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この太陽系で私達は  作者: えるふ
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パーティ後半

「ズマドー、ティターニア君」

拍手をしながら男が一人歩み寄ってくる。

「これはどうも、首相」

ティターニアがサイスを下ろしながら言う。

「どうかね、天王星に帰る気にならないかね?」

それに答えたのはサイスだった。

「貴方は共和党でしたわよね?女王なんてどうでも良いのでは?」

流石にそれは言いすぎだ、と思いティターニアは手で軽くシッシと払うような仕草をする。

「勿論どうでもいい。だが、責任を全て女王にできる利点がある」

「なるほど、ですが、妖精なら他にもいるはずです。なぜ私なんですか?」

自分で言っておきながら最低だな、とティターニアは思った。これでは責任のなすりつけあいではないか。

「ん?ああ、他の妖精なら全て処分したよ」

一瞬ティターニアの時が止まった。幼少期を一緒に過ごしたあの子達は……?

「しょ…ぶん……?」

「実験に失敗した実験体なぞ居るだけ目障り。全て殺処分させてもらった」

ティターニアはそれを聞いて慌てて他の妖精の記事を見る。2ヶ月前くらいに死亡通知が出ている。妖精という肩書の人工生命体は多くいる。ティターニアだけが特殊能力を持っていて特別視されているが、他の者達も長寿であるため彼女たちは同じように妖精と呼ばれていた。その全てを殺したと言う記録も残っている。

「人の命を何だと思ってるの!?」

思わず声が荒くなる。無理もない、同胞が殺されたとあれば当然の反応である。

「人?実験動物ごときが偉そうな口を聞く……」

「私達は実験動物なんかじゃない!」

ティターニアが拳を握り叫ぶように言う。

「君は飽くまで実験動物だ。だから君の行動は責任能力を持たない。過去に軍人3人をのした事があったろう?それが罪に問われないのはそのためだ。どんなに自由奔放に振る舞おうと責任を追うことができる主体「ヒト」とは定義されていない。「実験動物」の観察のため法的な制限が軽減されているに過ぎない。それに、それらは動物虐待にはならない。文言にある「みだりに」殺すな。という部分に触れない。別に意味がないわけじゃない。科学の発展のため仕方なく殺すのだ。実験のため、科学のため、役立つ為に死んでいく。合法な行為だ。そうだろう?320号」

「私をその名で呼ぶなっ!!」

ここまでの剣幕を見たことがないサイスはたじろぐばかりだ。遠くの婦人達も何事かとこちらを見ている。

 ―――320号。研究所内でのティターニアの識別番号である。当時名はなかった。この識別番号が名前だった。

「観察の基本さ……自由に振る舞わせ自然体の挙動を監視する。我々が手を出せば、その結果に誤差が出る。だが……」

男は銃のようなものを懐から出すのでサイスは体当たりでそれを防ぐ。

「ぐっ」

男はバランスを崩し、銃のようなものが衆目にさらされる。それは間違いなくピストルだった。

「きゃーっ!銃よ、銃を持ってるわ!!」

誰かが叫んだ。その叫び声に釣られるようにメイドの一人が駆けてくる。

「首相、この船は…」

銃規制があります、と続くはずだった。その首相が引いた引き金によって発生した銃声によってかき消された。


悲鳴が聞こえる。凶弾に倒れたのはメイドだった。


不思議な感覚だ。まるで自分は死を望んだかのように体が動かなくなった。いつもなら、すぐに体が動くのに……心拍の音が耳から聞こえる。他の音は何も聞こえない。サイスが叫ぶ声も、女性たちの悲鳴も、何も……


パパパッ


しかしその思考はサブマシンガンの銃声によって消えていく。眼の前には倒れた首相。

「大丈夫ですか、ティターニアさん!」

「え、ええ……えっと…」

誰さんだっけ、と思っているとメイドが名乗る。

「HKです、お怪我はありませんか?」

メイドが名乗りながらティターニアを見る。

「え、ええ。大丈夫……サイスは?」

駆けつけた別のメイドがサイスを起こしているところだった。

「私は大丈夫ですわ……でも…」

サイスは口を抑え気分が悪そうだ。無理もない。

「どうぞこちらへ。ティターニアさんも」



二人はメイドに言われ客室に案内された。他の客たちは帰させたようだ。


「サイス、おいで」

ティターニアはドレスの肩をずらし、乳房を露出させるとサイスに手招きする。他には誰も居ない。サイスは少し考えた後ティターニアの谷間に顔を埋めた。

「ほら……大丈夫だよ、大丈夫」

ティターニアの優しい声。ティターニアが背中をさすってあげるとサイスは徐々に落ち着きを取り戻していた。

「こうゆう時は良い胸、ですわね…柔らかくて……暖かくて…」

サイスは気がつけば手でその柔らかさを堪能していた。


「失礼します」

メイドが一礼して入室してきた。確かIWIと言っただろうか

「あのIWIさん、ARさんは……」

「今集中治療室よ……弾は貫通しなかったんだけど……それより、二人は大丈夫?」

IWIさんが心配そうに覗き込んでくる。

「ええ。私は。サイスは…」

ティターニアが心配そうに見下ろすと、サイスはティターニアの胸の谷間から顔を出し

「もう大丈夫ですわ」

そう言いながらティターニアの服を正すサイス。


「発砲したHKは今取り調べを受けているわ。正当防衛が成立すればいいのだけど」

そう言うとIWIは部屋を出ていく。残された二人は抱き合い、ぬくもりを分かち合った。


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