日曜日
ティターニアは酒の買い足しにでかけていた。
「すみません、アマレットを探してるんですけど」
ティターニアは店員さんに声を掛ける。
「ローヤルコンティですか?ディサローノですか?」
店員さんが置いてある場所まで案内しながら聞く。
「ディサローノでお願いします」
ティターニアが言うと店員さんが指し示しながら言う。
「こちらになります」
「有難うございます」
ティターニアは案内をしてくれた店員に礼を言うと、そのまま店外へ出る。扉をくぐると自動で会計がされる。値段の案内は手持ちの端末が音声で教えてくれる。中間部屋にある袋に詰めると、
「さて、目的のものが手に入ったけど、どうしようかな」
ティターニアは公園へ向かいながらつぶやく。公園でのんびりするのもたまには悪くないだろう。
公園に設置されている自動販売機でコーヒーを買い、あいているベンチに腰を下ろす。中央の噴水で子どもたちが水遊びをしているのが見える。
「たまには公園もいいわね」
ティターニアはコーヒーを飲みながら呟く。周りを見てみると、ベンチで仲睦まじく会話をしているカップルや、親子連れ、芝生で絵を書いたり本を読んでいる者まで、幅広くこの公園は利用されているようだった。
「へぃ、そこの姉ちゃん、良かったらお茶でもどう?」
利用者が多いとゆうことは、こういう人もいるわけで。ティターニアは紙コップに目線を落とし、
「もう飲んでるわ」
とそっけなく答える。
「そうツレないこと言うなよぉ、いい店、知ってんだ」
このてのやからがそんな簡単に引き下がるわけもなく、ティターニアの隣に座る。ティターニアは腰を動かして少し間を開ける。
「白い肌に白い髪。赤い目。君、アルビノって言うんでしょ?」
そう言えば金星人の一部の人が耳を尖らせる手術を受ける事があるのを思い出した。それに妖精が有名だと言っても目の前の人物が妖精だとはだれが思うだろうか。
「まあ、そうだけど……それが何か?」
ティターニアはとりあえず話を合わせておく。妖精だとばらすと何があるかわかった物ではない。
「やっぱりここも白いの?」
そう言いながら男は足の付根に触れる。
「ちょっと!」
ティターニアはベンチから立ち上がり後ずさる。
「へへ、悪いようにはしないからさぁ」
男がにじり寄ってくる。幸いこの公園は人が多い。ティターニアは相手を泳がせることにした。
「な、何をするつもり!?」
ティターニアの声はいい感じに震えており、相手にはそれが気が付かなかったようだ。
「判ってんだろ、姉ちゃんよぉ」
ティターニアは自分をかばうように身を縮めると、男は後ろから抱きつき、チューブトップのワンピースを下へずらし、乳房を露出させた。そろそろ頃合いだろう。ティターニアは大きく息を吸って叫ぶ。
「きゃーっ!この人痴漢です!」
周囲の目が一斉にこっちを向く。服装が乱れた女性にだきついている男。誰がどう見ても現行犯である。男もまさか大声をあげると思ってなかったのか、周りを見渡し焦っていた。
「く、くそっ」
声を上げれない大人しい女だと思っていた男はティターニアを突き飛ばし走って逃げていった。
「やれやれ……ひどい目にあった…」
ティターニアは乱れた服を戻しながら言う。そして床に転がっている紙コップを拾い、中を見る。
「あの、大丈夫ですか?」
正義感の強い男の人が駆けつけてくれた。おそらくそれが見えたので男は逃げたのだろう。
「ええ、おかげさまで」
ティターニアは頭を下げ、ため息一つ。
「本当に大丈夫ですか?」
ため息を誤解され、顔を覗き込まれる。
「いえ、だめね。空っぽだわ」
そう言って紙コップを目線の高さに持ち上げる。それを見て男性は苦笑い。
「まぁ、その、大事でなくて良かった」
男性が近くの自動販売機に向かい、
「何を飲みますか?」
と聞いてくるので
「コーヒーをブラックで」
男性は自身の金でコーヒーを買い与える。
「有難う」
ティターニアは素直に礼を言うと中央の噴水に腰を下ろした。
「お姉さん、大丈夫だった?」
噴水で水遊びをしていた女の子が駆け寄ってきた。
「ええ。お姉さん、強いからね」
ティターニアは笑顔で答え、コーヒーを口にする。
「すごいね、私もなれる?」
女の子が噴水の梁に肘を置きながら言う。ティターニアは唇に指を当て
「ええ、きっとね」
と答えた。
「あの、警察きましたよ」
女の子の母親だろう女性に言われ見てみると、たしかに警察官がいた。
「先程の痴漢の?」
警察官がティターニアに歩み寄ってくるので、ティターニアは立ちながら答える。
「はい」
「その時の状況を教えて下さい」
ティターニアは警察に言う。
「――――あそこのベンチに座ってたら若い人に声をかけられて、そのまま襲われました」
最後にそう伝えると、警察官は
「判りました。防犯カメラと照合して、犯人を追跡します」
そう言って去っていった。
「警察も大変ねぇ」
ティターニアはコーヒーを飲みながら再び噴水に腰を下ろす。
「あの、貴方、本当に強いんですね」
先程の女性がため息混じりに言う。ティターニアにそんな自覚はない。
「そんな事ないですよ」
ティターニアが苦笑いしながら言うと、水遊びをしていた男の子が指を指しながら
「あーっ!お姉さん知ってるう!妖精さんなんでしょ!?」
叫ぶように言う。子供のほうが情報が早いのかもしれない。
「良くわかったわねぇ、えらいえらい」
ティターニアが笑顔で答えると、女性は驚いていた。
「妖精、なんですか?」
「ええ。200年あまり生きてますよ」
ティターニアはコーヒーを口にしながら言う。
「あの、私夢があるんです。ダンスがしたくて…」
別の女性が話しかけてきた。どうやら子供の叫び声につられて人が集まってきてしまったようだ。こうなると腰を上げ辛い。
「あら、素敵じゃない」
ティターニアが言うと、その女性は暗い表情のまま
「でも、まだ私17歳で、できるかどうかも判らなくて」
ティターニアは笑みをこぼしながら
「大丈夫よ。歌でも言ってるでしょ?『さあ、踊るのよ。貴方はダンシング・クイーン。若くて可愛い17歳。貴方はなれるわ、ダンシング・クイーンに』て」
ティターニアが言うが、残念ながらその曲を知っている人はその場にいなかった。当然である6000年くらい前の曲である。
「どうしたら有名になれますか?」
「ごめんなさい、判らないわ。有名なのは私じゃなくて肩書だもの」
ティターニアは申し訳なさそうに言う。
「あの、俺、絵が描けるんで、今度見てくださいよ」
「私、ピアノ引けるの」
なんだか転校生につめよるクラスメイトみたいになってしまった。まぁ、それも今日が初めてではないので慣れたものであった。