」



『イイデスカ、よく聞いてください。貴方は、この学校で前例の無い、分類:該当ナシ。能力:『__ __』( ヌル )です。』


機械がそう告げた瞬間。生徒たちはざわめき出す。


「該当ナシ!?ヌルってなんだよ??」



遠くの席で、初日たちが会話をする。


「…ヌル…Nullってことかな。プログラミング用語で、何も無いって意味。」


「えぇ…?無能力者ってことか?いやそれとはまた違うのか…?」


怪訝な顔をして、彼らは八神のことを心配していた。

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