サイスとティターニア・政治と民意
ティターニアは湯船につかりながらぼんやりと湯気を眺めていた。視界の縁に入る腕が赤くなっているが、いつものことなので気にしない。
『ティターニア、今よろしくて?』
サイスから通話のお誘いだ。ティターニアは悩むこと無く受話する。
「どうしたの?」
『あら、入浴中でしたか。また今度にしましょうか?』
「ううん、大丈夫」
ティターニアがそう言うとサイスは
「その胸を分けてくださいまし」
そう言う。サイスに言われ両手で乳房に触れるティターニア。
「そんなに大きいかな」
ティターニアが首を傾げているとサイスは笑みをこぼし
「冗談ですわ。ところでティターニア、まだ木星には滞在するらしいのだけど、今度はぶらりとどうかしら?」
ティターニアは暫く考え
「やめとくわ。空いた時間はゲームがしたい」
それはティターニアの本心だった。おそらく天王星に帰ればゲームどころではなくなるだろう。
「それでしたらお付き合いいたしますわ」
サイスの申し出にティターニアは嬉しそうに
「じゃあお風呂から上がったら一緒に」
と言った。
「でもなー。こうしてのんびりお風呂入るのもまた良いんだよねー」
ティターニアのその緩んだ顔にサイスは笑みをこぼす。
「ふふっ、今まで色々ありましたものね」
別に一気に何かが襲いかかってきたわけではないが、こうしてのんびりできるのも久々な気がする。
「あぁ、体が溶ける……」
間抜けな声を出しながらティターニアは湯船に肩までつかる。サイスはその光景を見て一般人から女王になる、と言うのは大変なことだと実感する。サイスは爵位があるので女王になってもさほど驚かなかったが、家すらなかったティターニアが女王と言われたら、それは困惑と言う領域を超える。気を緩めることも大切だろう。
「ゆっくり体を溶かして下さいな。もう暫くしたら……お互い忙しくなりますわよ」
サイスに言われ湯船の淵に腕を組み顎を乗せモニターを見る。
「あれ、そう言えばサイス、女王って言ってたけど……コロニーにも偉い人いるんでしょ?」
ティターニアが言うとサイスは背もたれに身を預けながら
「いませんの。所謂、政治家は全て地表に。爵位持ちも全て地表で暮らしてましたの。コロニーは一般住居が多く、地表が裕福層の住む場所……」
サイスの言葉を制しティターニアが口を開く。
「ねえ、それ……受け入れてもらえるの?」
「聞かないで下さいまし」
そのサイスの言葉は重かった。地位で言えばサイスのほうが馴染むのが早いだろう。だが、市民の受け入れられ方は、ティターニアのそれとは真逆であった。
「私も、故郷に帰れば市民に戻る、と思ってましたわ。そうであってほしかった。でも……そうならなかった……私はただ、受け入れますわ」




