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この太陽系で私達は  作者: えるふ
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一連の騒動に決着を

「もしもし?」

ティターニアが通話を開始するとすぐに繋がった。

「はい、こちら……ぇ、あっ」

ティターニアはその顔を見て驚いた。知っている顔だったからだ。

「まさかここでその顔を見ることになるとは思ってなかったわ。そうでしょう?シルフィーさん」

シルフィーと呼ばれた女性は研究所で見たことがある。よく出入りしていた者だ。

『そ、そうですね……』

相手は歯切れが悪い。

「別に他の妖精の大量虐殺とか、幼い妖精に性的なイタズラを指示したことはどうでもいいんです」

『……』

「そんな貴方がなぜ、私を?殺したいほど憎いはずの私を女王に?」

ティターニアの言葉にシルフィーは言う。

『妖精と言うネームバリューが重要なのよ。人々は妖精を欲している。人間たちはかつての妖精時代を懐古するようになり、妖精の主権回復派たちが今優勢なのよ』

ティターニアはそれを聞いて笑いが溢れる。

「ふふっ神を尊ぶ心を忘れた人々が神の使いである妖精を欲している?面白い冗談ね」

『冗談なんかじゃありません。私達は理想を持って努力してきました。私情を捨てて、精力しながらみんなの意見をすり合わせて』

それにはさすがのティターニアも呆れるしかなかった。

「努力…理想…私情を捨てる……どれもできてないわよね。やろうと思ったけどできませんでした、が通じるとは思ってないですよね?政治家に求めているは清廉潔白な事ではなくて、「実際に救ってくれるかどうか」なんですよ。残念ながら貴方達は何一つできていないわよね」

ティターニアにそれを言われるとさすがにシルフィーは黙ってしまう。

「都合が悪くなれば人権がないのを良いことに殺してしまう。自分たちが不利になったら呼び戻して責任を押し付ける。ワガママと言えるレベルじゃないわ」

『悲しいですがそれが政治と言うものです』

「貴方達がしているのは政治ではない。仕事や作業ですらないわ。できもしない相手に大権を与えないようにしているのよ。ズルをして扱えない人間が権利を握ると迷走し国を滅ぼし兼ねないからね。でも、貴方達はこれを見てもまだできると言い切るの?言われたことができない、仕事はできない、作業すらできてない。そして生き方に直結する政治がとてもできてない貴方達が?養鶏場の鶏の方が賢い貴方達が?」

ティターニアにそれを言われるとシルフィーは再び閉口した。

「ところで話は変わるけど、私は貴方に見覚えがある。それは不思議な事よ。どうやって長生きを?」

ティターニアが研究所にいたのは20歳まで。つまり300年前の話だ。

『さあ?それこそ、神の贈り物と言うやつかしら』

ティターニアはキーボードを慌てて叩く。

『何を……』

研究所出身者は皆「妖精」と呼ばれる。その起源はティターニアが結婚して間もなくの話。旦那であるオベロンですら驚愕させた「すべてのコンピュータに接続可能」という能力に由来する。ティターニアはこの能力を隠していたため知名度は低く、むしろコレを知っていた校長先生が特例中の特例である。命を狙われるのに十分な能力であり、ティターニア自身見せる機会はなかった。

「なるほど」

ティターニアはいくつかの窓を開きながら納得する。シルフィーじたいは200年以上前に死亡している。

『何が成る程、なのかしら』

シルフィーの名前と顔認証から個人情報を呼び出す。照合時間も僅かだ。

「シルフィー・アタナシア・フォン・エンツォレルン。2875年没……天王星の宇宙葬歴にはそう書いてあるわね」

ティターニアはキーボードを叩き続ける。

『それが分かったなら分かるでしょう?貴方は手出しできない。私の意識はすでにデータになっているの』

生きた政治家は特定の場所に監禁されているのでまずはそれを解き放つ。次に―――。

「サーバールームの場所を特定したわ。地球の緯度 35.334979 経度:137.121042ね。」

まだ人々が生活していた頃は駅だったが、忘れ去られた駅はその広さを利用するべくサーバールームへと変貌していた。

『どうやって特定したかしらないけど、今から地球の地表に降りるつもり?今、貴方は木星近郊にいるのよね?たとえ地球へ来たとしても地表へ降りる手段は限られる。とても時間のかかる事よ。どうあがいても私を倒せない』

ティターニアはもう手段を決めていた。

「多重処理を連続させて過負荷を今からかけるわ。旧世代のサーバーがどこまで耐えれるか見ものね」

カレンダーを見る。今の地球の北半球は夏。日本一暑い都市と言われたのは過去の話だが、今でも暑いと思う。

『な……やめ……なさい…不…不死の…夢が……』

音声にラグが発生し始めた。

「安心して。空調も暖房に変えたわ。温度計を無視してヒーターが全力で回るようにしたの……」

『………』

ついに音声がノイズになった。だがティターニアは手を止めない

「サーバーの水冷ポンプを止めるわ。ついでに、生きた人間のフリをしているアンドロイドに自決命令を飛ばすわ。首相も調べた限り、アンドロイドみたいだし」

死亡連絡が来ただけなので分からなかったが、首相はアンドロイドだったらしい。サーバーの温度計は140度のあたりを指したまま動かなくなった。恐らくサーバーがオーバーヒートしたのだろう。

「決着はついたかしら?」

隣で腰を下ろしていたIWIが声をかける。

「私はずっと共和党が悪だと思っていたけど、まさか黒幕はシルフィーさんだったとはね……」

遠回りにティターニアはそれを伝える。

「意識をサーバーに移す……そんな事が可能だったなんて驚きですわ」

サイスの驚きもっともだ。

「そうね、私も初めて聞くわ……たぶん研究所が閉鎖されたあと、秘密裏に研究していたのでしょうね。研究所のコンピュータはほとんどがスタンドアローンだから……」

『ええ、と誰か見てますか?』

突然、窓に痩せこけた男性が映し出される。

「ええ。はじめまして、かしら」

ティターニアが言うと相手は

『はじめまして。コルスターと言います。助けていただいて感謝しています』

「貴方ね。お酒や食べ物を送ってくるときに手書きの手紙を入れていたのは」

『はい。いつ気が付かれるかヒヤヒヤでしたよ。でも、良かった』

手書きの手紙に確かに一文字づつ文字が書かれているとは思った。今の今まで忘れていた事なのが恥ずかしいほどだ。

「ごめんなさい、それについては……その、さっきまで忘れていたの」

『結果的に助かったのでよしとします。これで、私は正しい政治ができます』

「ええ、そう信じてるわ。でも……」

ティターニアが言うと

『確かに私達に女王は必要かもしれません。ですが、急いでいませんから。貴方もメールで言っていたではありませんか。「卒業するまで待ってくれ」て。それまで返事は必要ありませんから』

『いやいや、すぐに必要だ。今すぐ必要だ』

別の声を通話が拾っている。おそらく、同じ様に監禁されていた政治家だろう。

「私が天王星に不在でも良ければ……」

『よっしゃぁ、決まり!な、お前も今聞いたろ?よし、即位宣言だ!今夜は忙しくなるぜぇ』

その声だけの主はとても嬉しそうにしている。ティターニアは口が滑ったかな?と目をパチクリさせ、振り返る。フーガも首を横に振り「やれやれ」と言いたそうだ。サイスは首を落とし「言ってしまいましたわね」と言いたそうだった。

「だめだ、口が滑った……」

ティターニアも思わず言ってしまった。そして恐る恐る振り返ると、

『入国は、卒業まで待ちますから……』

「ごめんなさい、そうしてくれると助かるわ」




親愛なるアナタへ。ごめんなさい、私は妖精ではなく、女王になってしまうかもしれないわ。


アナタが生きていたら、喜んだかしら?


それとも呆れる?


それと、めどが立っていた再婚がフイになりそう。


人生は驚きの連続って言うものね。


帰国したら、直接話すわね。


愛してるわ、アナタ―――。




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