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03 貴族屋敷への招待

 

 俺は馬車に揺られて貴族の敷地に入っている。


 門を通ると大きくそびえ立つ屋敷が遠方に見えた。

 門からあの屋敷に着くだけでも馬車で10分以上かかるらしい。

 眼前には芝生で覆われた広大な敷地が広がっており解放感で目がくらみそうだ。


 東京では考えられない土地の豊かさだな。

 しかその広さにも関わらず、敷地には緑の芝生が満遍なく敷かれていて管理も行き届いている。それほどに裕福な貴族様のようだ。

 助けてくれたお礼に宿無しの俺を客人として屋敷に泊めてくれるとの事でお邪魔することになった。


 当の令嬢は破れた衣服をマントですっぽり覆っている。

 屋敷に到着し馬車を降りると出迎えていた使用人達に驚かれていた。


「お嬢様?何かあったのですか?」

「ごめんなさい、お洋服を破いてしまったの。」

 まあそれは大変、といってそそくさと部屋へ使用人と一緒に籠っていった。


 あの子、馬車の中でも混乱してたからな。

 あの困惑していた顔も可愛らしくてじっくり観賞していたがさらに追い詰めるのはさすがに辞めようと思った。


 今はこの美しい邸宅やエントランスの作りに目を奪われて、しばしの建築観賞タイムだ。

「素晴らしいお屋敷ですね」

 伯爵に感想を伝えた。


「おお!わかるかね。そうなんだ、これは祖父の代に改築されてから私が装飾や美術品を各方面から揃え続けたものなのだ。」

 この世界の貴族も芸術に対する拘りが強いようだ。富に余裕がある人間の傾向はどこも同じなんだな。


「お父様、お帰りなさいませ。旅路は大変だったようですね」

「マークス。フレイラ。ああ、モンスターに教われてしまったよ。ローレンが少し災難にあってな」

「ローレンが?無事ですの?」


 あの子のお兄様とお姉様のようだ。


 ヤバい、お姉さまやばい!

 妹ローレンは可憐な可愛い系だったが

 フレイラは美人系の金髪素敵御姉様だ。


「ケガなどは特にないようだった」

「心配よ!ちょっと、妹の様子を見てきますわ」



 ポチッ!ポチッ!

 衣風憧慟! (いふうどうどう)衣風憧慟!(いふうどうどう)

「くそ!発動しないっ!なぜだ!なぜた!」


ピコーン

『発動条件やらMPやらいろいろと足りてません』



「ケイト殿、指を顔の前で上下させて一体どうなされたのだ?」


 はあ、はあ、落ち着け俺。

 モンスターのいないこんな所で発動したら俺が犯にされてしまう。

 姉フレイラは妹の部屋へと去って行った。


 ふう、落ち着いたぞ。

 そういえばこのスキルは発動条件を満たさないとダメだったのか。

 さっきはチュートリアルモードだったから発動出来たのだろうか。

 詳しく検証しないとな。


「父上、こちらのお方は?」

「カグラ ケイト殿だ。モンスターに襲われている我々を助けてくれた恩人だ」


「おお、それはなんと! ケイト殿、私はジョーン家長男のマークスと申します。父と妹を助けてくださりありがとうございます」

「ケイトです」


 イケメンだ。金髪青眼の超イケメンだ。日本にいたらそこら中の女子がクギづけになるレベルだ。

「ケイト殿は旅路で記憶を失われたようでこの土地での生活の事を覚えておられないようだ。」

「そうなんです。お金の単位からモンスターの存在まで全く覚えていないんです。」


 記憶喪失設定でいくことにしていた。

 俺が異世界転移者と言うと向こうの事をあれこれ話さなければいけなくなるからだ。

 今は会話で盛り上がる事よりもこの世界の常識を知る事だけに絞りたい。


「記憶喪失なのにモンスターを倒せるなんて。修練は体に染み付くものなのですね。さぞかし名のあるお方なのでしょう」

「いえ、なんの荷物も持っていないような不埒者である自分を受け入れてくれるのはとても寛大なお家だと感じております。お世話になります」

「ははは、自分の家のように思ってくれて構わないよ」


 ロビーに通されてソファへ促される。

 すると執事とメイドが紅茶を持ってきてテーブルの上で注いでくれた。

 ふむ、このあたりはもとの世界と似ているんだな。

 とはいえこんな階級の高い場所でティータイムなんかしたことがないから勝手がわからない。


 そこへ荷物を置いてきた伯爵とマークスが席に着き、一息ついた。

「あとでこの屋敷を案内しよう」

「ありがとうございます、生活の事についてもいろいろ教えてもらいたいのですがいいですか?」

「もちろんです、私が案内しますよ。ケイトさん」


 マークスがやけに食いついてくる。

 嫌だ。案内ならさっきの眼鏡かけたメイドさんがいい。リアルメイドさんに!


「そんな!マークスさんのお手を煩わせるワケにはいきません」

「気にしないでください。僕は今時間に余裕があるんですから」

「おぼっちゃま?手紙がいくつも届いております。どうかお返事をお書きください」

 執事が間に入ってくれた。ナイスバトラー。

 マークスはしぶしぶ引き下がった。


 俺はこの場を使い、最も確認したかった事を投げかけた。

「失礼かもしれませんが少し質問させてもらっていいですか?」

「もちろんだ。どういった事だ?」


「この土地におけるモンスターの遭遇率と同行していた警備の人のレベルやステータスについてを参考にしたいのです」

「ふむ、さすが戦いに身を置いていた者の質問だな。モンスターは森や山といったテリトリーに入らなければまず遭遇する事はない。私も数年ぶりに見かけたくらいだ。

 私たちは貴族なので戦いのことはわからないが警備にあたったのは専門職としてそれを生業にしている者だ。」

「冒険者や騎士に比べるべと差はありますですけどね。きっとケイトさんは冒険者なのでしょう。そのステータスというものは聞いたことがないのでギルドへ行って聞いてくるといいいでしょうね。身元も判明するかもしれないですよ。」

 どうやらそこまで殺伐とはしていない国のようだな。ギルドか、明日いってみよう。


「魔法についてはどうなんでしょうか。一般的なものですか?」

「私に魔法使いの知り合いが数人いる程度だ。普通ならお目にかかれないが私の人脈によるところだな」


 思ったよりも希少な存在か。スキルポイントが余っているからいつでも魔法使いになれそうだがこの人達には黙っておこう。


「長旅に疲れてるだろうから細かい事は後日いつでもしたらいい。夕食の前に部屋で休んでおくとよい」


「ご案内致します、こちらへどうぞ」


 よっしゃああああ!

 さっきのメイドさんだ。

 シックなレトロ調の正当派メイド服のお姉さま。

 決してオタクに媚びたようなキャピったヤツではない美しい仕立ての衣装。

 ロングの黒スカートに真っ白なエプロン。


 これを・・・・破りたいぞ!!


 前を歩くメイドさんの後ろ姿をじっくりと見つめながら部屋へと通された。

 テレビで見たような三ツ星級のスイートルームレベルだった。

 イチ客人にここまで出来るものなのか?


 いや、戸惑うな。ここでも日本人的にへりくだってしまってはよくないと思う。

 取引先の外人はそれで見下されて交渉が不利になる事だってあったのだがその文化に近いものを感じる。


「メイドよ。おまえは俺に従っている。そうだな?」


「はい、ご主人様の言いつけでケイト様をご案内しております。身の回りのお世話については後ほど担当がお伺い致します。」


 あくまで主人に従っている、という事らしい。

 スキルを試したかったが思うようにはいかないようだ。


「では何かございましたらこちらの呼び鈴でお呼びだししてください」


 何かを察したのか案内が終わって早々にここを去ろうとしてる様子だ。


「待ちなさい、用がある」

「はい、では呼び鈴をどうぞ。係りの者が参ります」


「使用人のおまえがここにいるのにわざわざ呼び鈴で他の者を呼んで待たせるのがこの家のもてなし方なのだな?」


 程よいウェーブのかかった茶色い髪のお姉さまは怯えた表情をした。


 それが俺に対するおそれのか、はたまた使用人長からの叱責をおそれているものかはわからない。

 だがメイドは気持ちを改めたように俺に向き合い一礼した。


「申し訳ございませんでした。なんなりとお申し付けください」


 強気の姿勢が俺の思い通りの展開を作った。

 スキルの実験をこのメイドで行う。 


 俺はシステムウィンドウを開く。

 先ほど姉のフレイラに発動出来なかった原因はふたつ。


 ①MPが足りない

 ②条件が揃っていない


 まず①についてはスキル一回につきMP50使う。俺の総量は90。ギリギリ2回使えない所だ。

 だが先ほど紅茶休憩の時から回復がして1回分がたまった。


 ②について妹の時のようにチュートリアルモードのような特別な条件下を除いて勝利したという前提が必要なようだ。

 【勝者特典】・・・・もしかしたらさらに広がりを見せるスキルなのではないかという予感がする。

 だが今は目の前の女性を自らの施策で成功させよう。


「メイドよ。じゃんけんというものを知っているか?

「ジャンケンですか?聞いたことありません」


 手っとり早い勝負を選ぶ事にした。

 一通りルールを説明する。


「このように3つの手の形でお互いの勝敗を決めるものだ」

「この国にも同じものがありますね。呼び方は違ってロックペーパーシーザーといいます」


 同じものがあったのか。なら話は早い。

 よし!やるぞ・・・・と思ったがこれで発動出来てしまったらあからさま過ぎたりしないだろうか?


 うん・・・・いや、そんな事を言っている場合ではない!

 はやく・・・・早くこのメガネメイドの美しい衣装を破りたいんだっ。


 やる。俺はやるぞ !


「じゃんけんをしよう!」

「は?・・・・な、なぜでしょうか?」


「私はオマエとじゃんけんをしたいんだ。ダメか?」

「いえ、ダメではないですが。理由をお聞かせ願えますか?」


 やはりこのメイドは頭が良いらしく何かを察している様子だ。

 だがもう逃がさない。


「この家の使用人は客人とジャンケンをしてはならないと。そういう規則がこの屋敷にあるとでも言うのか?」

「い・・・・いえ、ございません」


 逆説的に話を通してそれとなく筋が通るようにしてみよう。あとは大きな態度が説得力を増させるだろう。


「ならばオマエは頭の良い眼鏡メイドとして、私とじゃんけんをしたくないとそういう事なのだな?」

「め・・・めがねは関係ございません。頭も別に・・・・私は少し本が好きなだけのただのメイドでございます」


「わかった。少し本が好きな眼鏡メイドよ。じゃんけんをすればおまえの読みたい本を何か見繕ってやるぞ」

「いえ、客人から物を頂くなど許されておりません。ですが、何か街で人気の本の題名がわかれば教えて頂けると嬉しく存じます」


「いいだろう。おまえが滅多に訪れない街に寄った時には気にかけておこう」

「ありがとうございます。ではジャンケンをお望みとあれば致します」


 よし。

 だいぶ強引に持って行った回があるがこれで勝負が出来る事になった。


「ではいくぞ!」

「は・・・・はい!」


「「じゃーんけーん、ッポン!!」」


「勝った!」

「う、負けました」


「ふふ。楽しいな」

「はあ、はい・・・・まあそうですね」


「もう一回やろう」

「ええ、わかりました」


「「じゃーんけーん、ポン!!」」


「負けた!」

「ふふ、勝ちました」


「くやしい!もう一回やろう」

「ええ、いいですよ」


 こうして数回に及ぶじゃんけんを行った。

 そう、この行動には多くの検証が含まれている。


・負けた時にどのようなペナルティが発生するか

・発動していないうちの負けは、勝ちに影響が起きるものか

・いくら負けたとしても最後に勝てば発動するものなのか


「あー楽しかった」

「そうですね」


「ふふふ、良い時間を過ごさせてもらった。礼を言うぞ」

「遊んでいた時と態度がコロっと変わるんですね。いえ、こちらこそ拒否をしてしまい申し訳ありませんでした」


「良い。では私はしばらくこの部屋で休ませてもらう」

「はい、ごゆっくりどうぞ 。では失礼致します」


 そういってメイドが後ろへ振り返った瞬間


【勝者特典スキル:衣風憧慟(いふうどうどう) 】効果:条件達成時に離れた場所からでも衣装を遠隔で破ける


 ポチッ


 ビリビリビリ!


「え?ええええええええ!?」


 眼鏡メイドのスカートのお尻部分を破り裂いた。


 わんだほーーーーーーー!!!!


「な・・・・なんでスカートが・・・・突然?」


 上質で清潔に保たれた黒地の布の下には、真っ白なシーツのような裏地。

 そしてそれらを剥いだ奥に潜んでいた、プリンとした素肌。そうお尻が丸見えなのである!下着まで破ったのである!


 た・ぎ・る~~!!



「お目汚しをお許しください!」


メイドは俺を疑う事なく、むしろ自分の過失としてこの状況を捕らえていた。

俺はクローゼットからガウンを取り出しそっと彼女の肩からかぶせてあげた。


「恥じる事はない。君は職務に忠実な素晴らしいメイドだ。私は君になんの落ち度も感じていないよ。さあ、これを羽織ってお行きなさい」

「お客様、ありがとうござます、ありがとうございますっ」


「さあ、ここはもういいからお行きなさい」ニコっ。


 メイドは何度もお礼を言いながら廊下を走っていった。

 ふふ、俺は中々に紳士的な人間なのだな。この貴族邸宅の中でもやっていける自信が持ててきた。


 そして・・・・

 まさかこんな小さな勝敗でも発動出来るとは。

 検証によって条件を把握する事ができてきた。


 素晴らしい。

 この世界とスキルの事をもっと知っていかなければいけないな。

 

 ふふふふ。


 素敵な光景であった。目に焼き付けておこう。






挿絵(By みてみん)


名無しのサブキャラなのに時間をかけて挿絵を描いてしまいました。

でも後悔はしてません。だってメイドですからね!誰かわかってくれますかね。


気に入って頂けましたら嬉しいです。

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