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この太陽系で私達は  作者: えるふ
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最後の挨拶

エリスに到着した彼らは、まず連絡艇でコロニー内に入る事になる。コロニー内は低酸素状態なので、与圧服が必要である。最低限酸素マスクが絶対必要と言われている。たった一人の例外を除けば。

「こちら連絡艇01号。離陸を許可されたし」

『こちら管制。連絡艇01号の離陸を許可』

「ドッキングステーション開放、離陸開始」

『離陸を確認。自動航行システム、チャンネルを00へ』

「自動航行システム、チャンネル00了解」



こうして、連絡艇はエリスのコロニーに無事ドッキングした。気圧は良好。酸素は6%といったところか。

「先生、私は原因を知っています。この仕事にも従事しません。友人に最後の別れを告げに単独行動の許可を求めます」

ティターニアがヘッドセットを装着して言う。同じチームの者はティターニアが何も防具を付けていない事に気がついていない。

『……許可する。ティターニア君の単独行動を許可する。他の者は予定通りコントロールセンターへ向かう事』

それを聞いてティターニアは船の扉を開く操作を行った。プシュッと小さな音がして扉が開き、コロニーに降りる為のタラップが展開される。

「じゃあ、私はこれで」

ティターニアが言うとチームメンバーは驚いた。ティターニアが何も装備していないからだ。

「その驚きは後世まで取っておいて。早く行かないと、後がつかえてるわよ」

ティターニアはそう言うと壁から移動用のハンドルを取り出し、足を固定し街の方へと移動を開始する。この移動方法は最近なくなったのだ。不合理だそうだ。移動用ポッドで移動するほうが手間だと思うが、渋滞にハマるよりは良いらしい。もっとも、今となってはこの移動方法で良かったと思う。移動ポッドは現在使用不可能である。コントロールセンターが無人のためだ。



「よっと。街は……こっちだったっけ?」

ティターニアが移動用ハンドルを記憶を頼りに乗り継ぎをする。


「あの時は随分酷いニオイだったけど、今は殆ど大丈夫ね」

事故後、確かにここに来たことがある。事故調査として。その時も防具を付けてなかった。

「思えば、あの時から……私の人生が変わり始めたんだろうなぁ」

制御されていないため途中下車ができないので飛び降りた。

「えぇっと、確かこの角だったよね」

その家の前に立ち表札を見る。間違いない、ここだ。ティターニアは玄関に手を伸ばした。

「さすがに鍵かかってるか……」

ティターニアは手をかざした。すると、扉は音もなく開いた。

「ごめんね……どうしても逢いたいから…」

部屋に入ると、ほぼ当時のまま保管されていた。この家には初めて入る。生活感のある部屋の一箇所。床にシミが残っていた。ここに、ティターニアの友達スイが最期の瞬間居た場所だ。よく見ると、生命維持装置の近くだ。異変に気がついて生命維持装置に向かったのだろう。だが、酸欠は自覚症状が出にくい。気づいた時には遅かった。

「あと1m……その1mが……人生とはそういう物かもしれないわね……今日はサヨナラを言いに来たの。貴方の死が……スイが死んだ事で未来を紡いだ。そう思うから。……もう行くね。次はいつ来れるか分からないけど……さようなら。またね」


ティターニアは最後の挨拶をして、コントロールセンターに向かった。






「進捗どうですか」

「ああ、いい感じだぞ。ティターニアさんは本当に知ってるのか?」

「生命維持装置の点検運転切り替えキーが中立でキーが抜けた。でしょ?」

「お、そうだな。さて、ソルに戻ってレポート纏めて、提出したら終わりだ。帰ろう」



この頃のコロニーの生命維持装置はコントロールセンターでの集中制御である。以前、火星の軍艦を丸焼きにしたのを覚えているだろうか。このコロニーの事故の影響もあって現在は集中制御は行っていない。


事故の概要はこうだ。


 それは国際活動の一端である、コロニーリサイクル法の設立から始まる。エリスのコロニーはもともと別の惑星に存在したコロニーであった。それを輸送し、エリスの軌道上に浮かべたのが、このエリスのコロニーである。

 万が一の際は酸素と窒素。両方が供給されるはずだが、酸素の供給が途絶えてしまった。そのため、気圧を保っているのはほぼ窒素であり、酸素濃度はどんどん低下していった。バックアップ装置は過塩素酸カリウムや過塩素酸リチウムを熱反応させ酸素を供給するが、気圧をトリガーにする旧世代器のため作動しなかった。酸素濃度警報装置も異常があり酸素濃度が危険域を遥かに下回ってから警報が発せられ、対応が遅れた為コロニーは致命的な酸欠状態になった。

 酸欠理由は生命維持装置の運転切り替えキーであった。キースイッチの切り替えは「運転」と「点検」の2ポジションであり「運転」ポジションでなければキーは抜き取れないはずだった。しかし、事故当時、スイッチはどちらでもない中間地点でキーが抜き取られており「運転」および「点検」の信号は発されなかった。そのため、生命維持装置は作動せず、また画面表示も「点検注意」にならなかった。

 二酸化炭素除去装置は正常作動しており、二酸化炭素と水素を反応させ水に変換していた。バックアップである水酸化リチウムは作動していなかった。水の量が既定値を超え、上限ギリギリになり警報が鳴ったが、この時すでに酸素濃度は低く正常な判断ができていなかった。生命維持装置の確認ではなく、飲料水用に水を移動させていた。

 水素の量が既定値を下回った警報が鳴ったが「電気分解で発生した水素が捨てられている」と判断され、バルブの一部を手動で操作するよう指示を出した。しかし作業員が機械室にたどり着くことはなかった。すでに酸素は12%を下回っていたため途中で力尽きていた。また、酸素濃度の低下を知らせるアラームは8%になるまで鳴らなかった。アラームが鳴る頃には意識を失っているか、身体が動かせないレベルであり、対応は不可能だった。



以上が、このエリスで起きた全てである。




「よろしい。地球に帰るまでの間、ゆっくりしたまえ。君たちに卒業の権利を与える」

校長先生に言われ、チームの者は各自解散となった。


「先生」

「なにかね」

「私はこの船で過ごしたこと。忘れませんから」

「光栄に思う。地球に帰れば、天王星の者が迎えをよこすだろう」

「ええ。有難うございました、校長先生。先生には感謝してもしきれません」

「命を救った事かね?」

「ええ」

「当たり前の事をしたまでだ。さあ部屋に帰りなさい」



長らくお疲れさまでした。これにて完結です。思えば長かったですね。いや、最近の読者は訓練されてるから、短編乙くらいだろうか?ともあれ、本当なら絵師様に依頼したティターニアのイラストをtwitterにあげるはずだったのですが、調整不足で小説が一足先に完結してしまいました。エリスの事故は痛ましい事件ですが、わりと身近にあるかもしれません。生命維持装置を触る時は気をつけような

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