禁忌の能力
「…便利な能力ですね、守りに特化しているというのは本当でしたか。」
「八神君!?」
突如現れた女に狼狽えるユリナ。
「他人の心配をしている場合ですか」
女はそういうと金属製のものと思われる長い棒でユリナに殴りかかる。
しかし、盾の力で弾かれてしまった。
「…べらぼうに強い力ね。あなた、いえ貴方たち何者?」
「…たち?ここには私一人しかいませんが…」
「いいえ、そこのドラゴンが貴方ではない方を見てずっと警戒してる。そうね、八神君。」
あぁ、そうだ。と頷く。
まだ声は出せない。
大きなほうのホワイトウイングが、この女が現れる前から一定の方向を睨みつけていた。
てっきりその方向に誰かがいるのかと思ったが、この女がこちらに移動してきても関わらずずっと睨んでいる。
まだ、そこにいる。
「…ほう、ドラゴンが。最弱、と聞いていましたが能力は一体?動物操作でしょうか?」
「誰が教えるものですか…。」
「貴方には聞いていませんよ」
女は瞬時に消えると、八神の背後に一瞬で現れた。
瞬間移動系の能力…?
「…この距離で刃を向けても盾は出ないということは、自動認識範囲は5mといったところですか。」
女の向けた刃物が八神の首筋に当たり、一線の血が流れる。
「…狙いは私じゃないの?どうして八神君を?」
「両方だ。でなければ二人では出向かぬ。」
別の場所から声がすると思ったら、八神の後ろにまた一瞬で大男が現れる。
「…ハミング、男のほうはなるべく傷つけるなと言ったはずだが」
「し、失礼しました…。強く当てすぎました…」
そういうと、ハミングと呼ばれた女は刃を首筋から引っ込め、仕舞った。
「なっ…また一瞬で…」
「そんなに不思議かな、この能力が。瞬間移動ならありふれた能力だろう?」
「…この短時間で何度も移動できるような能力は、瞬間移動ではないはずよ。効率が悪すぎて精神疲労が嵩む。」
「分析も出来るのか。これはつくづくサイノウ派から追放したことを後悔するな。だが、それは間違いだ。」
大男はそういうと、女、自分、八神をさらに5m遠くへ移動させる。
「このように、誰でも移動できる。瞬間移動よりもさらに上の能力。」
「…『空間征服』…禁忌の能力よ…?どうしてそれを貴方が…」
「知っていたか。3大禁忌能力を。」
何を会話している…?
禁忌の能力ってなんだ?
「知っているも何も…その能力でお母さんとお父さんは殺された!!」
ユリナの感情がはち切れて、相手の周りに半透明の盾を全方向、立方体のように張り出した。
…狭い。3人は身動きが取りづらくなるほど狭い空間に閉じ込められた。
「…で?どうするというのかね。」
「こうするんだよ。」
ユリナ自身の腕に盾を装着し、走り出す。
そのまま3人のほうへと突っ込んで…
「解除!」
大男はその瞬間に能力で逃げたらしいが、仲間の女にまで気が回らなかったらしい。
ぎりぎりまで近づいて、腕を振りかぶる。同時に3人のほうの立方体のような壁を解除し、女を盾でぶん殴った。
…痛そうだ…。大昔の騎士も、武器が無い時や突撃する際はあんなやり方で攻撃をしたらしいが…。
八神を捕まえていた女の腕が離れ、逃げることができた。
「サンキュ、ユリナ。」
「礼は後よ。まだ女のほうの能力が分からない。大男のほうが禁忌の能力なら、もしかしたらあいつも…。」
「…今のは随分応えましたよ…守るだけの能力だったのではないのですか?」
女が殴られた頬を押さえる。
盾とはいえ、鈍器で殴ったような音もしたから、相当な威力だったろう。
「本来、私の能力は人を守るためにある。守るためにある能力ならば、使い方は自分次第よ。」
「小賢しい小娘…。」
女は、口腔内部が切れたのか血の塊を地面に吐き捨てる。
「その盾、使えなくしてやりましょう。」
そう言って、女が右腕を横へ突き出す。
ユリナも、その女の真似をする。
…え?
「え?」
何が起こっているのか本人も分かっていないようだった。
「ハミング。それは最終手段だと…」
「えぇ、最終手段です。」
そのまま腰に付いたポーチに手をかけ、刃物を取り出す。
ユリナも同じ動きをしているが、ポーチは無いし、刃物も持っていない。
「…強制回復は今居ないのだぞ。冷静になれ。」
「分かっています。貴方様は早くヌルを…」
「いいや分かっていない。ヌルだけならともかく盾も無傷で捕らえねばならぬ。」
「傷つけてから強制回復で直せば良い事です…。」
「…」
仲間割れか?
しかし、そんなことを思っている余裕も無かった。
女は、手のひらに刃物を載せると、大男に指示を出した。
「さぁ、アルバトロス様。」
「…」
無言で、能力を使ったのか刃物はユリナの手のひらに渡る。
それと同時に、八神の背後にも回り、腕を掴む。
「くっ、離せ…ッ」
「動くな。私は貴様に怪我をさせる気はない。」
「何を…」
女はナイフを握る動作をする。
ユリナは同じ動作でナイフを握る。
「まさか…おい女ァ!!やめろ!!」
「ふん…小娘の抵抗する力が強すぎてようやく言うことを聞かせているくらいですよ…ッ」
ユリナは、自らの腕をナイフで切り裂いた。