表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この太陽系で私達は  作者: えるふ
43/70

誕生会

ティターニアは寝ぼけ眼で抱いている物に力を込める

「痛い痛い」

抱いているものが悲鳴をあげはじめる。不思議に思い拳を何度かぶつけると、

「ぐはぁ」

とやはり悲鳴が聞こえる。見上げると苦しそうなフーガの顔。

「目、さめた?」

優しい言葉に首を傾げるティターニア。はて?

「分かった分かった。シャワー借りるから、しばらくそこで待ってろ」

ティターニアはそのまま以前購入した蛇のヌイグルミを抱き、まだろみの中へと入っていく。



「ふにゃぁ……」

ティターニアは情けない声を出しながら朝シャンをするべく風呂へ入る。

「待った。まだ入ってる」

フーガの声がした気がするが気にしない。ティターニアはシャワーを浴びその暖かさを感じている。

「ティターニア?おーい」

遠くで声が聞こえる気がする。

「大丈夫か?」

段々と意識がハッキリしてきた。何度かまばたきをすると、目の前にフーガが居ることに気が付いた。

「きゃあっ、な、なんで入ってるのっ!?」

ティターニアに言われ振り上げられた手を掴むフーガ。そしてそのまま壁際に押し付けられる。

「逆逆。俺が入ってたら、お前が後から入ってきたの。OK?」

ティターニアは顔を真赤にしながらうつむき

「ご、ごめん……その…」

「いいさ、朝に弱いのは今に始まったことじゃないし」

フーガはそう言うと、ティターニアを開放しシャワーを止める。

「で、ティターニア」

「はい……」

ティターニアは言われて縮こまっている。まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。

「ちょっとさ…」

フーガが言いにくそうにしたあと、目線をそらす。

「目に毒って言うか…あぁ、すまん。出るわ」

フーガはティターニアの横を通り抜けると脱衣所で水分を拭いはじめる。

「まあ何だ。慣れろって事だろうけどな」

フーガが言うとティターニアは恥ずかしそうに

「あ、その……ホント、ごめん……」

ティターニアは項垂れながらシャワーを頭から浴びる。



「あはは、ごめんね」

とりあえず笑ってごまかそうと水分だけ拭ったまま部屋に戻る。

「ティターニアって本当、無防備だよなぁ……」

「ほえ?」

ティターニアのその間抜けな返事は初めて聞いた、という顔をしているフーガ。

「いや、その……せめて前は隠そう?」

「あ、そ、そうだよね…ははっごめんごめんっ」

ティターニアは慌ててタンスから下着を取り出し身につけ服をまとう。

「フーガくん、もう大丈夫だよ」

ティターニアが言うと目線をそらしていたフーガが前を向く。

「まったく…で、だ」

「はい…」

真剣な声をしているティターニアにフーガはテーブルに腰を下ろすように指で手招きすると

「サイスを呼んで欲しい」

「え?」

首をかしげるがフーガが顎で指示をするのでサイスを部屋に召喚する。



「遅かったですわね」

もっと早く呼び出されると思っていたサイスがため息交じりに言いながら部屋に入ってくる。

「まあいいさ。じゃあ例のぶつを」

フーガが言うとサイスはケーキをテーブルに置いた。

「え、あ。凄い…」

そしてあっという間にお皿や食器が並ぶ。シャンパンも一緒だ。

「聞きましたわよ」

サイスが言うとティターニアは首を傾げている。

「え?何を?」

素っ頓狂な声を出すティターニアにフーガはクラッカーを鳴らしながら

「誕生日おめでとう」

何年ぶりだろう。誕生日を祝って貰ったのは。ティターニアは思わず涙が溢れる。

「あらあら、どうしましたの?」

サイスが慌ててハンカチを手渡す。

「だって、誕生日なんて…祝ってもらったの……最後に祝ってもらったのいつだっけって思ったら……」

サイスはそれを聞いてホっとしたように

「それなら、計画して良かったと思いますわ。ほら、ケーキを切り分けますので座ってくださいな」

サイスがケーキを切り分けお皿に分けるとチョコレートでできたプレートをその上に乗せたものををティターニアに渡す。

「さあどうぞ、召し上がってくださいな。お口に合うと良いのだけど」

サイスに言われケーキを口に運ぶティターニア。そしてその顔が崩れるのを見てサイスとフーガはハイタッチをする。

「さあ、私たちも食べましょうか」

「そうだな」

自分で切ろうとしたフーガを優しく制しサイスはケーキを等分し、一つをフーガに渡し、一つを自分に置くサイス。

「私の誕生日を調べた人は多いよ。でも、祝ってくれた人は本当に少ないの。有難う」

涙を指で拭いながらティターニアはフォークでケーキを食べる。きっとこのケーキは良くあるお店で買ってきたものだと思われる。だが、ティターニアには特別なケーキだと感じていた。きっと一生に何度あるか判らないケーキでのおもてなし。


祝って貰ったのはたぶん……


最後に祝って貰ったのは今亡き夫が最後ではなかろうか―――。






有難う、二人共。さよならを言うその時まで――――。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ