政治とティターニアと
翌日通されたのは会議室だった。
「実は、こっちが本題でね」
ディーツが椅子に座りながら言う。
「どうぞかけて」
ディーツに促されるままティターニアは一番手近の椅子に座り。隣にフーガ。さらに隣にサイスが座りサイドをARとAKが固める。フーガがティターニアを見て固まっているのでサイスはつついてフーガを振り向かせる。
「フーガ。鼻の下が伸びてますわよ」
ソレに対しフーガは咳払いで誤魔化そうとする。
「太い脚のどこが良いのか……」
「いやいや、何言ってるんだ。これくらいの脚が……すみません」
話に夢中になりつい声が大きくなっていくフーガが目線に気が付き、途中で謝る。
「よろしい。では本題に入ろう。議題は金星の復旧についてだ」
金星はアウトブレイクを起こして大変なことになっている、と言うのを最後に詳しい話は聞いていない。
「アウトブレイクを起こしたのはご存知だね?実は無事終息し、再び復旧を再開する目処がたった。しかし、ティターニアさんを呼んだのは他のでもない。天王星の技術を利用させてもらえないだろうか」
天王星の保有する9式輸送船は少し仕様が異なる。木星や火星の所有する9式輸送船は与圧されているし、生命維持装置も搭載されている。しかし、天王星の保有する9式輸送船は与圧されていない。完全に真空となってしまう。与圧するにはコロニー側から空気を送り込む必要がある。
「それは構わないと思いますが、なぜそれを私に?」
ティターニアは疑問に思ったことを言う。そのお願いは国家首相に言えばいい。
「ティターニアさん。貴方の身分は既に女王ですよ」
玩具のような扱いを受けていたと思えば突然の有り余る権力を与えられティターニアは困惑するしかない。
「分かりました。具体的に、何をお望みですか?」
ティターニアはこの問題に取り組むしか無い、と思った。
「具体的には、医療器具と食料品をそれぞれ天王星の輸送船で運搬していただきたい」
天王星の輸送船は真空ゆえ別名「無菌貨物船」と呼ばれていた。もちろん、パイロットが保菌している場合もあるので実際は無菌ではない。
「9式輸送船は確かに保有していますが、保有数は決して多くはありません。木星のほうが所有数は圧倒的に多いはずです」
ティターニアが言うとディーツは腕を組み答える。
「確かに保有数は多いが、それではまたアウトブレイクの危険性がある。前回のアウトブレイクは貨物室から広がった可能性の方が高い。多少輸送量が落ちても無菌で運べるメリットは大きい」
ディーツが言うとティターニアは顎に触れながら答える。
「現在火星が政治的に不安定なので火星は支援してもらえないんですよね?」
以前のクーデター問題が急速に終息するとは思えない。しかし火星の支援を受けれないとなると最も近い惑星は地球。次いで木星という事になる。
「地球としては天王星の受け入れはできない、と」
となると木星と金星を往復させるしかないのか。しかしその場合距離が問題だ。かなりの距離を移動するはめになる。9式輸送船にFSDは搭載されていない。7式輸送船は確かにFSDが搭載されている特殊型もあるが、輸送量が少なく、往復回数も増えてしまう。コックピットも小型船並しかなく、パイロットにはかなりの負担になるだろう。
「木星と金星を往復してもらうことになる。9式輸送船は中型船ながらかなりの輸送量があるのだが、金星は男性上陸禁止のコロニーだったね」
それを聞いてティターニアはハッとした。
「申し訳有りませんわ。如何に緊急時と言えど男性を上陸させるわけにはいきませんわ」
サイスが申し訳無さそうに口を開いた。
「待って。木星で荷物を積んで金星では休憩すらできずにその足で木星まで戻れと?そしてまた金星へとんぼ返りですって?パイロットが過労死してしまうわ」
「しかしやって貰わなければ金星が飢餓で滅びる」
ディーツが言い放つのでティターニアは頭を捻り考える。
「最低でも1隻は必ず木星で休憩をとっている状態が作り出せるなら…」
ピストン輸送は何も1隻でやるわけではない。何隻かで行うことになる。最低3隻用意すればその条件は整う。
「なるほど」
ディーツは首を縦に振る。しかしティターニアはまだ不満だった。
「しかしそれでも船は不足するでしょう。ですので木星の9式輸送船を天王星式に改造しましょう。そうすれば多くの問題を解決します」
ティターニアが言うとディーツは腕をほどき
「改造にはどれくらいかかるか、によるね」
「それはメカニックに聞いてみないと分からないですが……その判断は木星の事情なのか、金星を助けたいという願いなのか、その違いはでますけど」
ティターニアが言うとディーツは逃げ場なしか、と言うかのように肩をすくめた。
「あとは君の忠実な市民がなんとかしてくれるだろう」
ディーツの言葉に即座に反応したのはティターニアだった。
「忠誠心とはその価値が認められる場合にのみ捧げられる物です。早く私にはその価値がないと思われたいものです。その方が国民は幸せでしょう」
ティターニアの言葉にフーガもサイスもティターニアを見た。仕方ない。
「それはなぜですの?」
「私に政治は分からない。仕組みすらよく分かってない。私はただの市民になりたかった」
しかしティターニアのその願いは届かないだろう。それはその場に居た誰もが同じ事を思った。
「民主主義ってのはそういうもんさ。国民は掌返しが仕事だからな」
フーガがため息交じりに言うとサイスは少し間を置き
「権威だけ持って、国政は政治家にまかせれば良いのですわ」
サイスの言葉に思わずティターニアはサイスの方を見ようとする。王様が国政をしないなんてティターニアの頭にはなかった。
「古代イギリスや古代イスラエル。それにティターニアの直系である古代日本は分離させてたそうですわ」
厳密にはというか言わずもがな日本は王様ではないのだが、ここではそのややこしい話はしない。
「つまり……?」
ティターニアが目をパチクリさせながら言うのでディーツが説明する。
「つまり、象徴としての王であり「政治には深く関わらない」と言う意味ですよ。……話がそれましたね。木星として天王星の支援はしましょう。しかしあくまでメインは天王星というところでいいでしょうか」
ディーツが確認するとティターニアは首を横に振る。
「それを決定するのは私ではありません」
と言い切った。
「分かりました。この会議の内容はすぐに天王星へ送るとしましょう。ご足労いただき有難うございました」




