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この太陽系で私達は  作者: えるふ
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ティターニアの特技

ティターニアは不思議な感覚で目を覚ました。今は無重力状態のはず。体が重い。重力が戻っている。何事かと端末に手を伸ばしたタイミングで通話がかかってきた。

『ティターニア君、ニアミスする小型の船舶の正体が分かった。工作艦だ。こちらのメインコンピューターに不正アクセスをして、艦内環境を乗っ取っている。なんとかしてほしい』

校長からの台詞にティターニアはため息一つ。

「この船にエンジニアはいないの?」

『エンジニアは何人か居るには居る。しかし工作艦に立ち向かえる程の人材はいない。是非、ティターニア君にお願いしたい。この船を……学園都市船を……救ってほしい……!』

緊急事態だ、仕方ない。と自分に言い聞かせて自分の体を固定しているベルトの留め具を外し、ロビーへ向かって歩き出す。傷口はまだ痛むが出血するほどではない。

「あ、あの…どちらへ……」

すれ違うティターニアを見て看護婦が驚いている。仕方ない、ティターニアは裸なのだから。

「ちょっと機械室へ。この船を……救ってきます」

それを聞いて看護婦は何も言えずティターニアを送り出した。


ロビーに入ると、ムワっとした温度にティターニアは眉をひそめる。壁に設置されている温度計は40度を指している。立っているだけで汗が吹き出てくる。受付の看護婦もぐったりしている。病院を出ると、1台の車の前でメイドが待っていた。

「お待ちしていました。どうぞこちらに」

メイドに言われるまま車に乗り込むティターニア。車内は冷房が効いているためそんなに暑くはなかったが、それでも汗は滴り落ちていた。

「ねえメイドさん。暑くないの?」

ティターニアが隣に座ったメイドに声をかける。

「すごく暑いです。でも、これくらいなら…我慢できます。それに、暑いのはこのあたりだけみたいですので」

不思議に思い窓から外を眺めていると、突然窓が真っ白に曇り、そしてそれが凍った。

「ご覧の通り、このあたりはすごく寒いみたいです。あの……メインコンピュータールームも寒いみたいなので、何か着たほうが……」

「大丈夫、すぐに元通りになるから…」

ティターニアが言うが、メイドは不安そうにティターニアを眺めていた。


「凍っているので、足元に……そっか、裸足でしたね」

メイドは自分の靴を脱ぎ、ティターニアに手渡す。

「私は、換えの履物があるので、こちらをどうぞ」

凍った鉄板の上を裸足で歩くのは流石にしんどいので、有り難くそれを受け取る。サイズは問題ないようだ。

「間もなく到着します。お気をつけて」

車が停止した。メイドが扉を開けティターニアを降車させると、すぐさまメインコンピュータールームの扉の前に行き、カードをかざす。

「あ、あれ、開かない……なんで、だって…」

「ちょっとどいて貰えるかしら」

ティターニアは笑みをこぼしながらメイドを優しくどかすと手のひらをその端末にかざす。

「あ、開いた……でも…なんで…?」

「私が数いる妖精の中で唯一特別視されてる所以かしらね……」

メインコンピュータールームに入り、一番奥へと向かう。そこには数人のエンジニアが端末とにらめっこしていた。メイドはその光景を見て軽い絶望を覚えた。しかし、ティターニアが希望の星に見え……どこか安心感もあった。

「あー駄目だ」

「まだ次の手が……え、あ」

エンジニアの一人がティターニアに気が付き言葉が止まる。

「メイン端末はどれ?」

ティターニアが言うとエンジニアの一人が指をさす。

「あれだけど……操作を受け付けてくれなくて…」

エンジニアが言うがティターニアはあまり話を聞かずにその端末に触れる。ブンっと音がした後、4つ程の窓が開かれ、文字が流れていく。

「嘘……だろ」

その窓に更に2つほど窓を表示したあと、その窓を右から左へ移動させる。たったそれだけで数百行ほどの文字が一瞬で表示されて流れていく。

「相手が新手の一手を打ってくるわ、気をつけて」

ティターニアが言った直後、体が床に押し付けられるかの如く重力が増す。

「このままやってもイタチごっこね……仕方ない」

複数出している窓を隠すように大きな窓を中心に表示し、小さな窓が数回現れては消えていく。

「よし、大丈夫そう…」

ティターニアが言うが、メイドが苦しそうにしている。

「誰か、彼女に椅子を」

ティターニアが声をかけてあげるが、エンジニアは

「ここにそんなもんねぇよ……」

「じゃあ貴方が椅子になってあげて」

一瞬キョトンとしたが、エンジニアは座る姿勢を変えメイドを手招きする。

「じゃあ、その…遠慮なく……重くないですか?」

「とんでもない、軽いくらいだ」

とありきたりな言葉を交わしているが、実際かなり重いはずである。重力センサーは6.9Gを指していて、見ている間に7.2Gになろうとしている。ティターニアはその重力感に懐かしさを覚えながら、画面に表示された実行キーを叩く。

『ブロックA。設定温度が42度から23度へ変更されました』

『ブロックB。設定温度を23度へ変更しました。』

『ブロックC。設定温度が-40度から23度へ変更されました』

『システム、変更。責任者名、ティターニア。船内酸素濃度を17%から20%へ変更しました』

次々と人口音声が流れる。

『館内環境、更新。責任者、ティターニア。の権限を持って、書き換え。完了』

人口音声が流れ、館内環境を示しているパネルが徐々に正常値に戻り始める。

『人工重力発生装置を、停止します。現在の重力は、無重力状態、です』

人口音声が言う通り、重力はなくなり、体が軽く感じられる。メイドはそれを感じて胸を撫で下ろしていた。

「校長先生、いかがかしら」

『上出来だ。君には感謝してもしきれない。皆を救ってくれて、有難う』

「仕返しをしても?」

『駄目だと言ってもするんだろう?好きなだけやりなさい』

「分かってくれて嬉しいわ」

校長との通話を一旦遮断するとティターニアは仕返しをするべく、工作艦に指令を飛ばす。

「工作艦は無人艦なのよ。命令さえ与えてあげればなんでもするの」

ティターニアは嬉しそうに先程の大きな窓の文字を書き換えたり書き足したりしている。

「あの、何をしてるんですか?」

「工作艦は攻撃用のアンテナの他に、その攻撃が実行されているかどうか確認するために低 利得アンテナが必ずこっちを向いているの。だから、そこからチョチョイっとね」

そしてその大きな窓にONLINEの文字が表示される。高利得アンテナをこちらに向けて同期を取ったのである。これで工作艦を移動させても通信が途絶えることはない。ティターニアはそのまま工作艦を移動させる。移動先はルイナー級バトルクルーザー。

「あの、有難うございました」

メイドがティターニアに近づき言う。

「死ぬわけにはいかないからね……当たり前の事をしたまでよ。ここまではね」

メイドが不思議がっていると、横の方に艦の見取り図が表示される。

「これは?」

「ルイナー級バトルクルーザーの見取り図よ。工作艦経由で受信してるの。さて、ここからよ」

ティターニアが窓を一つ開き、そこに文字を走らせると艦内全てに火災警報が表示される。今頃、艦内は人口音声や警報の音に驚かされている事だろう。そして、全ての隔壁を閉鎖させる。火災が全ての区画で発生している扱いなのだから、全ての隔壁が閉鎖されてもおかしな話ではない。

「工作艦を持っているのは火星だけ……だから、火星の艦は全ての装置を集中制御している。本来なら、生命維持装置はスタンドアローンでなければならないのに、それすら集中制御の中よ。」

しばらくその画面を眺めているティターニアに不思議そうにメイドは様子をうかがいながらその表情を伺おうとしている。

「これを見て」

ティターニアに言われメイドが空中に表示されている窓を凝視する。先ほどと何が変わっただろうか。

「ここ、ここ」

ティターニアが指をさす。

「酸素濃度……80%を超えてる?」

気圧は1バールを維持している。生命維持装置にアクセスし、酸素濃度の項目を書き換えたのだ。そうこうしている内に酸素濃度はついに100%に。つまり、艦内の空気は純酸素に置き換わった事を意味する。

「酸素濃度が50%を超えると警報が出るのだけど、実は火災報知器が作動していると警報が出ないの」

言い終わるが早いかティターニアは火災警報を消し、全ての隔壁を開放させる。

「もしかして?」

エンジニアが気がついたようにティターニアに言う。

「木星製の生命維持装置の抱えるバグみたいなものよ。もちろん、この船もたぶん抱えてるわよ」

ほどなくして、艦橋の近くの廊下に火災報知器が作動している。

「これも?」

メイドが不思議そうに艦内見取り図を見ながら言う。別の窓で文字を走らせていたのでてっきりティターニアかと思っていた。

「ん?ああ、これは私じゃないわ。たぶん、本当の火事よ。私がしているのはこれだから」

よく見ると、セルフディストラクションの文字が出ている。

「これ、何ですか?」

「無人艦は必ず自爆装置がついてるの。それを起動してるの」

そして、実行しますか、の文字が出るが早いか即座に決定を押し、工作艦は失われた。そして見取り図が画面から消えてしまう。

「あとは、校長室で聞きましょうか。メイドさん、案内をお願いできるかしら」

「はい、直ちに!」



「校長先生、ティターニアさんをお連れいたしました」

メイドに先導されティターニアが入室する。その格好を見て校長は驚いたがすぐに通信モニターを見る。

「ティターニア君が火を?」

「いいえ、私はなにもしてないわ」

ティターニアはしれっと言う。

『通信士、早く消火作業にはいれ!』

『い、今他の艦に呼びかけて救援を……』

『だめだ、火の勢いが収まらない!あああ』

『早く火を消せ、早く!』

断末魔が聞こえた後、モニターの先には火の海と化した艦橋が映し出されている。

「ねえ、いくらなんでも火の回り早すぎない?」

メイドが不思議そうにその光景を眺めていた。宇宙船は基本人間が生存できるように酸素で必ず満たされている。そのため、火災には最新の注意が払われ、不燃素材化はもちろん、ケーブルやコネクターの絶縁にも気を使っている。はずである。

「この燃え方は異常だな……そうは思わないかね、提督」

それを聞いて二人は振り返る。そこには別のメイドに連れられてきた提督の姿。

「私の艦に何をした!」

提督が怒鳴る。ティターニアとメイドは顔を見合わせ

「私は何も……」

「嘘をつけ!」

今日は嫌に感情的だな、とティターニアは内心思いながら

「艦内環境を受信したら?そこに答えはあるかもよ?校長先生?」

ティターニアに言われ端末を操作し、しばらくすると見取り図が表示される。

「艦橋の温度は現在……400度ほどになってるね」

これでは人は生きていけないだろうな。そう思いながら見取り図のある一点をティターニアは見つめる。酸素濃度100%の表示。どうせ気が付かないだろう、そう思いモニターに近づき指をさす。

「ここを見てくださいな」

「き、貴様…!」

「大事な生命維持装置を集中制御の中にいれるからよ。ところで、貴方の艦。いくら酸素濃度が高いとは言え燃えすぎよ?なにがしてあるの?」

ティターニアが言うが、提督は何も話さない。

「ここに、3日前の艦橋の写真がある。見るかね?」

提督は何も問題がない、とゆう顔だ。しかし

「もしかして……これ絨毯?」

ティターニアがその異様な光景に目を疑った。

「あの、ティターニアさん。こっちのほう、カーテンかかってませんか?」

メイドが指を指した場所は、確かにカーテンのような物がかかっている。少なくとも布製品のように見える。

「バカを通り越してアホね……」

空気中では燃えるだけでも、純酸素の中では激しく燃焼することもある。そのため、宇宙船内は酸素濃度を20%、窒素を78%ほど、つまり地球上とほぼ同じになるようになっている。それでも密閉容器である宇宙船での火災は非常に危険であるため、不燃素材であっても嫌われる。ゆえにアホなのだ。

「提督、コンスティチューション級の艦長から話したい、と。通話を繋げても?」

校長は返事を待たずに通話を接続させるので、提督は近くに居たティターニアの長い髪を引っ張り、手繰り寄せる。

「きゃっ」

手繰り寄せられたティターニアは乱暴に乳房を捕まれ、一瞬だが嫌な顔をして、口元に笑みを浮かべた。

「くくくっ、良い触り心地だ。おっと動くなよ、動くとこの妖精の頭を……」

拳銃を突き付けようと提督の拘束が緩んだ隙きに体をよじりにげると、器用に両手で拳銃を奪う。

「頭を…どうするのかしら?」

ティターニアは即座に安全装置を外し、遊底を操作し、第一弾を装填する。

「ティターニア君!」

校長が叫んだがティターニアは止まらなかった。提督の胸に2発、頭に1発の銃弾を受け空中を漂い始めた。

『……国の方にはクーデターの支持者が粛清された、と伝えよう』

「あら、私はただ、痴漢を成敗しただけよ?」

『建前だよ、妖精様。提督の死を市民に説明するには、クーデターと言うのが最もだろう。事実、工作艦をそちらに差し向けているし、暗殺者も差し向けている。傷口が開く前に病院へ戻り給え、後は我々が処理する』

「そうさせてもらうわ……」

『それに、今のままでは目に毒だ。はっはっは』

ティターニアは我に返り自分を見下ろす。裸だ。ティターニアは急に恥ずかしくなり手で胸や股間を隠した。

「ティターニアさん、どうぞ、案内します」

ティターニアはメイドに言われるまま校長室を後にした。


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