金星と天王星はいつも交わらない
今日は金星の首相と会合だ。それが終わればこの学園都市船は出港する。
「あら、天王星人。「助けてくれ」とお願いしたわけじゃなわ」
これだから金星人ってやつは。と内心思ってしまう。ティターニアはため息交じりに
「では火星にお願いしましょうか?」
と、嫌味を言う。
「どうして、天王星人はすぐ火星人みたいな野蛮人を出すのかしら」
「では海王星にします?」
「やめてくださる?そうやって次々と国を出すの」
ティターニアはそれを聞いて肩をすくめる。
「それにしても、汚らわしい天王星人と会合なんて悪夢よりおぞましいわ」
それも慣れた言葉だが、今ここにいるのは天王星代表と金星代表なのだ。
「そうやって人を見下す態度、良くないと思います」
ティターニアはハッキリと言った。
「そもそも、男と抱き合うだなんて不潔よ不潔。女は清く孤高の存在であるべきよ」
よく金星人はこの人を首相に選んだな。そう思わざるを得ない言葉だ。
「まさか哺乳類を否定するとは思わなかったわ」
「あら、貴方…間違ってましてよ。「哺乳」は否定してないわ」
そこは突っ込むのか……。そして首相はこう繋げた。
「我が子を腕に抱き授乳する様は、まさに「この時のために生きてきた」と言うに相応しい」
「人類はそもそも男女で1組だったのですが……」
ティターニアのその台詞も首相は否定する。
「古代はそうかも知れないけど、今は違うわ。男と言う独裁者から開放されたの。私達はまさに自由の象徴なのよ」
ティターニアは少し考え
「自由とは本来、厳格なルールのもとに存在するものです」
「だから何?私達はルールを破った覚えはないわ」
それはたしかにそうだが
「それに考えたことありまして?男性のあの汚らしいアレを神聖なアソコに入れるだなんてとんでもない。あまつさえ汚らしい物まで出されて……。実に汚らわしい」
首相の表情も、険しい顔で心底嫌っているのが伺える。
「まあ、あれが綺麗かどうか問われると確かに、汚い方だと思う。けど、そこまで男を嫌う必要もないのでは?それは本当に国民の代表者の発言ですか?」
「男は女を搾取する存在であり害悪よ。それは歴史が証明しています。それを肯定する女もまた、同罪です。それに、国の代表だなんて思ってないわ。国民なんてどうでもいいし、コロニーは私の物だし、それに異議を唱える者もいないわ」
「では私達の支援は必要ない、と……?」
そこまで言ったときに首相はハッキリと
「ええ。必要ないわ」
と答えた。それを聞いてティターニアは部屋に控えているメイドに声をかける。
「市長を」
ティターニアのそれだけの呼びかけに、メイドはすぐに内線で市長を呼んだ。
「お呼びかね、天王星女王陛下」
「金星の首相の決定により天王星からの支援を中止させます。連絡をしてもらってもよろしいかしら」
「では、そのように」
その二人のやり取りを見て金星の首相は席を立つ。
「では、国民には天王星が一方的に支援を打ち切った、と伝えようかしらね」
なるほど、それが目的だったか。
「その必要はありませんよ、首相。私達の会議はすべて金星を含む全世界に発信されております」
ティターニアが言うと、首相は笑いながら
「あら、この会議にメディアは同室してないみたいだけど?」
「いえ、私はプライベートも含め、すべての言動がインターネット配信されております」
本当は嫌で嫌で仕方なかった、ネット配信。しかし、いざ政治の世界に入ると、これはこれは便利な物だと言うことがわかった。失敗すれば当然光の速度で批判されるが、同時に騙されることも減る。今のように
「勿論、私だけの言葉を集約するのは不可能ですので、貴方の発言も当然発信されています」
それを聞いて首相は目の色を変え怒り出した
「騙したわね、汚らわしいだけではなく、卑怯よ!」
「騙したのは貴方ですし、卑怯なのも貴方です」
ティターニアの涼しい顔を見て首相は落ち着きを取り戻す、
「……そもそも、それが真実だと、誰が言ったかしら。口からでまかせを」
首相の最後の悪あがきはメイドによって断ち切られた。
「失礼ですが、メイ首相。これがその配信ページです」
端末で見せられている配信はまさに今、この部屋だった。
「あの、女王陛下……支援は…」
突然口調が変わったが、ティターニアは
「貴方の発言通り、中止です。航行中の輸送艇もすべてUターンさせます。搭載物資はバザーにでも流そうと思います。貴方はもう少し、自分の発言に責任を持ったほうが良いですね。仮にも国民の代表である首相なのだから」
「時間です、一旦の休憩をはさみます。再開は10分後です」
議事録を取っていたメイドが静かに告げる。首相は端末を操作しながら会議室を出ていく。ティターニアは背もたれに体を預けるとため息を吐いた。
「では会議を始めてください」
メイドが静かに告げる。会議の後半が始まった。だが、首相の様子がおかしい。会議が始まったと言うのに、まだ端末を見ている。そして不敵に笑みをこぼすとティターニアの後ろまで移動する。
「貴方、人権が与えられてないんですってね」
首相が言うのでティターニアは「はい」と答えるしかできなかった。
「つまり、貴方は人間ではないって事よ!」
首相は髪を乱暴に握り無理やり立たせると腹部に拳を何度もぶつける。
「よくも!私に!恥を!かかせたわね!これは!お礼!よ!」
何度も殴られ、ティターニアはついに嘔吐してしまう。ソレを見届けた首相はそこへ顔面を叩きつけ足蹴にする。
「やっぱり天王星人は汚物まみれのほうがお似合いよ!」
議事録を取っていたメイドは何をしていいか分からず、バトルメイド全員に
”ティターニアさんを助けて下さい!”
とダイレクトメールを送った。執務室に居たIWIはそれを見た瞬間、うなだれるしかできなかった。それは「私達には何もできない」と、言う敗北宣言でしかなかった。
だがARだけは違った。同じく見張りをしていたAKと顔を見合わせた。AKは親指でドアを指した。それを見てARはすぐに駆け出していた。
「まぁ、人間だもんね、お腹下す事くらいあるわよ。行ってらっしゃい」
AKは誰も居ない場所に向かってそう言うと、業務を続行した。ARが会議室に到着した時、部屋はロックがかかっていたが、ARはエマージェンシーコードを打ち込み、強制開放させ銃を構える。
「コーレル首相、今すぐその足をどけて下さい」
金星の首相はティターニアのバラけた髪で床をなぞる。まるでモップがけをしているようだった。ARは無言でセイフティを外し、もう一度警告を行った。
「コーレル首相、おやめ下さい。最後の警告です」
「あら、何を言っているの「ティターニアを含む妖精はその全ての行いが実験であり、罪に問われることはない」と、法律で決められてるのよ。これは当然の権利で……」
ARは首相の言葉の途中で引き金を引いた。
「ティターニアさん、しっかり!」
ARが駆け寄り抱きかかえる。
「ごほっ、げほっ、AR……ごめっ……けほっ」
「無理して喋る必要はありません……」
ARが顔を上げた時、別のメイドたちが部屋に入ってきていた。
「メディカルメイド……本当に居たとは……」
ARが驚いていると、ティターニアと首相を担架に乗せ運んでいく。
「ティターニアさんはメディカルルームに。コーレル首相は病院へ搬送します」
ARは今まで入ったことのない部屋に周りをキョロキョロと見渡し、ベッドに横になっているティターニアのそばに椅子を置き、腰を下ろした。
「大事でなくてよかった……」
「私……まだ…人間に……なれて…ないの……かな」
嗚咽混じりにティターニアが話す。人間が300年も生きられるはずがない。その年齢からもティターニアは常に「人ならざるもの」という意識が見え隠れしている。
「いいえ、人間ですよ。生まれたその瞬間から……。ちょっと人より長生きなだけですよ」
「もう嫌……どうして…」
ティターニアの気持ちは分かる。分かるが、なんと声をかけていいかARは悩んだ。
「AR、残念だが君を罰せねばならない」
姿を表した市長がARの顔を見るなり、そう告げた。ARはギュッとスカートの裾を掴み反論した。
「分かっています……ですが、こんなの間違ってます……一人の女の子すら…守れないなんて…」
市長はそれを聞いてない無いのか、自分の話をすすめる。
「地球人のセリフだが「人格を試したいなら権利を与えよ」よく言ったものだ。その通りだと思わないかね?」
「思います……」
ARは即答した。
「私はこの船を預かる船長であり、市長であり、校長でもある。判断は公平に行わければならない」
ARはこの時、最悪の事態を想定した。良くて除隊。悪くて銃殺……。
「如何に法が許したとして、人として……間違っていると、私は思う。だが罰は受けてもらう」
市長はバトルメイドを一人招き入れた。FNだった。そう言えばFNは尋問専科だったな。
「バトルメイドとして、求刑は鞭打ちの刑です」
FNが告げると市長はFNに耳打ちする。しかし、それはARにも聞こえた。
「てきとうに、お尻ペンペンしておきなさい」
「はい、では、これより鞭打ちの刑に処します。スカートを捲ってお尻を出して下さい」
ARは立ち上がり、言われたとおりにお尻を突き出す。FNはそこに平手打ちを打ち込む。全く痛くない、まるで恋人同士のスキンシップのような平手打ちだった。
「では、刑を終えます。私はこれで」
FNはそれだけを言うと通常業務に戻っていく。市長もそのあとすぐ部屋を出ていった。
「ティターニアさん」
ARは言いながら同じベッドに横になる。ティターニアも体を倒し、ARと向き合う。
「私……嫌じゃない?」
ティターニアが泣きながら言う。ARはその涙を拭いながら
「嫌ですね、確かに。そんなメソメソしてる女の子は鬱陶しいです。笑顔が眩しいティターニアさんは、大好きですけど」
ARはそう言いながらティターニアに唇を重ねた。
「本当に?私、の事…」
ティターニアの言葉を遮らせるようにARは再び唇を重ねた。
「じゃあ逆に、私の嫌いな所って…どこ?」
「そうやってメソメソしているところと、とても臭い所です」
「そんなに…臭い?」
「鼻が曲がりそうです」
その匂いは一時的なものだと分かっていたから、ティターニアは目に笑みを浮かべ
「有難う」
とだけ伝えた。




