ティターニア、火星との交渉に呼ばれる
ティターニアはベッドから飛び起きた反動で飛び上がり、天井にぶつかった。
「痛ぁい…!無重力だった…いたたた」
ぶつけた場所を手でこすりながら星の飛び交う視界の中で宙に浮いているぬいぐるみに抱きつく。
「むぅ、夢見が良くなかったし、校長先生に文句言ってこよ」
完全に八つ当たりである。ティターニアは抱いていたヌイグルミを投げるとクロゼットに向かい、服に着替え、外に出る。そしてティターニアは驚き一瞬だけ声を飲み込んだ。
「……いたなら呼び鈴鳴らしたら?」
そこにいたのは校長先生に仕えるメイドであった。
「あ、えっと、その。あの…校長先生がお呼びです……」
ティターニアはその脇を通ろうとして腕を掴まれる。
「あの……お車…用意されてますので、こちらへどうぞ……」
メイドが指差す方向に車が一台止まっている。ティターニアは車とメイドを交互に見て、
「何用?」
と一応聞いてみる。ティターニアとしては文句を言いたいだけなのだが、メイドをよこすとは穏やかではない。
「えーと、あの、その……ホログラムを使って説得を試みたのですが、その、上手く行かなかったみたいです……」
「つまり、生の説得が必要、というわけね」
ティターニアは車に乗り込むと、メイドもあとに続くように車に乗り込む。
「何か音楽は無いの?」
ティターニアが言うと車の座席の後ろのモニターを眺める。
「特に何かあるわけではないので……ですが、端末を接続すればどんな曲でも流せますよ」
メイドが言うので端末を接続し、ドラゴンフォースのスルーザファイアーアンドフレームスを再生する。
「あの……随分激しい曲が好きなんですね……」
メイドが困惑気味である。おそらく、このメイドは大人しい曲のほうが好きなのか、眉間にシワが寄っている。
「あら、だめなの?」
「いえ、とんでもない……ただ、その…見た目によらないと言いますか……結構な趣味をお持ちのようで……驚いただけです……」
ティターニアが言うと、メイドは慌てて訂正する。ティターニアはおもむろにメイドの胸に触れる。
「あ、思ったよりある……」
ティターニアの言動にメイドは手を払い除けた。
「やめてください、怒りますよ」
その言葉にティターニアは肩をすくめる。
「普段からそれくらハッキリ言えばいいのに……どうして、あのその言ってるの?」
ティターニアが言うと、メイドは言いづらそうに
「その…性格といいますか……癖と言いますか……会話が怖くて…」
メイドはスカートの裾をぎゅっとつかみ言葉をつなげる。
「知ってる?私、文字が読めるようになったのつい最近で、英語が使えるようになったの、5年くらい前の話よ?」
ティターニアが言うとメイドはティターニアを見て言う。
「それが何の関係が?」
「どれくらい怖かったと思う?他の国に出るって事が」
「知りませんそんなの。貴方の感じる怖さと、私の言う怖さは別次元です」
「その時はそうかもね。でも、これから起きることは私、とても怖いわ」
ティターニアはメイドの手を優しく握りながら言う。
「どういう……意味ですか?」
「私が一言間違えただけで戦争になるかもしれない……そうなれば大勢が傷付く事になるわ。命に関わる解答をしなければならない……」
ティターニアの手をメイドは見る。先程払い除けた衝撃で彼女の手は赤くなっていた。
「ずるい、です……そう言う張り合い方……」
メイドはそっぽ向く。どうせ共感されないんだ、と思っているのだろう。ティターニアは切り出す。
「誰だって最初は怖い。だけど、その恐怖にどう立ち向かうかで未来が変わってくる……だから私は逃げずに貴方に従った。勇気って分かる?」
メイドは面倒な人の隣に乗ったな、と顔に出していた。
「立ち向かうこと、ですよね?」
ティターニアはメイドのスカートの裾を引っ張りながら言う。
「ちょっと違うわ。『勇気とは1分だけ長く恐怖に立ち向かう事』よ。1分だけでいいのよ。何も会話すべて立ち向かう必要なんて無い。まずは1分、でもないわ。1分だけ立ち向かったら、あとは逃げればいい」
ジョージSパットンのセリフを言いながらティターニアはスカートの裾をグイグイ引っ張る。
「あの……さっきから何してるんですか?」
メイドは困惑しながら抵抗する。
「いや、ちょっと…最近、嫌なことだらけだから……貴方のパンツを見ようかと」
ティターニアは素直に言う。メイドは話の流れが読めないようだ。
「あの……さすがに殴りますよ?」
ティターニアは天井に目線を動かし、そして目を見てこう答えた。
「あ、殴って!そしたら、見せて?見たら殴られるって事は、殴られたら見せてくれるわよね?」
ティターニアの言葉を受け、メイドは迷うことなくティターニアを殴った。殴られた反動でドアに張り付くティターニア。
「い、良いストレートでした……」
ティターニアは痛む頬を撫でながらメイドの方を見ると自らスカートを捲りあげている姿がそこにあった。
「これで満足ですか?」
メイドは嫌そうな顔をしていた。しかしティターニアは嬉しそうに
「ええ、とっても。参考にさせてもらうわね」
メイドはキョトンとした顔になる。表情がコロコロ変わって可愛い。
「いえ、パンツって可愛いのが多いけど、何を選んだら良いか判らなくて、色々な人に聞いてるのよ。できれば多いほうが良いし」
ティターニアが言うとメイドは目を細め
「なら最初からそう言って下さい……私、同性に興味ありませんので…」
メイドが言い切るとティターニアはため息混じりに言う。
「私も最初は同性に興味なかったんだけどね……友達に影響されて……女の子もいいなぁって」
ティターニアが目を輝かせて言うと、メイドはできる限り距離を取ると
「そういうの……本当にダメなので……勘弁して下さい」
メイドは泣きそうな顔をしていた。
「着きまし……どうしたんですか、その顔!?」
気がつけば車が止まりドライバーがドアを開けて驚いていた。ティターニアの頬が赤くなっていたせいである。
「ん?あ、顔?ちょっとセクハラしてたら殴られちゃった」
ドライバーは肩を落とすと、
「火遊びは程々に……」
と注意された。ティターニアは車から降りると、車の床を蹴って泳ぐように市長官邸に入っていく。




