04 ギルドは吹き溜まり
街は石造りの建物が並び大通りでは店が軒を連ねていた。
その一角にある広場の奥にギルドがあった。
早朝にも関わらず入り口の外や屋内には屈強な男が何人もいた。
冒険者で間違いないだろう。
街中なのにも関わらず防具や武器を装備して立っているからだ。
正直日本だったら近づこうともしたくない人種だ。
こっちを見てニヤッとしてくる。
「ようボウズ、何のようだよ。ここはギルドだぜ?」
「迷子相談でもしにきたのか?ははははは!」
煽り連中か。
まあ俺はまだ部外者だから穏便に事を進めよう。
「あるクエストを確認しにきたんです。お邪魔します」
「なんだ?害虫駆除でも頼みにきたのか?おめえ冒険者じゃねえだろ」
「ええ、登録についても相談しに来ました」
「おいおい、ガキが俺たちのシマを面白半分で体験しに来てるぜ」
「帰んな!おまえに構っているヒマなんてねーんだよ」
こいつらなんなんだ?やけにちょっかい出してくるがそんなに部外者お断りの場所だったか。
というか俺は24なんだからガキって言われる年じゃねえよ。
日本人は童顔にみられるというがムカついてきた。
そりゃあんたらみたく強面でゴツけりゃ年以上に見られるだろうがよ。
「こんな所でずっと立ち話をして過ごせるくらい忙しいんですね」
「ああ!?」
ドゴッ!
間髪いれず腹を蹴られた。
俺は後ろに吹き飛び腹を抑えて悶絶・・・・
「しないな」
あんまり痛くない。一応衝撃を受けているのだが耐えられる状態だ。
レベルの影響か?
「こら!そこで何してるの!ちょっとキミ大丈夫?」
「レシカさん!いや、こいつがギルドに用があるって生意気言って来るからシメてやってただけだよ」
「ギルドへの用なら受付である私の仕事でしょ!冒険者のあなた達が出てこないで」
「そんなあ~レシカちゃーん」
早朝からこんなに冒険者がいたのはこの女性目当てのためか。
「さ、中へ入って。私が話を聞くわ」
「ちょっと待ってくれよ、俺が最前列だぜ?言われた通りちゃんと順番に並んでたのに」
「カウンターは私以外にもいるでしょ。ガルディアさんももう入ってるから1番のりでそこへ受け付けてちょうだい」
「朝の5時から並んでたのに~」
この10人はどうやら受付嬢の取り巻き連中のようだ。
そんなヤツらが実力者なわけはないから蹴られて痛くなかった事の判断基準にはならないな。
俺は半個室の受付カウンターに通されてレシカという女性と二人きりの形になった。
「ごめんなさいね、冒険者を管理しきれていなくて。最近ああいったタイプがどんどん増えてきてしまったの。ケガの様子はどう?」
「うう、すごく痛みます」
「まあ大変!ちょっと見せてみて。お腹ね、さすってみるわね」
服をまくりあげて腹部に手を当ててくれた。
細い指先、柔らかくて暖かい手だ。
顔が近づきほのかな香水の匂いがとても心地よい。
「ありがとうございます、でも僕は男なので我慢出来ます」
「あら、ふふふ。偉いわね。男の子かと思ったらちゃんと男の人だったのね。外の大人達とは違って我慢強いのはいいことよ」
そういってカウンターの向かいに座って対面する。
「ようこそ冒険者ギルドへ。御用はなんでしたでしょうか」
形式張った口調にかわった。仕事モードに入ったのだろう。
「あるクエストの確認と、僕のギルド登録が可能なのかを聞きにきました。こういった場所は初めてなのでいろいろ教えてほしいです」
「ええ、お安い御用よ。現在発注している一般クエストは掲示板に張ってあるものが全てです。推奨ランクを定義していて上にいくほど難易度も報酬も高くなります」
「一般人がクエストを受注する事はできるのですか?」
「登録が原則です。でもそんなに手間ではないわ。お金も3000ウェンで高くはないし後払いも受け付けているわ」
「それはよかった。手持ちはないので後払いで登録をお願いします」
「ごめんなさい、後払いと18歳未満には保証人が必要なの。ご両親は今どちらに?」
「僕は未成年ではありませんよ」
「それを証明するのも保証人なの。キミはどう見ても若いでしょ。むやみに危険にさらされる子供を制度で守るための規制なのよ」
くッ!ここに来て弊害か。
親もいないし年齢を証明できるものはない以上、情に訴えるしかないか?
「僕はケイブス農区のガブリン討伐クエストを受注しに来たんです」
「え?ガブリン討伐を?」
これは昨夜、ジョーン家の邸宅ディナーでの会話から得た情報から考えた計画だ。
――――――――――
昨夜
絢爛豪華な長いテーブルにドレスコードに沿った装いで家族全員と客人が合計で15名ほど席についていた。
料理はフルコースのように前菜、スープとはじまっていきながら政治や経済、婚姻話やスキャンダル話といったあらゆる会話が飛び交っていた。
こういった場所は全くもって未経験なのだがそんな事は気にせずに俺は姉妹の席近くを狙った。
だが無残にも長男マークスによって端席に隣り合う形となった。
「あなたからはもっとお話を聞かせてもらいたいと思っていたんですよ」
俺は記憶喪失だって設定したのに何をあんぽんたんな事を言っているんだコイツは。
質問される気はないのでこちらから問いかける事にした。
「聞きたい事があるのは僕の方でよ。特にこの街の情勢について知りたいです。先ほどギルドのお話があったので明日登録に行こうと思っていますし」
「まあ、アナタ冒険者になられるおつもりなのね。あなたのような素晴らしい方がギルドにいてくれたのならこの街の抱えてる問題を解決してくれるわね」
奥に座っているお婆様が聞き耳を立てていたかのように会話に入ってきた。
「問題?どういった事が起きているのですか?
「いろいろあるのよ。危ない場所にある高級食材が不足していたり、畑を荒らす害獣でそこの領主の税収が下がったりしているの」
どれも些細な問題に聞こえるな。
ピコーン
『条件達成。ボーナスタスクが追加されました』
お、何か追加された。
システムウィンドウを開いて確認してみよう。
【畑を荒らすガブリン討伐クエストで経験値2.5倍ボーナス】
なるほど、今の会話で情報を得た事によりフラグ条件が満たされたか。
しかしモンスターの固有名詞がこのシステムから知れるって、この世界は一体どういうカラクリで出来ているんだ?
俺は深く探る事にする。
「それは・・・・ガブリンの事ですね?」
「その通りです!ケイトさん、よくご存知ですね。さすがです」
マークスがまたしても持ち上げてきた。
どうやらこの家にとっては間接的に損益を被る案件のようで俺が解決する事がこのストーリーの展開らしい。
さて、俺へのメリットはあるのか・・・・ん?
ピコーン
『ボーナスによりガブリン約10匹の討伐でレベルが上がる試算です』
へー
ピコーン
『レベルが上がるとMPがの最大値が10増えますよ』
まじで?こ・・・これは!
俺は現在のステータスを確認した。
Lv30
HP300
MP90
攻撃力30
防御力30
武器補正0
魔法力3
スキルについては
勝者特権スキル9
衣風憧慟 (MP50)
さらに俺は動揺を抑えながら足し算を慎重に行う。
MP90+10は・・・・MP100!?
この討伐でレベルが上がれば衣風憧慟 が二回使えるようになる!
服破の二段追い討ちが打てるというわけか!
このシステムメッセージのやつ分かってやがるな~。
よ~し・・・・!
――――――――――
現在~ ギルドカウンター
「僕は農家の皆さんが困っているのを見過ごせないのです!」
「君はだからガブリンクエストを? ・・・・でもダメよ。あれはランクB冒険者のクエストよ」
しぶといな、さらに押してみよう。
「そんな難しいクエストがなぜ?ずっと放置されてるなんておかしくないですか! 今も丹精込めた農作物が奪われているかもしれないんですよ! 村人達は涙を流しているのかもしれないんですよ!この街のギルド登録者は何をしているんですか!」
「・・・・あなたの言うとおりよ。本当は真っ先に着手しなければいけない。でもガブリン単体は本来ランクD以下のクエスト。けど群れとなればとても危険な相手になるの。だからランクB。だけれど体数を正確に把握できていないから報酬が実態よりも低く設定されてしまうの。それが割にあわず誰も手を出したがらない」
「僕は自分の損得で動きません。報酬はいらないので登録と僕の受注許可をください!」
「!! あなたって人は・・・・」
いつの間にかカウンターの外の方は静まり返っていた。
どうやら俺たちの会話の声が漏れていて盗み聞きしていたらしい。
そこへ思わぬ客が後ろから入ってきた。
「私が保証人になりましょう!」
「あなたは・・・・ジョーン・マークスさん!?」
ザワッ
「おい、領主のご子息様だぞ」
「なんで貴族様がこんな所に?」
周りがヒソヒソと話し出した。有名人なんだな。
「彼はジョーン家の客人である。身元は我が家紋が保証しましょう」
そう言ってジャケットの下にあった模様付きのアクセサリーを見せた。
「ジョーン家の客人。そ・・・・そうでしたか」
「そしてそれ以上に、私の最も尊敬するかけがえのない友人であります! この土地に敬愛を示すケイトさんをどうか、ギルドメンバーとして受け入れてください!」
「は・・・・はい! しょ・・・・承知致しました!手続きを進めて参ります!」
思わぬ追い風が吹いてきたものだ。
こいつはなんでこんなに俺に協力してくれるのだろうか。
「ケイトさん、僕はあなたの思いに強く心を打たれました。さあ、手続きは私が済ませます。どうか心のままに行動ください」
「ありがとうマークスさん。」
俺はそう言い残し、バッと立ち上がってクエスト掲示板へ歩き、該当のクエスト書をちぎり取った。
さっきの取り巻き共が声をかけてくる。
「お・・・・おい、あんたまさかそれ一人でこなす気なのか?」
「ここにいる誰の力も借りる気はないです。僕ひとりでやり遂げてみせます。絶対に手を出さないでください」
そう言って睨みつけ、まわりの冒険者たちにも目で念を押しておいた。
ガブリンの数が少ないと取り合いになるからな。確実に10体を討伐するためにソロで独占しよう。
俺はクエスト書をたたみ胸ポケットへしまって出口へと向かっていった。
「アイツ……なんて顔つきでいやがるんだ」
「ああ、農家からの安報酬のために命をかける覚悟を持ってやがった」
「クソ、なんだかわからねーが胸が熱くなってきやがった」
バン!
俺はすべてをかける覚悟でドアを開けて外へと飛び出した。
くくくく。
あのアイドル的ルックスの受付嬢レシカさんを二段階ひんむいてやるぜ!!
レシカさんの挿し絵はもう少し先に。
感想お待ちしております。