美容室に行こう
ティターニアは授業が終わったあと、髪をいじっていた。サイスはそれに気が付き歩み寄る。
「ティターニア、どうかなさいまして?」
サイスに声をかけられ、ゆっくりと首をそちらに向ける。
「あ、サイス。あのね、最近髪質が落ちたと思って……一度気になったらずっと気になっちゃって」
ティターニアが髪を手ぐしでとぐと、確かに手が止まる場所がある。
「引っかかる?」
サイスが言いながらティターニアの手をどける。そこは髪が絡まってしまっている。
「そうなのよ……これも最近になってからなのよね」
サイスがその部分を手に取り、なんとかならないかと試行錯誤をしはじめた。
「なにか思い当たる節はありまして?」
サイスが聞くと、ティターニアは別の場所を手ぐしでとき始める。
「う~ん、何かあったかな……あ、そう言えばシャンプー変わったんだった。愛用してたのが絶版になって、仕方なく初めてのシャンプーにしたの」
サイスは他にもストレスとかありそうだな、と思ったが口にしないでおいた。まだ教室には他の生徒がいたからだ。
「あら、それかもしれませんわね。その様子だと、どんな感じか分からないと言う感じかしら」
「うん。あまり良く見ずに買ったから……」
ティターニアが言うと同時にサイスがうまく解いたのが視界の縁で分かった。
「ティターニアさん、もし髪で悩んでるんだったら一度美容室に行ったらどう?」
たまたま残っていたロングヘアのクラスメイトが声をかけてきた。ティターニアは美容室をあまり利用しないので、行くことに決めた。
「そうだね、有難う。今から行ってみるよ」
「貴方も髪で悩んでた時期がおありで?」
ティターニアは話を切ったが、サイスは話に乗った。ティターニアはそれを気にせず少し待つことにした。
「私も自分の髪が気に入らなくてずっと短くしてたんだけど、美容室に行ってから随分改善したしさ、思い切って伸ばしたら、自分で言うのも何だけど、綺麗でさー」
話が長くなりそうだったので、このあたりで切って置くのが良いだろう。
「有難う、確かに綺麗だと思うよ!じゃあ、行こっか」
ティターニアに促されサイスはその場を離れようとする。
「うんうん、行ってみると良いよ~」
まだ話そうとしていたのでそのまま歩み去った。
「いらっしゃいませ。髪質のご相談ですね?お連れのお客様は、こちらでお待ち下さい。どうぞ、こちらへ」
サイスは入り口のロングシートに腰を下ろし、端末を開いていた。ティターニアは案内されたとおりの場所に座る。
「では、まず髪を調べさせていただきますね」
店員が髪を手に取り、センサーを近づける。
「どうです?」
ティターニアが不安そうに言う。
「そうですね、髪が乾燥してしまっていますね」
店員に言われてティターニアは首をかしげる。
「あれ、でもラベルに保湿成分がどうのって書いてあったような……」
ティターニアが言うと店員さんはティターニアを洗髪するべく、椅子を倒しながら
「そうですね、確かに保水成分は良好なのですが……分かりやすく言うと、サラサラにする物とツヤツヤにする物と二通りあるんですよ。今使われているのは前者の方ですが、どうもこれが合ってないみたいですね。後者の方で洗いますのでどうぞごゆっくり」
洗髪は自動らしく、仰向けに寝るだけになってしまった。改めて店内の雰囲気を感じ取ると、落ち着いたポップが流れ、数人のお客さんが同じように座っているようだ。良く頭上を見るとモニターが付いていて、好きな番組を見れるようだった。
「暇つぶしになるかな……?」
手持ちの端末と同期を取り、ティターニアは映画を見ることにする。そんなに時間はかからないと思うので半分くらいをスキップする。
この映画は強襲型ヘリコプターが撃墜されてしまい、戦闘が泥沼化する戦争映画だ。今見ればヘリコプターなぞ非合理的な乗り物だが、この映画の時代では最新鋭の航空機であり、攻撃の要でもある。時代とは悲しいものだ。
「どうです、お客様」
思っていたほど時間はかからず、墜落するシーンしか見れなかったがヨシとする。
ティターニアは立ち上がり、髪を肩から前に流し、触れてみる。
「おお、全然違う」
ティターニアは今までと全然違う髪質に満足した。
「当店でも販売しておりますが、こちらと同じ種類のものでしたら、お客様にピッタリだと思います」
ティターニアは髪を背中に戻し、鏡を見る。まるで蘇ったようだ。
「そうね、お店で探してきます」
「お客様は美しいストレートですので、是非、大切にしてくださいね」
店員に言われティターニアは笑顔で答える。
ティターニアはサイスと合流し会計を済ませ、美容室を後にした。




