白
「あぁ…アァァァッッッ!!」
痛みに堪え切れず苦しむ声で叫ぶ。
赤い鮮血が滴り落ち、一層苦しそうに見える。
「ユリナ!!!」
盾は、出てこなかった。
動作を操られているせいなのか、自動認識でも盾は出てこない。
「…俺の能力がもっと…強ければ…ッ努力をしていれば…」
「今更何を言う。努力したところで、元々才能がなかった者が才能のある者に勝てるわけが無い。今から努力すればオリンピックの選手に勝てるとでも思ったか?」
「貴様…ッ」
「この世は才能こそが全て。」
外国人顔の大男は冷徹な目で八神を見下す。
今まで何人も殺してきたかのような、そんな冷徹な目だった。
「いいえ、…才能よりも努力よ…」
ユリナが口を開く。
女のほうはユリナに体の動作を抵抗されているようで、歯を食いしばっている。
「元々ある才能を伸ばすのが努力。生まれた時から能力が使えるゆとりと一緒にしないでもらえるかな。」
「サイノウ派生まれが何を言う。気でも狂ったか。」
「そうかもね…」
ユリナはドラゴンの方を見る。
顔は動かさずに目だけで俺に合図を送る。
…そうか、そういうことか。
考えてること、分かったぜ。
八神は契約動物の呼び出し呪文を唱える。
「使役されし獣よ、我が手中にて絆を辿り目前にて現れよ…」
「…何をぶつぶつ言っている?少し黙って…」
その瞬間、大男の視界が真っ白に染まった
「何!?貴様、何を…ッ!!」
捕まっていた腕を振りほどき、呼び出したバニラを抱きかかえる。
「よくやった!!あとでご褒美だ!!」
「きゃぅ!」
『白』。相手の視界を白に染め上げる。
八神はバニラを大男の後ろに召喚し、能力の行使を合図したのだ。
ユリナは、バニラの能力を覚えていて、必死に目でコンタクトをとっていたのだった。
「アルバトロス様!?」
「油断、したな?」
ユリナはニヤリ、と笑い、体の主導権を取り返した。
持っていたナイフを宙に放り投げ、腕に出した盾で思いっきり打つ。
ナイフは投げるよりも速度を増し、深々と女の腹に突き刺さる。
「ァァアアアアア!!!」
「…急所は外したよ。たぶん。」
苦しむ女に吐き捨てるユリナ。
この画だけ見れば、どっちが悪役か分からない。
「痛いなぁ…もう…」
「ユリナ、大丈夫か…」
「平気。アドレナリン出てる今は大丈夫。どばどばよ。」
笑顔で言っているが、腕に力は入っていない。
おそらく、大量に血が流れているだろう。
そんなユリナに、バニラが飛んでくる。
咥えているのは…クー・シー?お前も一緒に飛ばされてきたのか…
そして、クーシーはユリナの腕を舐め始める。
すると、みるみるうちに傷が塞がる。
「嘘みたい…」
「クー・シーの唾液には癒しの力があるからな…。バニラ、分かっててクー・シーを連れてきたんだろ?」
「うぉう!」
「わぅ。」
「おりこうさんだ。」
2匹の頭をくしゃくしゃと撫でる八神。
ユリナは、最弱の能力を持つ八神を過保護並に心配していたが、案外頼れるかも、と思うのだった。
「…珍しいドラゴンをお連れのようだ。」
もう目が見えるようになったのか…?
大男が目を擦りながら立ち上がって続ける。
「そんな強力な能力を使える動物なんて聞いたことが無い。」
「うちのバニラは特別でね。」
「…ではそいつも一緒に来て貰おうか…!」
大男は能力で、使い物にならなくなった女の武器を一斉にこちらへ飛ばしてきた…!!
「あ、危ない――ッ」
と、その瞬間目の前に大きな青紫の馬が現れて武器を全て水の壁を作って防いでしまった。
――さっきまでそこに居た、ケルピーだった。
「…何?これも盾の能力か…?」
「…は?何を言って…」
続ける前に、ユリナに口を塞がれる。
ユリナは小声で
「待ってヌル君。今、目の前に来たのはケルピーで合ってるよね?」
「あ、あぁ…」
「…だったら、1つ矛盾が発生する。あいつら、能力者の癖に目の前のケルピーが『見えていない。』」
「…何?」