ドレスを探して
授業を終え帰路についているティターニアに一本の通話が入った。校長先生からだ。
『すまない、ティターニア君。今いいかな?』
「はい、大丈夫です……今度は何事ですか?」
『天王星政府がパーティーを開きたいと申し出ているのだが、是非ティターニア君にも来て欲しいという事だ。残念なことに拒否権はないんだ、すまない』
つまらない大人の事情があるのだろう、ティターニアは肩を落としながら決意する。
「分かりました。ドレスを新調しないといけないのですが……いつですか?パーティーは」
『明日だ。すまないがドレスは自前で用意して欲しい。では、頼んだよ』
決意が早速折れそうになった。
ティターニアは帰る途中の足を街へ向けると、端末でドレスを売ってそうな店をリストアップする。天王星政府主催という事はやはりウラヌスドレスが必要になるだろう。
「やっぱり少ないよね……」
一応5軒ほどの店名がリストに上がったので地図に場所を投影させる。それぞれが近い場所であったのですぐにお店をハシゴできるだろう。
この時はまだ、全て不発に終わるなど予想していなかった。むしろ、5軒もあるのだから見つかるでしょ、と言う気持ちだった。
1軒目はそもそもドレスの取扱を終えており、2軒目はウラヌスと言っただけで追い出され、3軒目は臨時休業中。4軒目はウラヌスドレスだけ綺麗に取り扱っておらず、5軒目は店自体存在しなかった。
「そ、そんなはず……えぇ……と、とりあえず…喫茶店でも入るか」
少し顔がひきつっている気がするがティターニアは気を落ち着かせるため喫茶店に入った。店内は落ち着いた雰囲気で、気分転換には十分だ。
「あら、ティターニア?」
空いている席に移動しよていたら、聞いたことのある声にティターニアは振り返った。
「あ。サイス。丁度良かった。悩みを聞いてくれるかしら?」
ティターニアはサイスが座っているテーブルの向かいの椅子に腰を下ろしながら言う。
「構いませんわ。ティターニアの悩みを解決するのは楽しみですもの」
サイスはウインク一つで話を聞いてくれるようだ。
「ウラヌスドレスを探してて……その、ここら辺のお店を回ったんだけど見つからなくて……」
サイスはそれを聞いて端末でウラヌスドレスを検索する。上は和服のように重ねて帯で止める方式なのだが、和服と違ってリボンのようだ。脇や上腕部は露出しており、和服と言うには露出が過ぎる。前腕部は振り袖があり、どうやら和服の原型を留めているのはここらへんまでのようだ。腰下はもはや和服の原型を全く留めておらず、前垂れ式となっている。後ろの布はやや広いとは言え、真横から見ても脚の半分くらいが露出しているし、前から見ても半分くらい脚が露出している。スリットも帯まであるのでウエストまで露出してしまう。
「あの、このドレスは……どのような下着を身につけますの?」
サイスが首を傾げながら画面を見えるようにする。ティターニアは指を指しながら
「えっとね……上は付けなくて、下はIバックって言うの?Cストリングって言うの?そうゆうパンツを履くんだよ」
ティターニアに言われサイスは再び検索をかける。そして出てきたものに顔を赤らめる。
「な、なんと言いますか……これは「履く」で本当にあってますの?」
「私も違う気がするけど……最近では下着を身に着けない人も多いとか」
「あぁ、なんとなく分かる気がしますわ……」
サイスはコーヒーを飲みながらその露出の高いウラヌスドレスを3Dで眺めていた。
「う~ん、これはもしかして木星の方々にドレスとして認識されてないかもしれませんわね……」
天王星は露出に対して躊躇いがないらしい。ティターニアに実感は無かったが、サイスが顔を赤らめているところを見ると、他の国では過激に映るらしい。
「では、ドレスを探しに行きましょうか」
サイスが席を立つので、ティターニアも続く。
「まずはどこへ?」
「私もアテがあるわけではありませんの。まずはコスプレ洋服店から、ですわね」
その響きに違和感を覚えたが背に腹は代えられない。
そして、その全てを不発に終わらせた。
「まさか見つからないなんて……」
ウラヌスドレスは実は最近できた歴史の浅いドレスなのだろうか、と思ったがティターニアが生まれたときには既に存在していたので、知名度の問題か、その露出度の問題だと思われる。
「参りましたわ……あら?」
たまたま通りかかったお店のショーウインドウ。そこには古代日本の愛した和服が飾られていた。
「どうかしたの?」
「行けるかもしれませんわ……お題は私が払います。私に賭けてくださいまし」
サイスは店内に入りティターニアを手招きする。
「一応、無いかだけ確認しませんと」
店内をくまなく探しウラヌスドレスが無いことを確認すると、店員を呼び出し、和服の着付けを依頼する。
「着付けの依頼ですね?えぇっとお嬢様がされるので?」
「えっと、私ではなく……こっちの友達の方を」
「畏まりました。どうぞこちらへ」
しばらくして試着室からティターニアが出てくる。それを見てサイスは構想を練る。自分の裁縫の技術を信じる。行ける。そう判断した。
「私が払いますわ。包んで貰えます?」
ティターニアと店員は試着室へ再び姿を消し、その間に裁縫の手順を頭の中でもう一度組み直す。難しいができない事はない。既存の服を改造したことは何度もある。大丈夫。
「毎度ありがとうございます、またのお越しを」
店員に見送られサイスはティターニアを催促し自室へと帰った。
「さあ今から本番ですわ。ティターニア、申し訳ありませんが……着て貰ってもよろしくって?」
サイスに言われティターニアは首を傾げながら着替えようとする。その間にサイスは机の上に置かれていた片眼鏡を右目に装着している。しかし、帯が自分で巻けずティターニアが苦労していると、サイスがそこで止まるように言う。
「そのまま!そのまま動かないで下さいまし」
サイスはペンとマチ針で位置決めをすると、そのまま裁断を開始する。ティターニアも動いたら危ないのが直感で分かったのか、動かないように気をつける。
チョキジョキと布を切る音が部屋に響き渡る。時々髪が邪魔にならないようにティターニアが髪の位置を変える。そしてまたサイスが裁断と縫合を行う。
「腰のリボンは私の余り布で作りますわね。この帯のままでは硬すぎますわ」
サイスはすぐに棚から布を取り出しリボンをあっという間に作り上げると、それを切り、ホックを取り付ける。
「あとはミシンで縫いますのでどうぞおくつろぎ下さいな」
サイスに言われティターニアは着替えるとベッドに腰を下ろす。サイスはすぐにミシンを取り出すとすぐに小気味良い音を響かせながら縫っていく。
「出来ましたわ。どうぞ、着てみて下さいませ」
サイスに手渡されできたばかりの服を身に纏い、姿見で確認してみる。それは紛うことなきウラヌスドレスであった。完璧の仕上がりである。
「凄い!これはどこからどう見てもウラヌスドレスだよ!」
鏡の前でクルクルと回るその姿にサイスも安心したのか、片眼鏡を外しミシンを片付ける。
「ティターニア、その大胆なスリットの服でそんなに激しくクルクルと回ったら丸見えですわよ」
「ほえ?」
ティターニアが間抜けな声を出しながらピタリと動きを止める。脇の大きく空いた服ゆえ乳頭が見えそうになっているが、見えているわけではない。はて、と思いながら視線を下ろすと最初から側面が見えていたパンツが視界に飛び込んでくる。
「あ」
ティターニアは今頃気が付いたのか恥ずかしそうにモジモジしはじめ、パンツを脱ぎ去る。
「今更脱いでも遅いですわよ。それに、脱いでしまわれたら……見えてはいけない部分が見えてしまいますわよ」
「でも良かった、サイスって裁縫得意なんだね」
「ええ。昔は何着か自作したこともありましてよ」
「凄い……けど、その……パンツ…買ってないよね…」
ティターニアに言われ時計を見る。夜も遅く、ほとんどの店が閉まっているし、治安の関係で街まででかけたくない。
「ドレスを作ることに夢中ですっかり忘れてしまいましたわ……さすがにあんな下着は作れませんわ……歩いただけで落ちてしまいそう……申し訳ありませんが明日は…その……下着は無しでお願いしますわ」




