身分を証す
「本日の授業はここまで。だが、皆に知ってもらいたいことがある。ティターニア君。それとサイス君。来たまえ」
教員に招かれたとおり、ティターニアとサイスは教壇に登る。
「実は少し前から、ティターニア君は天王星の女王に即位し、サイス君は金星の女王に君臨している。立場の話をすれば、彼女たちは護衛が必要なのだが、本人たちの意思で監視するだけに留まっている」
教員が言うと、ティターニアは一度頭を下げ、
「あの、女王様とか、そういうのじゃなくて、今まで通り接してくれたらそれでいいから」
「私も、同じく今まで通りでかまいませんわ。変に気を使われると疲れてしまいますもの。今は立場の同じ学生。そういうつもりでいてくださいませ」
サイスが言い終わると教員は
「なお、立場の問題でティターニア君の言動は常に監視されている。つまり、常にモニタリングされてるってことだ。粗相のないように」
それを聞いて、一人の生徒が手を上げ発言する。
「あの、もし、何かしたら罰せられるのですか?」
その質問に返したのはティターニアだった。
「何も咎められないわ。例え刺し殺しても、罪に問われる事はないわ。だから監視されているの」
それをティターニアが言うと教員は咳払いを一つ。
「コホン。悪いが質疑応答させるつもりはないんだ。今日は報告だけだ。さあ、分かったら帰りたまえ」
教員は行動で示すため、足早に教室から出ていった。
そして一人の生徒がティターニアに近づいていく。昨日水をかけた生徒だ。
「あ、あの……昨日は御免なさい、その…お願いだから誰にも言わないでほしいの」
ティターニアは無言で端末を操作し、電子黒板に接続すると、黒板に今の監視状態を写した。黒板には「今」が映し出され、リアルタイムで監視されている事を知らせる。
「あ……ああ…」
その生徒は腰を抜かし、座り込んでしまった。ティターニアは表情を変えず、
「私は、何も言うつもりもないわ」
それだけを言うと電子黒板と端末を切断し、教室を後にした。校門のところまで来たところで、ティターニアはゲームセンターに行くことを思いつき、そちらに足を向ける。
手始めにキーボードスタイルをプレイする。ティターニアは14のキーをリズミカルに叩き、得点を重ねていく。途中でgoodの文字が見え首を傾げたり、鬼譜面に舌打ちしながら曲を攻略する。音ゲーは調子いいらしいので、次はレースゲームに挑戦する。まずスパ・フランコルシャンで肩慣らしをして、鈴鹿サーキットでガチアタック。余韻が残るのでニュルブルクリンクを走り、今日のゲーセンを終える。まだ興奮冷めぬ状態なので喫茶店に入って落ち着きを取り戻す。
「あら、サイス!」
ティターニアが声を出すと、相手もそれに気がついた。
「あら、奇遇ですわね。一緒にいかが?」
「是非是非!」
ティターニアは座るなり、端末を机に接続しコーヒーとスイーツを注文する。
「でしたら、私も追加をしませんと」
そう言ってサイスはコーヒーを追加注文する。しばらくすると、配給ロボットがコーヒーとスイーツを運んできたのでそれを受け取る。
「ここのコーヒーとても美味しくて」
「わかる。私もここのコーヒーだけは別格だと思ってるの」
サイスとティターニアが話しながらコーヒーを口にする。ほろ苦さに甘さの感じる、程よいブレンド。何度も飲みたくなる美味しいコーヒーだ。
「そう言えば、こんど新しい下着を買おうと思うのだけど、新色が近いうちに出るから、それも気になって」
ティターニアがそう切り出すとサイスは口元を緩めながら
「あら、何色ですの?」
「薄紫かな。悩んでるのは黄色とだけど」
「ん~、私は黄色のほうが似合うと思うけど、薄紫も捨てがたいですわね」
「でしょ?どうしようかなって。でもこの間買ったばっかりだから、2つもいらないし……」
二人が会話を進めながらコーヒーを味わっていると、隣から小さな声が聞こえてきた
「ねぇ、あの二人、先生が女王様って言ってた二人じゃない?」
「まじだ、こんな所で何してんだろ」
その声が伝染したのか、チラチラとティターニア達の方を見る人が増えてきた。ティターニアはあまり気にならない様子だが、サイスは居心地が悪いようだ。
「チラチラ見られるのは昔からだしね」
「私は……ちょっと…」
こうなってはコーヒーをゆっくり飲むのは難しい。
「サイス、先に帰る?私はまだこれ食べ終わってないし」
「いえ、大丈夫ですわ。この目にも慣れませんとね」
サイスが強がりを言うので、ティターニアはサイスの隣に座り身を寄せ合う。
「ほら、こうすれば私と一緒……大丈夫だからね」
軽くサイスを抱き寄せるとサイスは目を閉じ身を任せる。
「ふふっ、いつも励ましてたと思ったのに、今日は逆に励まされてしまいましたわ」
サイスはそのあと、落ち着いた様子でコーヒーを楽しんでた。




