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この太陽系で私達は  作者: えるふ
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金星滅びる

今回の話をキッカケに金星人の名前が発覚。ついでに仲良くなる事に。

ティターニアは真新しいワンピースの制服に身を包み姿見で確認する。

「なんか、ちょっと恥ずかしいような…」

ティターニアは見た目は年相応だが、実年齢で考えると可愛く見える制服に戸惑う。

「皆同じ格好だから大丈夫、うん」

自分にそう言い聞かせ、カバンを手に部屋を出る。まばらではあるが、生徒が学校を目指して歩んでいた。船内には移動用のポッドも動いており、空席ならば乗ることができる。移動用ポッドの乗降は手を挙げればよく、無人ながら柔軟な対応をしてくれる。

「歩くのも良いけど、乗ろうかしら」

ティターニアは近くを走っていたポッドに手を上げ、停車してもらった。

『相席ですが宜しいですか?』

「学校までお願いしたいのだけど、良いかしら?」

『目的地は同じです。ご乗車されますか?』

「ええ。お願いするわ」

ポッドに乗り込みティターニアは動きが止まった。

「まさか貴方が乗り込んでくるとは思いませんでしたわ」

同乗者はこの間の金星人だった。

「私もよ」

ティターニアはため息混じりに答えると隣に腰を下ろした。口喧嘩をした相手が隣りにいるというのは何と言うか居心地が悪い。乗り込んでしまった手前降りるわけにも行かず、微妙な空気をなんとかしたくなったが、話題に困った。

「私、貴方のこと何も知らないの。教えてくださらない?」

金星人が言うには自己紹介をしろ、と言っているのだろう。ティターニアはそれに従った。

「名前はティターニア。趣味はぬいぐるみ集め。天王星の出身よ。ついでに、既婚よ」

金星人は驚いたが、ティターニアが左手の薬指の指輪を見せると納得していた。

「まぁ、今となっては魔除けくらいにしかならないけどね」

ティターニアは指輪を外し、金星人に手渡した。

「オベロン、ティターニア…2900!?2900年ってどういう事ですの?」

驚く金星人から指輪を受け取ると再び指に戻す。

「言ったでしょ。私は不老不死の被験者だって。遺伝子レベルから作られたのよ」

ティターニアに両親はおらず、遺伝子を組み換えたり書き換えたりして”製造”されたのがティターニア。永久母体として期待されていた。今、学生をしている、と言うことは…そう言う事である。

「失礼を承知で聞きますわ…おいくつですの?」

ティターニアは流石に隠す必要はないと判断して正直に答えた。

「320歳よ。結婚したのは今から200年前。自分で言うのも何だけど…未亡人よ」

「相手は普通の方でしたのね」

「ええ。炭鉱夫だったわ。稼ぎは良かったけど、家にはあまり居なかったわ」

ティターニアの遠くを見る目に、金星人は申し訳なさそうにしていた。横顔を眺めているのがティターニアにもわかったのか、眼と眼が合う。

「つ、次は私ですわね。名前はサイス・ラーン、歳は25。金星出身よ。私達も遺伝子を多少変化をさせていて、前の世代は長身でしたが、私達は逆に背が低いですわ。趣味は歌よ。前の学校の時はコンクールに出れた程ですわ」

サイスが言うが、あまり嬉しそうに見えない。

「嬉しくなさそうね」

「誰にも…認められなかったからですわ…」

サイスは自分の端末を操作して1枚の写真を表示した。

「入賞したのに?」

「ええ」

サイスは即答した。自分を囲う人たちはできた。承認欲求を満たすには十分だったが、両親には認められなかった。それくらいは当たり前、と言う事だろうか。

「それで、私は嫌になって家を飛び出したのですわ。ただ、コロニー式のトイレにはまだ慣れないけれど……」

ティターニアはそれを聞いて昨日のニュースを思い出し慌てて端末を操作する。

「これ見た?」

ティターニアは端末の画面を見せながら言う。見出しは「金星、地表を放棄」だった。

「見ましたわ…でも……」

「今日学校が終わったら、通信室へ行きましょう?」

ティターニアが提案する。家が嫌で飛び出してきた相手に家を心配しろと言うのも何か変な話だが、肉親である。

「判りましたわ……」

『到着しました。足元にご注意下さい』

機械音声が流れ、二人は降りて教室を目指した。




授業が終わり、校門のところにサイスは立っていた。

「待って無くてもいいのに」

ティターニアはポッドが近くに居ないか周りを見渡す。

「私は…貴方に謝らなければならいの…」

サイスは床を見ながら言う。

「それは最後にして?ほら」

ティターニアはポッドを止め、中から手招きしていた。サイスは頷き乗り込んだ。

「通信室までお願い」

『了解しました』

機械音声が流れ、ポッドは静かに動き始めた。流れる風景を見ながら、ティターニアは言う。

「親がいるのってどんな感じ?」

「当たり前の感じですわ」

「天王星に売春禁止法がないのも、当たり前の感じだったわ。べつに自分はしないし」

禁止されていないから、皆が皆しているわけではない。逆も然りなのだが。禁止してもするやつはする。

「そう…」

サイスは小さく漏らす様に答えた。

「私には両親が居ないのが当たり前だったけど、旦那は居たわ。一緒の時間は短かったけどね。でも、別れの時、私は見送れて良かったと思ってるわ。親しい人の最期って、そういうものじゃないかしら」

ティターニアの言葉にサイスは何も答えず、ただ唇を噛んでいた。一緒に居られれば、と思う気持ちが胸の中にこみ上げてくるのだろう。

『到着しました。お降りの際は足元にご注意下さい』

機械音声が流れ、扉が開く。

「ほら、お嬢様…」

「え、ええ」

サイスはティターニアに引っ張られるように通信室へ入り、予約表に端末をかざす。

『予約番号は105です。暫くお待ち下さい』

「椅子なんて沢山空席なんだから早く案内しなさいよ」

サイスが口を開く。しかしその声は暗かった。どんな顔をして通信すればいいのか、それだけが気がかりだった。

『B-15席へどうぞ』

通信端末の上のランプが光っている椅子へ腰を下ろし、端末を操作する。

「えーと、金星の固定番号は……F16ね」

ティターニアが番号表を開き、サイスは打ち込んでいた。F16-65A87-B25。通信端末に表示されている番号が正しい事を確認するとサイスは呼び出し釦を押した。

『どちら様?』

「サイスですわ」

『貴方の声が聞けて嬉しいわ…』

「お母様、あのっ」

サイスの言葉は相手側の近くにいる人の悲鳴で止まった。

『地表は溶岩で溢れてて……ここも危ないでしょうね…これは貴方に今までしてきた事への天罰ね』

「お母様、私は、私はっ!」

『そうね、これだけは貴方に伝えておきたいわ。さようなら、愛しの子』

最後の方は通信にノイズが入りほとんど聞こえなかった。画面にはOfflineの文字が表示されていた。

「私は…愛してますわ……」

サイスは涙を流しながら通信端末の画面を眺めていた。ティターニアは無意識にサイスを胸に抱き寄せた。


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