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この太陽系で私達は  作者: えるふ
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今日が土曜で良かったね

ティターニアはサイスが起きる前に目覚めた。と言っても時間は良い時間になっていたのでティターニアはお酒を手に取る。

「今日はウイスキーの気分ね」

緑のボトルに黄色いラベル。帆船の描かれたボトルからウイスキーを注ごうとして踏みとどまる。

「ロックもいいわね」

ティターニアは冷凍庫の製氷皿を確認すると何も入ってなかったので水を注ぎ瞬間冷凍釦を押す。瞬間冷凍釦を押すと僅か10秒で氷ができあがる。そうしてできた氷をグラスに放り込み、ウイスキーを注ぐ。

「うん。たまにはロックもいいわね」

グラスを傾けると氷がカランと音をたてる。至高の時である。土曜で休みとは言え、誰が午前中からお酒を飲むと考えるだろう。

「朝はいらないからお昼どうしようかな…」

ベッドを見るとまだサイスは寝息を立てている。サイスは先日慣れないお酒を飲んで倒れるように眠ってしまった。つまり

「二日酔い対策いるかなぁ、やっぱり」

ティターニアは独り言を言うようにご飯を炊飯器に入れる。

「今日は夜はシェフにしようかしら……」

シェフ、とは調理用の3Dプリンターの総称である。テンプレートさえインストールすればだいたいの食料品が作れる。それでいて安価である。中にはシェフ意外の食品を口にしたことがない人もおり、その浸透率は極めて高い。専用の粉末をセットすれば、2、3分後には食べられる、インスタント食材だ。

「わ、私、シェフは食べませんわよ……」

丁度その独り言を聞いたのか、サイスがベッドで半身を起こしながら言う。しかしその顔は青かった。

「あー、二日酔い?」

「ええ」

「もう少ししたら御飯炊けるから」

もう少し、と言っても1時間後である。

「もう少しあっさりした物がいいですわ」

サイスの気持ちもよく分かる。

「二日酔いの時はご飯効くんだよ?あとはカレーにしてしまうとかかなぁ。とりあえず、水飲む?」

ティターニアはグラスに水を注ぎサイスに手渡す。

「ちょっと色ついてません?この水……」

「気のせいだと思う」

ティターニアはグラスを覗き込み、慌ててサイスからひったくる様にグラスを受け取ると水道ですすぎ、水を再び入れてから手渡す。

「気のせいじゃないかな?」

そして再び同じセリフを言う。

「何をどう持って「気のせい」ですの?」

「いや、まさか昨日のお酒が入ってたグラスだなんてそんな事あるわけ」

ティターニアが言うと、サイスは睨みながらも水を飲んだ。

「すすいでくれたのは好感もてますわ」

サイスはまだ睨んでいたが、ティターニアは錠剤のラムネを手渡した。

「これは?」

サイスが不思議そうに瓶を眺めている。

「二日酔いに効くよ」

ちなみにこれらは本当のことで、二日酔いにはブドウ糖が効く。だからご飯やラムネが効くのである。ちなみに、茶色いカレー(緑とかダメよ)やしじみ汁なんかも効果があるのは有名なところである。

「こんなのが?」

「騙されたと思って?」

「分かりましたわ」

サイスは瓶から数個取り出すと口に放り込む。

「じゃあ私はちょっとフーガ君に喧嘩を売らなきゃいけないから」

ちょっと物騒な台詞だな、とサイスが思っているとティターニアはフーガを通話で呼び出す。

『そろそろだと思ったよ』

「今日は秘密兵器があるのよ」

『そいつは楽しみだ、じゃあ行くかね』

ティターニアはゲームを起動し、VRモードをONにする。このVRモードをすると部屋全体がスクリーンになるので、ゲームをする時は臨場感が高い。ティターニアの部屋は今まさに宇宙空間になっていた。

「じゃあ行くわね」

『おう、きやがれ』

正面にエンゲージの文字が出たのを確認してティターニアは戦闘機動に入る。このゲームは少数での空中戦を行うのだが、お互いが背を向き合っている状態からスタートする。そのため最初にひねる必要がある。ティターニアが旋回を終えると、まだターン中の敵機が居たので容赦なくパルスレーザーを撃ち込む。船にはシールドが搭載されいるのでレーザーが有効。

「誰かわからないけど、遅いわ」

ティターニアはつぶやきながらその船の後ろに入り込む。

『甘いな』

フーガがさらに後ろに回り込む。ティターニアは背後からの攻撃を避けながら攻撃をしている。

「ティターニア、ちょっと危なくありません?」

「大丈夫、大丈夫」

ティターニアは真後ろのフーガがミサイルを撃ち込んだのを確認してから、オプショナルパーツであるチャフを撒いて一気に左に旋回した。

『あ』

フーガの声が聞こえる。ミサイルはティターニアを追わずティターニアの追っていた敵、フーガの味方機に吸い込まれた。


ターゲット・シールドオフライン


今の攻撃でティターニアが追っていた敵のシールドが吹き飛んだのを確認してティターニアはミサイルを叩き込む。

「よし、1機撃墜」

『味な真似を』

フーガはティターニアを追いかけるのは得策ではないとふんで離れていく。

「あら、釣れないわねぇ」

ティターニアは腰を振りながら言う

『小細工しかけられても困るしな』

ティターニアはレーダーを確認して敵機の位置を確認する。

「右に2機、左に1機。これは私が左を狙うと踏んでの布石と見たわ」

ティターニアは右の2機に狙いを定め2スロット目のレーザーを撃つ。あっとゆう間にシールドが剥がれ、耐久値もすぐに削れた。

「ティターニア、強いんですのね」

サイスが水を飲みながら言う。

「ええ。このゲームは昔からやりこんでるからね」

ティターニアは左に捻り左の1機を食い、右の残った1機を狙い、叩き落とす。

「残りはフーガ君だけね」

『まったく、油断も隙もない……ロックオン、まさかガンシップ使ってるとはさっきは判らなかったぜ……』

フーガが驚いたように言う。ティターニアは呆れたように返す。

「何言ってるの。貴方みたいに未だにコブラ使ってる人のほうが珍しいわよ」

『万能戦士だぞ』

「器用貧乏の間違いでしょ」

『うっせ、撃ち落とすぞ』

「できるものならどうぞ」

ティターニアはヒートシンクと呼ばれる船内の熱を放出する装置を使い、レーダーから一端消えると急上昇(宇宙空間で上昇とは?)を行い視界から消えるとサイレントランニングモードを入れ一気に離脱していく。

『お、それが秘密兵器ってやつか?』

「まさか。これよ」

ティターニアは嬉しそうにサイレントランニングを解除して第2スロットのレーザーを叩き込む。

『ちょっとまて、一発でシールド剥げたんだけど?ちょ、ちょ、ちょ。あーっ!くっそ、エンジニアカスタムレーザーか!』

エンジニアにレーザーをカスタムしてもらうと装甲を減らす能力が付与されるので装甲に対しても高い効果が得られる。

「みたか、これがコロッシブ・プロジェクションぞ」

ティターニアが自慢げに言う。ちなみにコロッシブ・プロジェクションとは別のゲームの装甲地を下げる効果がある。装甲地を下げる、つまり装甲地を削ってダメージを与えるマグとの相性は最悪なので、つけっぱなしはやめような。

「じゃあ今日はウチに来てもらえるかしら?」

『判ったよ、行けば良いんだな?』

ティターニアはゲームを切断すると、両手を上げて後ろに転がり、手足をバタバタさせる。

「いやー、久々に勝ったよ、嬉しい」

それを見てサイスは

「ティターニア、格好良かったですわ」

「まぁ、最初は武器を弱いもので実力を隠しておいて、油断したところを高火力武器で一気にたたむって感じだったんだけど、うまく行って良かった」

部屋でゴロゴロしていると呼び鈴が鳴ったのでティターニアはフーガを招き入れる。

「ティターニア、さすがにその格好は無いと思うぞ」

ティターニアは自分の姿を見下ろす。大きめのTシャツ1枚。下は下着。しかも下は見えてる。

「あー、いや、その、えっと」

「ティターニア、意外とズボラですわね」

「サイス、今それ言う?」

ティターニアは仕方ないのでTシャツを脱ぎ、チューブトップのワンピースを着る。

「なんてゆうかごめんね?」

ティターニアが言うとフーガは目線をそらしながら

「いや、大丈夫だ」

フーガも気まずそうな感じで目線が安定していない。

「いい感じに少し反応してますわね」

サイスが目を輝かせていた。

「頼む、そこは見ないでくれ。俺のせいじゃない、俺は悪くない……ちょっとまて、お前この間の…!」

手で隠すと余計怪しい気がして手が落ち着かなくなっていく。そして気がつく。ベッドに座っている背の低い女は初日に喧嘩を売ってきた女である。

「この間は申し訳ありませんでしたわ……。今は心を入れ替えましたの」

サイスが頭を下げるのを見て、ティターニアは話を戻そうと試みる。

「なんてゆうか、男の子だねぇ」

ティターニアが他人事みたいに言うとフーガは

「他人事みたいに言いやがって…」

と少しキレ気味だった。だが、話はいい感じに戻ったようだった。

「そう言えばサイスって男と女だったらどっちを恋人にしたいわけ?」

さらに話を変えようとティターニアはサイスに聞く。

「恋人にするならやはり女性がいいですわね。でも男女間のまぐわいも好きですわよ?」

サイスが言うと、ティターニアは少し顔を赤らめながら、

「と、とりあえず、お昼にしましょうか」

「そうだな…」

ティターニアの提案にフーガはテーブルに座りながら言う。

「まぁ、言ってもご飯と鮭くらいしかないけどね」

ティターニアは鮭をオーブンに入れる。

「シェフ?」

フーガが聞いてくる。

「いいえ、ナマよ」

「ナマの魚初めてだから期待してる」

フーガが言っているナマとは生魚とゆう意味ではなく、生き物かどうか、とゆう意味でナマである。

「ナマで思い出したけど、地球時代は魚を生で食べる人種がいたそうよ」

「まじかよ野蛮人だな」

フーガは言うが、ティターニアはオーブンを眺めながら

「でもお寿司、美味しいよ?」

「あれ生魚なの!?」

「うん」

「知らなかった…」

フーガは驚いていたが、ティターニアは日本系企業が多く存在する天王星の出身である。もちろんティターニアは食事に箸を使う。

「サイスも鮭食べる?」

「ええ、頂きますわ」

ティターニアは程よく火が通った鮭を取り出し、お皿に盛ると、テーブルに並べ、できたてのご飯を茶碗によそってテーブルに置く。

「じゃあ、いただきます」

ティターニアは両手を合わせ食事を開始する。2人もそれにならって食事をする。

「あら、美味しいですわ」

サイスは口にあうようで食事が進んでいた。

「う~ん、この箸とかゆうやつ、使いづらい……」

フーガは箸に悪戦苦闘していた。

「フーガ君、箸使えないのね」

ティターニアは笑いながらナイフとフォークを手渡す。

「箸が使えないだなんて、まだまだですわね」

サイスが煽るように言うと、フーガは

「うるせー、作法ってのは楽しく美味しく食べるためのものだ、道具を固定するものじゃない」

言い訳を言う。厳格な場所ではないので確かに物に拘る必要はない。それを判っているのでティターニアは先にナイフとフォークを渡したわけで。

「この鮭、国から送られてきたの。先日届いてびっくりしたの」

「国からって事はマジでナマ魚かよ」

フーガは驚き、フォークで鮭をつつく。

「どうりで美味しいわけですわ」

サイスが美味しそうに鮭を口に運ぶ。それを見てティターニアは嬉しそうにご飯を口に運ぶ。



「このあとどうする?」

ティターニアが言うとフーガは

「どうせ洗濯物たまってるんだろ?」

「あ、えーと…うん」

ティターニアは洗濯機横の洗濯カゴを持ち、

「ゼカマッヌコズキッノ……」

ティターニアは思わず天王星語で小さく答える。

「天王星語は判らないですけど……」

「なんとなく今のは判った気がする」

サイスとフーガは手招きして部屋を出る。そしてそのままランドリーへ直行した。


「もう少し溜め込まないで毎日洗濯したらいかが?」

サイスが少し呆れたようにランドリー内にある椅子に腰を下ろしながら言う。

「ごめん、そうするつもりなんだけど、帰ってきたらそのままゲームして寝ちゃうのよね」

ティターニアは洗濯機に洗濯物を放り込みながら言う。

「まぁ良いけどな、どうせ部屋にいても暇だから」

フーガは洗濯機の中で回っている洗濯物を眺めながら言う。

「うぅ、ソォミィ……」

ティターニアは天王星語で謝りながら椅子に腰を下ろす。壁はスクリーンになっており、外が見えるようになっていた。

「前来た時はただの壁だったのに……」

ティターニアは映し出された外を見ながら言う。

「前が点検中とかそんなんだったんじゃないか?」

フーガがティターニアの近くに歩みながら言う。そして

「お前ら、こうやって並んでると親子みたいだな」

と言う。

「身長差的に?」

ティターニアは振り返りながら言う。その頬は僅かに緩んでいた。

「うん」

フーガが言うと、サイスは複雑そうな顔で

「そうですわね……ティターニアみたいな母だったら、良かったかもしれませんわね」

サイスは答えた。

「私は困るかな。お嬢様は娘にはちょっと……でも、友達にはいいわね。楽しいもの」

ティターニアが嬉しそうに答えるとサイスは少しだけ頬を緩め

「それも、そうですわね」

と答えた。丁度その外を7式輸送船と9式輸送船のコンボイが抜けていく。

「流石に学園都市船よりもあっちのほうが足が早いみたいだな」

フーガがコンボイを眺めながら言う。

「あれだけの車列が金星に行くの、珍しいね」

「物資を集めているのですわ。これから金星は飢餓との戦いになるでしょうから」

サイスが机に頬杖をつきながら言う。

「どうして?だって金星って豊かな星でしょ?」

ティターニアが疑問に思うのも最もだ。人口は言うほど多くないが、それでも都会並の人口を誇る星である。

「地表に住んでいた裕福層はもとより、地表で農作物を育てていたので全滅ですわ。コロニーで農業はしていませんの。残っているのは商業都市区くらい。どう考えても消費国家ですわ。農作物を輸入に頼れるのは火星ですが、それもいつまで耐えれるかは不透明ですのよ」

「暫くはシェフのお世話になる事になるな」

この宇宙時代、3Dプリンター(シェフ)で食べ物が容易に手に入る事に加え、農業で食料を確保するのが難しい事が相まって、農業は限定的な職業となっていた。特に酪農は排泄物などの問題もあり敷居が高い職業となっていた。

「新鮮なお野菜やお肉が手に入らないのは辛いね……」

ティターニアはコンボイを眺めながら言うが、そのトーンは暗かった。

「まぁ、合成肉とフードカートリッジがあれば当分大丈夫さ。美食家は悶絶するかもしれないが」

フーガは丁度後ろにある洗濯機を見る。乾燥モードに入っているが見えた。フードカートリッジとはシェフ用のカートリッジである。味の再現性は高いが、グルメ舌では判別できるらしい。

「食料の問題は輸送すれば解決する。問題は病気さ。アウトブレイクになったら致命傷になりかねん」

フーガは洗濯カゴを持って洗濯機の前に移動する。丁度終わったところだったので洗濯機から洗濯物を取り出す。

「金星って医療は進んでるんでしょ?」

ティターニアは首を傾げながら言う。

「ええ。特にコロニーは厳しく管理されてますわ」

サイスが言うとフーガは

「だからだよ。これだけ沢山の物資を輸入すれば何かしら入ってきてしまう。医療が進んで皆が病気になりにくいとなったときの対策が疎かになってることがある」

懸念している事を言う。医療がある程度すすむと特定の病気にならなくなる。そうすると「その病気にはならない」と思い込んだ人たちが現れる。さらに衛生面がしっかりしていれば病原菌の数も減るだろう。そんな状態が常態化した場合に外から大量に入ってきた場合、アウトブレイクを起こしてもおかしくくない。

「政府には期待してますわ」

サイスはため息混じりに言う。

「ティターニア。取り込み終わったぞ」

フーガが思い出したように言う。

「え!?あ、あー!あぁ!」

ティターニアは慌てながら洗濯カゴに手を伸ばす。

「どうした?そんな情けない声だして」

フーガが首を傾げながら洗濯カゴをティターニアに手渡す。

「また洗濯物をフーガ君に取り込ませてしまったなぁ、と思って……」

ティターニアは顔を赤らめながら言う。それを見ていたサイスは

「お二人とも、お似合いですわね」

微笑みながら言う。ティターニアとフーガは目を合わせ、

「待って」

「待つんだ」

二人は同時に答えた。

「ティターニアは私が思っている以上に乙女ですわ。見られれば当然恥ずかしいし、触るのはご法度。でも、フーガの前では特にズボラな面を見せているのを見ると、ティターニアは貴方に心を許していると思いますわ。そして貴方はティターニアに想いを寄せている。違いまして?」

サイスは立ち上がりながら言うと、ティターニアの前に立つ。

「いや、その……」

ティターニアは目線をそらす。

「二人はそれくらいが良い距離感なのかもしれませんわね」

サイスは後ろで手を組みながらランドリーの扉に近づく。

「サイス…」

ティターニアがなにか言おうとしたが、サイスはそれを制する。

「ごゆっくり」

サイスは一人ランドリーの扉をくぐる。残された二人は顔を見合わせ、笑みをこぼすと、並んでランドリーを後にした。


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