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片耳飾りのアリス  作者: 月見里銀
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片耳飾りと転入生 1

春。

吹く風は柔らかい暖かさを含み、一月前まで枝のみだった木には新芽が今にも咲かんと、その小さな体を膨らませていた。また青い空には雲一つなく、太陽が放つ優しい光が地面まで行き届いている。誰一人として疑う余地のない快晴である。

その恵まれた天気の下、ロゼライト学園にも春が訪れていた。

「・・・・・・はぁ」

そして恵まれた天気にも関わらず学園の高等部校舎にある屋外ベンチにもたれ掛かり、ため息をつく一人の少年がいた。

癖っ毛の黒髪にどこかやる気のなさそうに力の抜けた表情。進級に伴った新しい制服に身を包んだ彼は、特筆すべき点のない普通の男子生徒である。ただ一点を除けば。

彼は左耳に、青い羽根と緑色の宝石をあしらった特徴的な耳飾りを付けていた。校則で禁止されている訳ではない。しかし、この辺りではあまり見かけないような、珍しいアクセサリーだった。

ロゼライト学園の長い昼休みは中庭でだらけるのが耳飾りを付けた少年の日課であり、それは新学期初日でも、学部が変わっても、一切変わることが無かった。今日から高等部一年になったというのに、相変わらずぼんやりと空を眺めるのだった。

「お~い、卯城~!!」

そんな彼に向かって手を振りながら駆け寄る少女が一人。弾けるような声音と笑顔をこれでもかと振りまく天真爛漫な少女である。走る振動で上下左右に揺れるダークブラウンのポニーテールが可愛らしい。

卯城・・・もとい悠は声の主を確認すべく体を起こしたが、自身を呼んだ者の正体を認識すると、

「なんだ、ミズか」

と短く返し、再びベンチに体を預けた。

ミズ、と悠に呼ばれるその少女。本名は愛川瑞希あいかわみずき、悠とは実家が近く幼いときから仲が良い、悠の唯一と言える幼馴染である。

(まあ、()()()とはなじみがある訳じゃないしな・・・)

悠はそんなことを思い、左耳を少し気にする。

そんな中、明るさが取り柄のはずの瑞希はその顔に不満の表情を浮かべると、悠の座るベンチの後ろに回り込んだ。

「ウチに向かってなんだとはなんだ~!?」

瑞希は叫びながら悠の座るベンチをガタガタと揺らした。

「せっかく進級して高等部生になったのに、普段通りウチを差し置いてベンチとイチャイチャして~!!こんな椅子、こうしてやる~!!」

「お、おいミズ、落ち着け・・・!なんか話があ、あるんじゃないのか!?」

前後に揺らされ、途切れ途切れになりながら悠が尋ねると、幸い振動は収まった。

しかし、ほっ、と胸を撫で下ろしたのもつかの間、瑞希は、

「そうだ、そうだよ、大変なんだよ~!!」

と言い、再び先ほどより激しくベンチを揺らし始める。

「いや、待て待て!一回冷静になれって!!」

半ば頼み込むように叫ぶ悠の願いはようやく通じ、ポニテ少女は背もたれから手を離した。

「ごめん、取り乱した・・・」

シュンとする彼女に悠は改めて尋ねる。

「ふう・・・落ち着いてくれて何よりだ。情緒不安定みたいになってたし。・・・で、何があった?」

すると瑞希は悠に顔を近づけた。そして瑞希が近づいた分、悠は後ろに倒れる。

「そうそう、本題!クラスの子が言ってたんだけどね、なんか隣のクラスに転入生が来たらしいよ、しかも美少女!」

「え、マジで!?それは凄いな・・・!」

驚くのもそのはず。二人が通うロゼライト学園は「学力さえあれば誰でも入ることができる」が、つまり裏を返せば「誰だろうと学力がなければ入学できない」という意味である。まして、この学園の転入学は、基礎的な知識があれば八割方入学できる初等部入学よりも格段に難易度が高く、合格できたということは相当の実力があるという確かな証明なのだ。

しかし、驚くと同時に悠は瑞希から目を逸らして言った。

「ミズ今()()()()()って言ったよな・・・?」

そして悠の言いたい意味に気付いた瑞希もまた、複雑な表情をして、

「うん・・・言ったよ」

と、呟いた。

「まじか、じゃあこれでまた貴族連中が調子に乗るって訳だ」

「多分。さっきA組の前を通ったときもすごい騒いでたし。一級貴族の令嬢さんらしいよ、その子」

唯一の幼馴染みが似合わない暗い表情をしているのをみた悠は、一瞬声を詰まらせたがすぐに皮肉めいた言い方で返した。瑞希を励ますことも忘れず。

「まあ、俺たち()()からすれば一級だろうと何級だろうと貴族様には変わりないけどな。それに、幸いここはロゼライト学園だ。いくら貴族が調子に乗ってもここじゃ身分は関係ない。・・・っていうか、本来身分階級はこの学園設立の一年前に廃止されているんだけどな」

すると、瑞希は逸らしていた目をしっかり悠に向けなおした。

「そうだよな。ありがと、悠。元気出た!!それに、気に食わないことがあればぶつかれば良いもんな!!」

「おう、そうだ。貴族なんていくらでも追い返してやるさ。この間みたいに」

悠はニッと笑って見せた。

「嬉しいけどあれはやりすぎだぞ・・・」

苦笑いで返す瑞希。

しかし幼馴染を励ますために笑顔を作った悠だが、その表情とは裏腹に、晴れない霧のような感覚を感じていた。

(あの時の女の子は確実に貴族階級だよな・・・)

自分で「身分階級は無い」と言っておきながら、どこか気にしてしまう自分がいる。しかし、()()に寄せる思いも本物である。そうでもなければ七年以上も耳飾りを付け続けてはいない。

今こんなことを考えても仕方がないのは分かっている。

悠は気持ちを切り替えるべく、一つ呼吸をした。




ロゼライト島はかなりの面積を誇る島で、昔から二つの人種が共存していた。

東の大陸から来た運動能力が高い「髪の黒い人々」と、西の大陸から来た統治能力に優れている「肌の白い人々」。彼らはお互いの長所を生かすべく、自らが得意とする分野を職といていた。「髪の黒い人々」は生産業や開発業などに携わり、「肌の白い人々」は政治や商業などに取り組んでいた。適材適所という言葉を理解していた彼らは、自らの立場に不満を抱くようなことは無かった。

しかし、いつの日からかそんな関係も崩れ始めてしまった。どちらが先かは明確ではないが、「肌の白い人々」は島を支配しているという優越感を感じ始め、「髪の黒い人々」はその立場に劣等感を感じ始めた。それから、互いのことを「貴族」・「平民」などと嫌味のように呼ぶようになった。

そのことを発端に両者の間で上下関係が生まれていき、最終的に身分階級が誕生してしまった。

島の政治や管理を行う「貴族階級」と、その下で働く「平民階級」。さらに、「貴族階級」の中にも「一級」から「三級」までの階位が作られ、総じて四つの身分によって構成されていた。

身分階級が確立されてから、支配し、支配される関係が数十年もの間続けられた。ただ、「平民階級」の者達も支配されているだけではなく、度々抗争を起こしていたため、その期間は両者の争いが最も活発だったと言えるだろう。

その争いの末、三十年ほど前に身分階級の撤廃に成功し、記念として二つの人種両方が等しく通うことができる学園が設立された。学園は島の名前から、「ロゼライト学園」と名付けられた。学園内では身分による差別を一切禁止しており、生徒たちは仲良く伸び伸びと生活できる・・・ようになるはずだった。

親や育った環境の影響か、未だに「貴族」だとか「平民」だとかを気にする者たちが多く、顔を合わせては毎日のようにいがみ合っていた。その結果、彼らのクラスは分けられ、”元”貴族の「A組」と、”元”平民の「1組」の二クラスが出来上がった。(当初A組とB組であったが、「黒い髪」の生徒たちが「BはAに負けている」といい、議論の末A組と1組になった、というのは過去の話。)




時はまだ昼休み。悠と瑞希は二人でベンチに座っていた。

すると凄まじい勢いで校舎から四、五人の男子生徒が飛び出してきた。それも皆A組。

「なんだなんだ!?」

「わ、分からない!」

中庭特有ののんびりとした空間が、一瞬にして怒号の飛び交う体育会系の熱い空気に飲まれる。

「探せ探せ!!」

「草の根かき分けてもだ!!」

そしてその内の一人男子生徒が二人の所に詰め寄ってくる。男子生徒は他クラスとはいえ面識がある者だった。近づいてくる彼に応えるように悠と瑞希も立ち上がる。

色素の薄い銀髪の男子は正面に立つや否、悠を凝視しながら、

「む、卯城、貴様・・・。いや、違うな。こんな芋臭い奴があの方と・・・」

と悪口を投げて付けてきた。

訳も分からないまま唐突にバカにしてきた男に向かって、

「あ˝ぁ?クローバー、お前急に出てきておいて()()()って言ったか?」

悠は堂々と睨みつけた。

「そうだ、何か違ったか?」

クローバーと呼ばれた男も怯まず答える。その不遜な態度に瑞希も、

「何だ、珍しく元気に鳴くな、クローバー。まずウチらにどういうことか説明するのが先だろ」

と男口調で問い詰める。背は瑞希のほうが低いためどうしても見上げる形になってしまうが、身長差など気にならないほどに威圧感を出している。

だが相変わらずの余裕は崩れず、クローバーは二人を見下している。

「ふっ、本来貴様らなどには教えてやらんが、どうしても教えてほしいと言うなら教えてやらんことも・・・」

その偉そうな態度に対し、ついに悠はキレて、

「ダラダラと言ってないでさっさと話せ!」

と言いながらクローバーの顔面に拳を叩き込んだ。

「ぶへっ!」

たまらずクローバーは後ろによろけ、片膝を着く。だがすぐに立ち上がると、

「・・・なかなかやるな。だがこの程度では私を倒すことなど出来んぞ、卯城」

「いや、ぶへっ、って言ったのを誤魔化すのは無理があるぞ・・・」

普段通りの態勢を保とうとする銀髪に向かって呆れるように瑞希がツッコむ。

クローバーは鼻をさすりながら言った。

「仕方がない。貴様らのために寛大な私が・・・」

「殴られ足りないか?」

「ゴホン、我々は人探しをしているのだ。ある人の頼みでな」

まだ偉そうなことを言い続けるクローバーだったが、拳を構えながら悠に脅されると、ようやく話しを始めた。

「人探し?」

瑞希が問う。

「ああ、そうだ。本日付けでA組に転入してきた方がいるのは知っているか。その方の頼みなのだが如何(いかん)せん情報が少なくてだな。こうして学園中を探し回っている訳だ。そうしていると何やら中庭にバカ面の二人がいるではないか・・・。探し人について聞いた特徴に貴様が当てはまるのだが・・・いや、そんなはずは無い。なぜなら貴様のような平民とあの高貴なお方が接点を持つなど・・・」

(こいつ・・・人を見下しながらじゃないと話を出来ないのか!?ちょいちょい悪口入れやがって!!)

「もういい。ミズ・・・やれ」

再び話が脱線した男に制裁を下すべく、話を遮るように悠は冷たい声で言った。

「了解!・・・おい、言い残すことは無いか、クローバー」

瑞希は明るい声で返事をすると、右足を後方に引きながら尋ねる。一度殴られ、二度目の脅しを受け、ようやく、

「わ、分かった!特徴も話すから蹴りだけは止めてくれ!午後の授業に出られなくなる!!」

と乞うように言った。それもそのはず、クローバーは以前瑞希の蹴りを受け、半日気絶したことがあるためだ。

「特徴か?」

瑞希は蹴りの構えをそのままにし、(いぶか)しげに尋ねた。

「ああ、そうだ。何やらその探し人と幼少期に約束を交わしたそうで、相手は黒髪で耳飾りを付けているらしい。まあ幼いころの記憶だから曖昧だとも言っていたな。あとは、武術に長けた者であるそうで、不良な輩から助けてくれた姿が格好良かったとか。・・・くっ、アリス様に格好良いと言われるとは・・・なんて羨ましい!」

悠はその探している相手をほぼ確信しながら話を聞いていたが、欲望を垂れ流しに話すクローバーの発言に一つ気になる箇所があった。

「ん?アリスって名前なのか?」

するとクローバーは、

「なんだ貴様、名も知らないのか。その方の名前はアリス・フリージア。元一級貴族の家系にして第一令嬢であるお方だ。・・・そう、麗しい瞳と透き通るような金髪。あのお方こそが・・・」

急に詩人にでもなったかのように踊りながらその「アリス」という少女の説明を始めた。

「なんだコイツ、気持ち悪いぞ・・・」

瑞希は心底気持ち悪そうな表情で言い、悠の方を向いた。

「ああ、全くだ。こいつを黙らせて教室に戻るぞ」

同じように悠も気持ち悪がりながら言った。

「今度こそりょーかい!」

そう言って瑞希は流れる動作で地面を蹴り上げた。ポニーテールがふわりと舞ったと思った瞬間、

「ごめんね、おやすみ!」

と申し訳程度に呟き、飛び蹴りをクローバーにお見舞いした。

「ぶびゃん!!」

と先ほど殴られた時以上の奇声を上げ、一メートルほど吹き飛んだクローバーはゴロゴロと中庭の芝の上を転がり、そのまま何も発さなくなった。

「・・・あいつ、死んだんじゃねーの?」

「いや、加減したから大丈夫!」

「そうか、なら安心だ。」

そんな危機感の無いやり取りをしているとゴーン、ゴーンと始業の鐘が鳴った。

「やべ、授業始まっちまう!ミズ戻るぞ!」

「おー!!」

二人は蹴り飛ばしたクローバーは誰かに拾ってもらえるだろうと願いながら、教室へ走った。




授業中。

悠はクローバーから聞いた話を思い返していた。本当はすぐにでも「アリス」という少女を確認したかったが、長々と話しに付き合っていたら昼休みは終わってしまった。

約束を覚えてくれているのなら、彼女もまた右耳に俺と同じ耳飾りを付けているはずだ。それさえ分かれば・・・。

いや、分かってその後どうする?相手は一級貴族。俺たちを散々下に見てきた奴らだ。それに万が一仲良くなったとしても、この学園はおろかこの島の中じゃ公に言うことはできない。

身分階級は廃止されている。それも当の昔に。

その事実は揺らぐことはないのに、なぜ今も見かけだけの上下関係を気にしてしまうのか。昔は純粋で身分なんてわからなかったから、あんな約束をすることができた。しかし今になって彼女に面と向かったとき、俺はどんな顔をすればいいのか。

貴族だとしても好意は変わらない。俺はそう信じている。しかし、俺やミズ、他のみんなだって貴族には苦しめられてきた。それに東の大陸の血筋はみんな西の奴らを嫌っている。

そんな中、どんな行動をするのが正解なのかなんて見当もつかない。

心なしか、左耳が重く感じる。


そうやって頭を抱えていると一つの言葉が脳裏にうかんだ。

『次がいつになるかは分からないけど、必ずまた会おうね・・・』

(そうだ、約束したんだ。どんな顔をすればいいかなんて関係ない。「アリス」という少女に会って確かめなくては何も始まらない!)

悠はただ放課後になるのを待った。

どーも、月見里です!

記念すべき第一話「片耳飾りと転入生 1」はいかがでしたか?

いや~、色々な方の作品を読ませていただいていますが、一話あたりどれくらい書くべきなのか分からず、自分がしっくりくるところまで書いてしまいました。


短いと感じた方。 すみません、これが月見里銀の小説です・・・

長いと感じた方。 すみません、これが月見里銀の小説です・・・

あ、いや、ふざけているわけではないですよ!これが私のスタイルだということでお願いしたいです。


本文の長さや作品の感想等々ございましたらメッセージやTwitterのDMなどで伝えて頂けると、これからの励みになりますので、是非ともよろしくお願いします。



では、次話以降も頑張りますのでよろしくお願いします~!

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