ARちゃんとお酒
ティターニアは正装ではなく制服に身を包み校長室に来ていた。
「私は国の代表としてではなく、生徒としてここに来たつもりだったんだけど……しかたないか」
ティターニアはため息交じりに校長先生に言うと
「まあ、重い話のつもりはなかったのだが……お詫びではないのだが、これを」
校長先生はテーブルからアマレットの瓶を取り出すと、ティターニアに手渡した。
「有難う」
会話中嫌がっていたティターニアも、アマレットの瓶を手渡されたときには笑顔になっていた。ティターニアは実に表情豊かである。
「では、学園都市船としても……木星の意見に賛成する、と言うことでこの会議を終えよう。ご足労有難う、ティターニア君」
ティターニアは帰る為、館内の廊下を歩いていたら偶然にもARに出会った。
「ARさん。今からお仕事?」
ティターニアが声をかけると、ARは足を止めそれに答える。
「いえ、逆です。今日はこれで上りです」
「良かったら一緒にどう?」
ティターニアは笑顔で胸のあたりまで瓶を持ち上げる。ARは瓶とティターニアの顔を交互に見る。
「分かりました。着替えてくるので待っていて下さい」
待ってろ、と言われたのだがティターニアは、ARの後ろを更衣室までついて行った。
「まったく、貴方と言う人は……」
ARはエプロンを外し、ワンピース状のドレスを脱ぐ。
「メイド服、防弾って言ってたけど、みんなそうなの?」
ティターニアの素朴な疑問にARは、脱いだドレスを衣紋かけに掛けながら言う。
「いえ、私達バトルメイドだけです。ベッドメイドやキッチンメイドは普通の布と聞いています。それにスカート丈や袖の長さもそれぞれ違うんですよ」
そう言いながらARは私服であるチェックのスカートを穿き、少しフリルの付いた可愛らしいブラウスに袖を通した。
「可愛い服ね」
ティターニアが素直な感想を言う。
「貴方は普段、落ち着いた服を着てましたね」
ARがロッカーを閉め、歩み始めたのでティターニアはそれに続く。
「それと、私はマイラです。メイド服を脱いだ私はARではなく、マイラと呼んで下さい」
「じゃあマイラ、行きましょうか」
ティターニアが先導し、マイラがそれに続く。
「じゃあ何で割る?コーラとかジンジャエールもあるよ?」
ティターニアが冷蔵庫から瓶を取り出しながら言うが、マイラは首を横にふる。
「すみません、炭酸は飲めないんですよ」
それを聞いてティターニアは「可愛いな」と思ったが、口にはしなかった。
「じゃあ牛乳で割る?ウイスキーやブランデーもあるけど?」
ティターニアが言うとマイラは目を細め
「いえ、お酒をお酒で割るのはちょっと……」
と言う。仕方ないのでティターニアは牛乳で割ることにした。
「これはカクテルですか?」
マイラが不思議そうにグラスを眺めている。
「うん。アマレットミルクって言うカクテルだよ。知らない?」
「ええ。アマレットと言うお酒じたい知らなかったので……では頂きます」
少し口にしてやはりグラスを眺めるマイラ。
「杏仁豆腐わかる?」
「ええ」
「似てる味のはずよ」
「確かに」
ティターニアは自分の分のアマレットをウイスキーで割ると、フと思ったことを言う。
「あれ、杏仁豆腐がわかるって、もしかして……」
「ええ。私は天王星出身ですよ」
出身地を告白され、ティターニアは驚いてしまう。しかし、天王星は田舎ゆえ仕事も少なく、選べる職種も少ない。どうしても、このように国を出るしかない。
「マイラはどうしてバトルメイドに?」
ティターニアはグラスを傾けながら雑談を続ける。
「もともと海兵隊だったのですが、軍縮で解雇に。再雇用試験中に、IWIさんに抜擢されたんです」
マイラは笑みをこぼしながら言う。どうやら今の仕事に満足しているようだ。
「もともと海兵隊だったのもあって、訓練は結構こなせました。先輩のHKさんにも良くしてもらえたのですが……」
マイラが口ごもるのでティターニアは思わず
「ですが?」
と、聞いてしまった。
「同期であるAKのセクハラに耐えれないんですよ……すぐにスカートを捲ったり胸を触ったり……IWIさんにも相談したのですが、頻度こそ減りましたが……なくならず」
段々口調が弱々しく、と思ったら、マイラは涙を零していた。
「分かるよ、分かるよ、その気持ち。私も冥王星に居た頃はひどくてひどくて……て、AKさんって女性ですよね…?」
会話に同意しつつ、気になったことをティターニアは聞いた。
「そうですよ。だからですよ……「これはセクハラではない、スキンシップだ」と、言い張るんですよ。確かにロッカールームでは皆の下着姿が見れますし、シャワールームでは裸すら見えますが、それとこれとは違うんですっ」
今度は怒り始めた。校長室のシャワールームはどうやら、横並びにシャワーヘッドが並んでるタイプのようだ。
「まあ、確かにスカート捲られるのは違うよね」
ティターニアもそろそろ同意するのに疑問を覚え始める。
「まあ、そんなこと言っても、同期ってのもあって、AKの事は好きだったりすのよね、ふふふっ」
今度は笑っている。ここまで目まぐるしく表情が変わる人は初めて見る。初めて見るタイプなので、次のお酒を勧めて良いのかどうか悩むほどだ。
「ティターニアさん」
「はい」
「私のグラスが空なのですが」
「え?あ、はい」
もしかしたらヤバイ人にお酒を勧めてしまったかもしれない。




