下着を買いに行く
「サイス」
ティターニアが授業後に声を掛ける。
「どうかしまして?」
サイスは不思議そうな顔をして近づいてくる。
「あのさ、その……一緒にお手洗い行かない?」
「構いませんわよ」
サイスは何も疑うことなく一緒にトイレに来てくれた。
「あのさ、ハンカチ、借りるって言ってたじゃない?その……ごめん、パンツだった……」
ティターニアが広げてみせる。確かにそれはハンカチではなくパンツであった。
「あまりの肌触りの良さにティターニアが間違えるほどの良いもの、と受け取っておきますわ」
サイスは言いながらティターニアからパンツを受け取りポケットに入れる。
「その……気が付かなかった私も私なんだけどさ……」
ティターニアが申し訳なさそうに言うので、サイスはティターニアの胸をつつきながら
「いつ気がついたのかしら?」
「わりとさっき……手を拭いてる時になんか違和感を覚えて……」
ティターニアはサイスの言葉に怯えている様子だった。
「ふふっ、なんだか可笑しいですわ。気分は悪くありませんわ。せっかくですもの、お詫びに、下着を買いにいきますわよ?」
サイスの申し出にティターニアは頷く事しかできず、二人はトイレを出て、すぐに校門へ向かうが、そこで知った顔を見かける。
「あれ、フーガ君?」
ティターニアが言うとフーガは気が付き振り返る。
「お、奇遇だな。今日はこれから街中へ行こうかと思ってたんだけど……二人は?」
フーガが聞くのでティターニアは
「お買い物だけど……」
少し、間の悪そうな返事をするのでサイスが
「一緒にいかがかしら。人数は多いほうが楽しくってよ」
そう言う。ティターニアは驚きの声を上げそうになったが、フーガが
「お、いいね。どうせ予定もなくぶらつくつもりだったから、都合が良い」
気軽に同意してしまう。3人はポッドを呼び出し街にあるとあるお店の前に降り立った。
「10分前の自分に言いたい。どこに行くか聞いておけ、と」
ランジェリーショップの前に立つフーガは困惑した様子で店の看板と二人を交互に見ていた。
「フーガ?どうしましたの?行きますわよ」
サイスが促し、ティターニアが肩に手を置きため息を吐く。
「諦めて?」
ティターニアに言われ二人について行く。まずはサイスのサイズから見るようだ。
「私、とくにこだわりはありませんの。ですので、ここは一つ。フーガに選んで頂きたいですわ」
サイスの言葉に思わず「は?」と声が出た。下着を?選ぶ?自分が?顔にそう書いてあった。
「あ、それいい考えかも。男性が選ぶ下着のほうが良いってどっかの記事で見かけた事ある」
ティターニアもその提案にのり、フーガの逃げ場を奪う。
「い、いいのか?」
フーガが声を震わせ言う。
「むしろ、そっちを望んでますの。私、フーガに選んで欲しいの。駄目とは言わせませんわよ?」
サイスが胸を張り言う。
「あら、貴方が選びさえすれば私はたとえ紐が1本あるだけの物でも喜んで買いますわよ?」
サイスが付け足す。責任は重大だ。困り顔で陳列棚を見ていると目に止まったものを手に取り、サイスの体に合わせてみる。
「あら、いい趣味してますわね、私にレースを選ぶだなんて」
レースが多く、お尻の部分はほぼレースという感じだった。布部分はクロッチとサイドくらいだろうか。
「ちょっと大人っぽくない?」
「あら、私はこれでも構わなくてよ?」
ティターニアとサイスが話し合う。二人はレースとサイスの体型を見比べているようだ。
「いや、その、サイスって結構大人だからさ、子供っぽいのは似合わないと言うか……」
フーガが言うと二人は驚いたが、サイスは喜び胸に飛び込む。
「あら、私を正当評価する方なんてそうはいませんわ」
嬉しそうにフーガを見上げるサイス。
「内面までちゃんと見てるんだね……」
ティターニアがつぶやくように言うとサイスはティターニアの腰に手を回し
「あら、次はティターニアの番ですわよ?」
サイスが言うのでティターニアは間抜けな声が出た。自分も数に入ってるの?と言う感じだ。
「さあ行きますわよ」
今日のサイスはノリノリである。
「あー、えっと、こっちだと思う……」
ティターニアは呆気にとられる顔をしながら自分のサイズの場所まで移動する。
「ティターニアは子供っぽい部分もあるから、こうゆうのかしら?」
サイスがフライングして手を伸ばし、フーガがそれを止める。
「いくらなんでもそれは馬鹿にしすぎだぞ」
フーガの言葉にサイスは嬉しそうに答えた。
「試しましたのよ」
と。フーガが一杯食わされた顔をして顔を赤らめると、ティターニアは少しだけ嬉しそうに
「サイスも程々にね」
と言う。フーガが何を選ぶか楽しそうに眺めているサイスと違ってティターニアはやや不安そうであった。
「このあたり、かな?」
フーガが手に取りティターニアに差し出す。
「あら、シンプルですわね」
レースの下着を選んだサイスとは違って、普通のフルバックのパンツであった。色は桜色で、素材はシルクのようだ。
「ティターニアなら見た目より普段遣いかなって」
ティターニアは笑顔になりそれを手に取る。
「有難う、でもなんで?」
「さっきも言ったけど、普段遣いできる物と、素材かなって。本物志向のところあるし」
ティターニアは首を傾げた。無自覚だった。
「いや、ゲームでもリアル志向の物を多くやってたり、お酒もちゃんとした醸造元から買ってるし」
フーガが言うと、ティターニアはまだ鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「俺、酒もタバコも、安物だぜ、へたすると3Dプリンターで作った物を口にしてるしな」
「私、結構ご飯はプリンターよ?」
ティターニアが言うと、フーガは
「お酒、何飲んでる?」
「アマレットとかアブサントとか……あとはジンとかウォッカかなぁ」
「俺、安易アルコール……」
ティターニアのラインナップにつぶやくように言うとティターニアはそこで自覚する。
「安易アルコールって、安物酒の代表格の?」
「そうだよ」
そう言うとフーガは周りを見渡し、小声で
「そろそろ、店を出たい……場違い感やばい」
ティターニアが店内を見渡してみると、確かに他の女性客がチラチラとこちらを見ていた。
「あ、そうだね。会計、しちゃおうか」
ティターニアもそれを気遣ってレジへと向かう。
「フーガにとって、私は触りたくない、という感じかしら?」
一人先へ行ったティターニアを離れ、フーガにそう言う。
「どうして?」
「こんなレースの下着、簡単に脱がせられませんものね。それに普段遣いもできませんわ。芸術品でも見るような感じですわ」
サイスが言いながらレジへ向かう。
「言ったろ、お前は俺のストライクゾーンから外れてるって。それだけだよ」
「やっと本音を言いましたわね。前向きに受け取っておきますわ」
サイスも言いながらレジへ向かう。丁度会計を終わらせたティターニアと合流する。
「フーガくんの用事は?」
「いや、いいや。なんか疲れた」
フーガが言うので今日はこのまま自宅へと戻ることにした。一人自室で買ったばかりの下着を眺める。
「本物志向かぁ……」
ティターニアは呟きながら買ったばかりの下着をベッドに放り投げる。その顔は嬉しさに満ちていた。




