パーティ会場でティターニアは
天王星主体のパーティと言う事だったが、地味に金星人が多く居た。金星人は天王星人を嫌ってるんじゃなかったのか、と疑問に思うくらいだ。
「まあ、いいけどね……」
今年は天王星人の生徒がいないので学生にウラヌスドレスを着た人はいないが、一般の人にはウラヌスドレスを着ている人がチラホラと居る。ゼロではないらしい。
ティターニアはお酒を受け取るべくメイドが沢山いるテーブルに向かう。
「お酒を……あ、この間の。頬はもう大丈夫?」
ティターニアはこの間銃を奪ったメイドを見つけ声を掛ける。
「ええ、まだ痛みますが腫れは引きました。……何を見てるのですか?」
メイドが不審がるのでティターニアは肩に下げている銃を指差し
「今日はライフルじゃないんだね」
「この場所でライフルでは貫通力が高すぎます。交戦距離も近くなりますのでショットガンで十分です」
そう言えばこの間のライフルはAR-15だった。このショットガンは見たことがないがたぶんAR-17なのだろう。という事はこの間奪ったハンドガンはCz75ではなくAR-24なのだろう。
「そうね、じゃあ……貴方はもしかしてARさん?」
それを言うと別のメイドが歩み寄ってくる。
「そうよ、私達バトルメイドは得意武器でコードネームが決まるのよ。ちなみに、私はAKよ、よろしく!」
そう言ってAKと名乗ったメイドは前垂れを捲りあげた。ティターニアは声を出すと注目を浴びる事を知っていたので一歩近づいて手を払い除け睨みつける。
「え、あ…その……」
AKが口をパクパクしている。先程の元気はどこへやら。
「あー……FN!こっちに!AKを控室へ持ってって。しばらく使い物にならないから」
「了解しました!」
「……何事ですかAR…?」
FNと呼ばれたメイドがAKを引きずり別の部屋へ、おそらく先輩が心配そうに近づいてくる。
「えーと、どこから言えば……」
ARが顎に手を当て首をひねるとティターニアが
「私の前垂れを捲ってから様子がおかしくなりました」
助け舟を出す。正直、ティターニアとしては怒って良いのかどうかすら悩む所だ。いや、ビンタくらい食らわせておけばよかったか。
「えーと、下は……」
「穿いてません。手に入らなくて……」
「ああ、なるほど。それでなのね……AKはパンツを見るのは好きで良くスカートを捲るし、胸も触ってくるんだけど、その……中を見るのは慣れてないのか、ああやって固まってしまうの」
そのメイドはため息を吐きながら教えてくれた。
「なんか……すごい性格ですね……ウブなんだか、スケベなんだか……」
ティターニアが目を細めながら話を聞く。
「えーと、AKの代わりは…誰が?」
ARが仕事の話を始めたのでティターニアは離れようとしたが、先輩メイドに手を捕まれてしまった。
「そうね、HKにさせるわ。……HK!こっちに!」
先輩メイドが声を掛けるとすぐさまそのHKと呼ばれたメイドが駆けつける。
「お呼びですか」
「AKが戻るまで代わりを。私はティターニアさんにお詫びにお酒と料理を持ってくるから」
「分かりましたIWIさん」
タボールを持ってると思ったが、やはりコードネームはIWIなのか、と思ったがどこか違和感を覚える。
「やっぱり気になります?これ、実は9mmパラベラム仕様なんです。こういう場所ではライフル弾である223は貫通力が高すぎて……他のメイドも貫通力が低い弾を使うように言ってあるんです。どうぞ、おくつろぎ下さい」
ワゴンテーブルの上に料理を置き、お酒がグラスに注がれる。なんだか特別待遇を受けてるみたいで悪くない。
「じゃあ遠慮なく。……美味しい!」
口にした料理が美味しく、思わず声に出してしまう。
「お口に合ったみたいで良かったです。お酒もどうぞ」
手渡されたグラスを受け取りティターニアは口に含む。
「もしかして高いお酒?美味しいんだけど……なんかいつもと違う気が……」
「ええ、値段を聞いたらひっくり返ると思うから言わないでおくわ」
ウインクしながら言うメイドだが、それはそれで気になるが、まあ仕方ない。しばらくそこで飲み食いしていたら、知った顔が近くに歩み寄ってきていた。
「あら、ティターニアは特別待遇ですの?」
「いえいえ、これはお詫びです。うちの部下が粗相をしてしまったので」
「あら、それはお邪魔でしたわね」
踵を返し戻ろうとするサイスをティターニアは右腕に座らせるように抱き上げる。
「どうせ一人で食べ切れる量じゃないし、良いでしょ?」
それを見てメイドは即答する。
「ええ、構いませんよ」
それを聞いてティターニアはサイスを下ろし、二人で料理に手を伸ばす。そうこうしているうちに演説が始まった。天王星の首相だ。確か共和党だったような気がする。
演説が終わり、残った料理を消費するだけになってしまった。人々もすることが無くなってきたのか、思い思いに会話を楽しんでいる。ティターニアは少し納得がいかなかった。先程の演説ではまるでティターニアが女王になるのを望んでいるかのような内容だった。正直嬉しくない。女王らしからぬ行動をとろうか、と思い、メイドに声をかけてみる。
「歌でも歌ったら?」
と誰かが言う。それはそれで面白そうだ。そう思い、部屋の真ん中へ移動し声を出す。
「ツケーム カヨノ カネュク ノ オク ジーラス メネキズ
ツケーム カヨノ カネュク ノ オク メネキズ ジーラス
ツコ クキ ミセ ズ コーナー ツコ ノ セキム コームノ クマルス
ダッノ クキ トープ キヨ カ シンノ ノ シー オク カベキヨ」
突然誰かが歌い出したので周りの人達は静まり返りその歌を聞いた。しかし天王星語である事で誰も理解できていないようだった。仕方のないことだ。金星人が多いのだから、天王星語が分かるはずがない―――。ティターニアは続ける。
「クキム マヨノ カヨノ モカ マキフ ノムク クマルス セキモ
クキム マヨノ カヨノ モカ マキフ コーム コヨ ザ ソムノ キヨツリネェ オリデース
オリッノ ノ クキ スネーム サクヨネブ キヨ ザ ニワヨレム コズ コームノ クマルス
ツモウ コデモヨ ノ ナキオス キズ ツォネィ AU !」
そこまで歌ったところでサイスが駆け寄り、手を取り続きを歌い始めた。
「太陽の風を受け 我らの船は いざ進む
そして船を止めて宇宙線を測定した
その後壮大な艦隊を停泊させ、
今夜はダウンズの街に集結せよと合図が作られた」
サイスは英語だったが、ティターニアは同じ歌だったのでサイスを止めなかった。サイスが歌い終わるとティターニアが続く。
「クキム マヨノ カヨノ モカ マキフ ノムク クマルス セキモ
クキム マヨノ カヨノ モカ マキフ コーム コヨ ザ ソムノ キヨツリネェ オリデース
オリッノ ノ クキ スネーム サクヨネブ キヨ ザ ニワヨレム コズ コームノ クマルス
ツモウ コデモヨ ノ ナキオス キズ ツォネィ AU !」
「さあ諸君、なみなみと注いだ酒を飲み干そう
さあ諸君、大杯を飲み干そう!
飲んで陽気にやろう、憂鬱な気分なんかぶっとばせ
ともに戦おう!真心を持った魂の健康を祝して乾杯!」
「クキム マヨノ カヨノ モカ マキフ ノムク クマルス セキモ
クキム マヨノ カヨノ モカ マキフ コーム コヨ ザ ソムノ キヨツリネェ オリデース
オリッノ ノ クキ スネーム サクヨネブ キヨ ザ ニワヨレム コズ コームノ クマルス
ツモウ コデモヨ ノ ナキオス キズ ツォネィ AU !」
そして歌が終わった。ティターニアはサイスを先ほどと同じように抱き上げ
「もう一曲、いかが?」
ティターニアに言われサイスは快く了承した。
「構いませんわ。どうぞ」
やんわりとサイスに言われティターニアは歌い始める。
「8月の最後の日に重力に乗って攻めてきた
8月の最後の日に重力に乗って攻めてきた
海王星の軍艦が宇宙線を蹴散らして火星を攻めるぞ」
ティターニアが歌うと、サイスが続ける。先ほどと同じ流れだ
「乾杯だ、もう一杯
みんなの健勝に
乾杯だ、もう一杯
みんなの健勝に
火星の勝利に
そして海王星には敗者の不名誉を!」
「火星の指揮官が、艦長を呼び寄せて
火星の指揮官が、艦長を呼び寄せて
海王星の兵を打ち負かし、国へと追い返す、自信があるかと聞いた」
「艦長はたくましく、もちろんだと答えた
艦長はたくましく、もちろんだと答えた
艦隊を整列させて、高々と旗を掲げれば
勝利は必ずこちらのもの」
そしてサイスは次の小節は声をハモらせる
「追い風を受けるように舵を回す
我々は彼らの目の前に来る
衝撃の打撃とともに魚雷と
ミサイルを叩き込んで ラムをかける
乾杯だ、もう一杯
みんなの健勝に
乾杯だ、もう一杯
みんなの健勝に
火星の勝利に
そして海王星には敗者の不名誉を!」
そして静かに演目が終わる。
「素敵な演目でしたわ」
「素敵な歌声だったわ」
二人がそう言うと、大きな拍手が送られた。まるでそれが最初から決められていたかのように。
大きな拍手を受け取っているあたり、おそらく先程の歌は好評だったらしい。
ティターニアの思惑が外れてしまった。




