入院生活初日
ほら、こうすると気持ちいでしょ?
こことかも
それが気持ちいいって事だよ。身を任せて
ティタニアは目を覚まし、周りを見渡す。病室のようで、生活感のない部屋だった。
「ひどい夢を見たわ……」
研究所生活の夢なぞ今まで見たことなかった。自分でも半ば忘れていた事だ。
「んっ……あ、あれ…?」
ティターニアは違和感を感じて自身を見下ろす。一糸まとわぬ姿になんとかしようと体を動かそうとしたが体が固定されて思うように動かせなかった。
「そうか……無重力だからか…」
無重力でベッドの上にただ載せただけでは何かの反動で宙に浮かんでしまい、どこかに体をぶつける可能性があるため、体を固定する必要がある。
ティターニアはベッド脇のナースコールを押し、自分が目覚めたことを教える。
しばらくして看護婦が入室してくる。手にはクリップボード
「気分はどう?」
看護婦の台詞にティターニアは少し目線を外しながら
「えっと…あまり良くないわ…」
ティターニアは正直に答えると、看護婦はため息混じりに言う
「一応、生理食塩水は入れたけど、血液自体は足りてないから、当たり前と言えば当たり前ね。輸血できれば、もう少し回復が早いのだけど……」
残念ながらティターニアの血液型は特殊すぎて誰とも当てはまらない。わけではないのだが、人口が少ない血液型らしい。
「そうね…最初はAB型て聞いてたんだけど……細かく調べたらJR値がマイナスで、1000人に1人くらいしかいないらしいのよ」
ティターニアがそれを言うと看護婦は点滴の準備を始める
「そうね、もっと人気のある血液型にしたら良かったのに」
「ほんとよ」
と、なかばふざけながら会話をして点滴の装置を見る。
「無重力でもできるんですね」
ティターニアが言うと看護婦は笑いながら
「ええ。あまり使ったことないから、何かあったらすぐに呼んでね?」
無重力で点滴を打つ場面なぞそんなにあるはずもなく、少し不安を覚えたが、すぐに問題がないことが分かった。
「じゃあ私は戻るから、何かあったら呼んでね」
看護婦がそう告げ、病室を後にしようとした所をティターニアは呼び止めた
「あ、待って」
無重力ゆえ一度移動していると戻れないため、一旦通り過ぎ、扉が閉まり、再び開く。
「どうしたの?」
「あの……何か着るものは…」
ティターニアの台詞に看護婦は申し訳なさそうに
「ごめんなさいね、無重力中は当院で禁止してるの。昔、色々あってね……他には?」
「お手洗い、行きたい、です」
ティターニアが言うと看護婦は少し表情を和らげ
「どっちの?」
「両方、です」
「分かったわ、すぐ準備するから、待ってて」
そう言う。ティターニアの顔が不安そうだったから。裸でトイレまで行かされるのかなぁ、いやいや、流石にそれは無いだろう、と思っていたら、看護婦は少し大きめの機械を持ってきた。
「あの…それは?」
ティターニアは聞かずにはいられない。しかし看護婦はそこから器具を取り出し、
「じゃあ脚を開いて?」
「え?あ、あの……」
戸惑うティターニアは看護婦の顔色を伺う。笑顔のまま何も答えない。意を決して脚を開き、膝を曲げる。恥ずかしさに本来なら顔が真っ赤になってるだろう。残念ながら今は真っ青だが。
「じゃあ入れますよー」
「い、入れるって、ちょっと待って心の準備がっぁあぁっ…ぃったぁ」
尿道にカテーテルが容赦なく突っ込まれ、痛さに腰をよじろうとするが、体が固定されて叶わなかった。
「じゃあ次はこっちに入れますよー」
大きく息を吐いて心を落ち着かせようとしていたティターニアに笑顔で見せつけられる器具を見て、目を見開いた。
「む、無理無理!そんな太いの入るわけ……んくぅっ」
やはり無遠慮に入れられたそれに思わず息が漏れる。
「あら、そう言う割には慣れてるみたいじゃない」
看護婦の失礼な言葉にティターニアは思わず言い返した。
「失礼ね、そっちは未経験よ!」
「あら、ごめんなさい。もう大丈夫だから」
看護婦が言ったことが一瞬わからなかったが、しても大丈夫、という意味と受け取り、排泄をする。この恥ずかしいのはすべて無重力が悪い。そう自分に言い聞かせながら……。
「終わりました……」
「はい、お疲れ様でした」
看護婦は言うが早いか装置を操作する。
「んふぅ」
その感覚にやはり変な声が漏れてしまう。吸引された為だ。
「はい、終わり。どうしたの?」
「どうしたの、じゃないわよ、最後の何?」
ティターニアが文句をいうと
「いや、ホースに残ってる物を吸引するためよ。嫌でしょ、便とかオシッコとかが宙を舞うの」
看護婦の言う言葉に一理はある。それ以上何も言えないティターニアに看護婦は優しく清拭して、器具を持って病室を後にした。ティターニアはゆっくりと脚を戻し、大きくため息を吐いた。
「320年生きてて、最悪の日だわ……」




