工場見学
食事の後、リムジンで向かった先はガス施設だった。木星から汲み取ったガスを分離、調整し、燃料用の水素を取り出している。
「さすが、工業レベルは最高峰と言われるだけありますわね」
サイスが言いながら窓から惑星を見下ろしている。その先にはプローブを垂らしているガスタワーが見える。そこからピストン輸送でコロニーに集めたガスを加工し各国へ輸送する。
「そうね。木星は太陽系の燃料の70%程を担ってるて言われてるしね」
ティターニアも窓から惑星を見下ろす。そこから見る眺めは壮大と言わざるをえない。
「いい眺めですね」
ARも窓に近づきながら言う。
「ほんとね。なんで木星はこれをアピールしないの?」
AKが言うとディーツはあまり関心なさそうに
「いえ、あまり見栄えがしないと思いまして」
それにため息混じりに答えたのはフーガだった。
「惑星を見下ろすなんてその惑星でしかできない事なんだから、もっと表立ってアピールして良いと思うけどね。火星なんて惑星を見下ろす展望レストランは高級店ばっかりだしな」
フーガも木星を見下ろす。
「ところで、木星のガスは水素が多いと言うだけで水素だけって事はないんだろ?その無駄なガスはどうしてるんだ?」
フーガが言うとディーツは笑いながら答える。
「いえいえ、無駄なガスなんてありませんよ。全て資源です。まったく無駄がないと言えば嘘になりますが、その殆どを輸出しております」
さすが資源大国という訳だ。
「すげえな」
フーガが惑星から目線を外さずに言う。
「さ、惑星を眺めるのはこれくらいにして、工場の方へ行きましょうか」
ディーツに促され工場へ入ると、多くの職員が忙しそうにモニターやパネルを見ている。
「ここもあれですか?ティターニアさんに言わせてみれば無駄が多いですか?」
ディーツが言うが、ティターニアは首を傾げながら
「いえ、工場ならこんなもんじゃないかしら。工場の自動化と言っても限界はあるし」
ティターニアは見学者用通路を歩きながら言う。
「もっとも、天王星は人手不足で自動化しないとどうにもならない所まで来てしまったのだけど……」
もしそうでなければ人間を人工的に作り出そう、と言わなかったはずである。しかし、それも全て殺されてしまったが……
「天王星の自動工業やオフィス自動化はもともと木星の技術ですが、天王星の遺伝子技術は火星や金星に輸出するほどのものですよね。それらを組み合わせた天王星はもっとも効率的な作業ができる国とも言えます」
ディーツがティターニアの後を追うように歩きながら言う。
「人間を人間が作るのは本来あるべき姿に、と世論はなってるみたいだけどね」
ティターニアは立ち止まり言う。
「それこそ「時代にそぐわない」と一蹴すれば良いのです。神を尊ぶ時代は終わりました」
ディーツが言うとそれにAKが続いた
「すべて人が作り人が管理した。人は地を捨てソラへ旅立ち、地に思いを馳せる。しかしそこに神の影はなく、ただ人類が歩んだ道が残るのみ」
その言葉を聞いて反応を示したのはサイスだった。
「私が学生の頃の首相……ウェイス首相の言葉ですわね」
サイスが言っているウェイス首相とはかつての金星の首相である。
「この続き、覚えてる?」
AKがウインクしながら言うのでサイスは顎に手を当てながら
「確か……「尊ぶべきは神ではなく、人でもなく、己である」でしたからしら?」
サイスが言うとAKは微笑みながら
「そうね。それに、ティターニアさんも自分で言ってたじゃない。神を尊ぶ事を忘れた人類にって。ティターニアさんが嫌っているのは研究所そのものじゃなくて、中の人の問題でしょ?」
AKが言うとティターニアは再び歩みを再開する。
「まあ、そうだけど……」
「悩む、と言うことはそれだけ本気だと言う事。良い女王様になりそうね」
ARがティターニアの肩に手を置きながら言う。
「研究所再開……私が閉鎖したのに私が再開したら……何か言われそうね」
ティターニアが展示物を見ながら言う。見学用通路の所々に置いてある展示物は工場内で使用する機械やパイピングが展示されている。
「300年前の事なんて覚えてる人いるかな」
フーガが言うとディーツは展示物の横の釦を押しながら言う。
「意外と、覚えているものですよ。ただ、確たる理由があれば民衆は納得するでしょう」
パイプを流れる気体の流れをフィンで整流し、キャビテーションが発生しないだけでなく、効率よく気体を運ぶパイプのカットモデルがアニメーションで分かりやすく展示されている他、そのカットモデルが実際に触れられる。
「キャビテーションが起きないようにって言ってるけど、キャビテーションって液体じゃないと発生しないんじゃないの?」
「100年程前でしょうか。研究員が「気体にも発生する」と言うのを発見してまして。以降、気体の運搬に革命が起きました。ティターニアさんは聞いたことがあるのでは?」
「ごめんなさい、流石に覚えてないわ」
ティターニアが言うとディーツは笑って返す。
「さすがに100年もあっては覚えてないですよね」
通路を進んでいくと、先程の入り口に戻ってきた事が理解できた。
「楽しかったわ。食事の時とは違って」
ティターニアは嫌味を込めて言う。




