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イナビリティ・ジーザス

「クドリャフカー、ご飯だよー」


「わぉ!がぶー」


「だから私の手じゃないってぇー!」



朝っぱらから飼い犬…もとい飼いクーシーとコントをする同級生を横目に朝飯を作る八神。

"今日も"2人分。


「どうしてお前は帰らないんだ…」


「夜は帰ってるでしょー」


「いやそりゃそうだろ…」


夜は帰っているどうこうじゃなくて、どうしてここに居座っているのかを聞きたいのだが…まぁいいか。


「ほら、飯だ。バニラもご飯。」


食費が2人分+大きな動物2匹分+その他小動物なので、お小遣いがほぼ無くなっている。

趣味で動植物を飼っているから仕方の無いことだが、人間が1人多いからな…


あの動物園での事件から1週間。以来、サイノウ派が襲ってくることは一旦だが落ち着いたようだ。

学校でのユリナの扱いも、クラスの中では普通の生徒と変わらないまでには打ち解けた。

勿論、他学年からの扱いは未だ不安定な部分もあるが。


「今日は遣い魔講習会だっけ?学内での取り扱いについて教えてくれるんだったよね。」


「確かそんなことを言ってたな。俺らの遣い魔はあまりみない動物だからちょっと珍しがられるかも。」


「クドリャフカもバニラちゃんとお留守番しててね。出番になったら呼ぶから!」


遣い魔の召還契約自体は、普通の能力の中でも古典魔法に位置づけられている。

誰でも使える代わりに、その用途でしか使えない。

ただ、今のご時勢では遣い魔自体の存在が「動物愛護団体」によって問題視されているせいで肩身が狭いところもある。

なんでも、頭の良い動物を都合の良いときだけ召還して使役をするな、とかなんとか。

それケルピーの前でも言えるのかね。


そして、そんなこんなで学校へ着く。

グラウンドのほぼ裏に位置しているおかげで通学に時間はかからない。

さらに言えば、通学のために『サイクライド』などの乗り物を使わないで済むくらいには近いので非常に助かる。

2世紀くらい前の、『自転車』『オートバイク』などから派生した乗り物で、体育の時間や、スポーツ大会でも使われる乗り物だ。以前、局長が警察から逃げるのにも使ったのが、この乗り物。

他にも、『フォーミュライド』『ウェイクボード』などもあり、こちらは専ら競技用で所有しているが普段使いの『サイクライド』を持っていないため、余計な出費を浪費しないで済む点では家が近くてよかったと思う。



「よぉ八神、元気だったか。」


「音沙汰じゃないか!それはこっちのセリフだバカ、もう大丈夫なのか?」


「そもそも言うほど重症じゃないし、体力さえ回復すれば1週間で充分よ。」


教室には音沙汰と初日が既にいた。


重症ではないと強がってはいるが、この世界での1週間の入院というのはかなりの重症だ。

いくら医療技術が進歩したとはいえ、命に関わるレベルであれば命を落とすことだってある。当たり前だが。

それでも200年ほど前よりは遥かに医療技術も進んだのだけれど。

看護師から医師までの全ての人間が『治癒』や『快復』などの能力を持つ者が医療に携わっているおかげで、応急処置の速度が尋常じゃなく速いためここまでの重症は滅多に無い。


クドリャフカの『癒し』のおかげで幾分回復したらしいが、出血を止める程度であり流出した血液を元に戻すのはこの世界でも輸血でしかできない。

そのせいで、彼ら二人は1週間の入院を余儀なくされたのだ。

しかし、心配して損をするようなことを初日が言う…。


「看護師さん可愛かったから、ナンパしたら入院期間延びてよ…」



あぁ、こいつやらかしたな。



「看護師さんが急にあと三日まだ入院しなければならない!って言い出してさ」



そっちか。

殴られたとかじゃなく、初日が口説き落としたのか…。



「アホでしょ」


「アホだな」


「おいおい1週間居ない間に息もぴったりじゃねぇかこの野郎…」


音沙汰が業を煮やしたところで、突然校内放送がかかる。



『お知らせいたします。全校生徒は学園ホールにお集まりください。実行委員の指示に従い、速やかにお願いします。』


その放送と同時に腕に腕章をつけた別学年の人が転移系の能力で教室に現れた。


「はい、今の放送どおりです。学園ホールに移動お願いしまーす。」


「何があったんですか?」


「私も分からないのよ。仕事だからこうしてるけどね、でも多分能力戦争のことよ。」


「クラス対抗の?」


「…それならHRで言えば済む事だから、多分サイノウ派との抗争のことだと思う。私の勝手な想像だけどね。あとキミも関係あるよ。」


彼女はそう言って、ユリナのほうをみた。


「私…?」


「うん、キミ。私はサイノウ派とかドリョク派とかの差別なんて気にしないけれど、向こうはそうも行かないみたいだしね。」


「先輩、お名前は?」


イケボで初日が聞く。こいつはホントに…


「あらナンパ?私は『皆藤 雪江』。能力はありふれた『転移』よ。よろしくね。」


「よろしくお願いします。」


「ほら、私が怒られちゃうから早く学園ホールに行った行った!」



急かされながらも全員は学園ホールへと移動した。

そこには既に、校長がステージに立っており若干だが緊張した空気が張り詰めていた。


「よく集まってくれた。急に時間割等を変更して申し訳ない。

 今日は、現在のこの学校の立場にと学園都市について話さなければならぬ。」


スクリーンに映し出されたのは、あの日、動物園での出来事だった。

丁度、八神がハミングと名乗る女に吹っ飛ばされている様子だった。


「―っ!俺らが映ってるぞ…」


「…角度から見るに、防犯カメラの映像っぽいわね。あの場に他に人はいなかったし。」


校長は続ける。


「今の映像は先週の日曜日、三角山動物園での抗争の様子だ。襲われているのは、先日入学したばかりの生徒二名。襲ってきた犯人たちは『能力を与える教会(イナビリティジーザス)』という反ドリョク派の過激派組織。要するに宗教テロ集団だ。」


「俺らはカウントされてないんだな」


「かなC」


音沙汰と初日は少し落ち込む。

そりゃあ、動物園のはずれの茂みでこそこそストーキングしてたらカメラには映らないわな…


「この抗争では、我が校新入生徒の八神君と山神君が『能力を与える教会』を怪我を負いながらも退けています。」


この言葉で、ホールの生徒たちはざわめく。

無論、自分のクラスもであった。


「オイ八神、これは本当なのか?」


局長が他生徒を押しのけて八神の場所まで来て問う。


「あぁ…トラブルメイカーなのは自覚してるが…」


「いや、そんなことはどうでもいい。奴らはサイノウ派だな?」


「うん。私とついでに八神君も狙ってる。」


「理由は…まぁ大体想像は付く。ありがとうよ。」


そう言って局長はどこからか小さな機械を取り出して会話をし始めた。おそらくドリョク派の過激派組織に連絡をしたのだろう。


「八神君と山神君を狙う理由は、恐らく戦力の向上のためでしょう。

 彼らの能力は特殊ですから…。」


特殊?

いやまぁ、俺の能力が学校一の最弱でかなり特殊な能力なのは分かるが、ユリナの能力も特殊なのか?


「私の能力も、かなり特殊よ。まだまだ融通が利く能力じゃないけれど大抵のものは傷1つ付かずに盾で防げる。どういう理論なのか自分でも分からないし、まだまだ謎が多いけれど…。」


「守りの分野では、学校一最強だろうし特殊な位置にいるって事か?」


「多分それもそうだけど、私が何故生まれた時に能力が使えなかったのかがまだ分かってないの。普通は能力を持たずして生まれるかのどちらかなのに、途中で開花する例はサイノウ派では聞いたこと無いよ。」


「なんか、ドリョク派に生まれるべき人間だったみたいで良いじゃないか。今はこちら側にいるんだしな。」


「…へへ。」


ちょっとだけ照れ笑いをするユリナ。

ちょっとかわいい。


…いかんいかん。


「そこで、今年度から能力戦争の項目に、学年対抗の模擬戦争を加えることとし、履修科目に『禁忌の能力に対抗する力』を加えます。

 担当教員は私です。私が直接授業を行います。」


「禁忌の能力に対抗する力か…。難しそうな授業だ。」


「私たちは新入生だし、大して変わらないけどね~」


「以上、1限目を削ってしまって申し訳ない。解散とする。

 本日の全工程を終了次第、八神、山神君および音沙汰君、初日君は校長室へ来なさい。4人揃っての方が好都合だ。では。」


呼び出された。


「えっ俺らも?」


「呼ばれたら呼ばれたでめんどくさいな…帰って良いか?」


「いやダメでしょ…多分あの日のことだろうし。一緒に行こう?」


「山神さんがそういうなら…」


鼻の下を伸ばす音沙汰と初日。相変わらず単純な奴ら…。

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