宇宙とお酒
「あのティターニア、折り入って相談がありまして」
サイスから通話がかかってくる。
「何?私にできること?」
ティターニアはテレビを見ながら応える。
「むしろティターニアじゃなければ頼めませんわ」
サイスは言い切ると同時に部屋の呼び鈴が鳴る。ティターニアは少し驚きながら部屋の扉を開ける。
「では、失礼させていただきますわね」
サイスはティターニアの脇を通り越し部屋の真ん中で止まる。
「ちょっと、その、胸を、見せていただきたいの」
サイスの申し出にティターニアは首をかしげる
「え?胸?良いけど、なんで?」
ティターニアは服を脱ぎながら言う。
「いえ、無重力のときって胸はどう動くのかきになりまして」
サイスが言うのでティターニアは上下に移動してみる。
「これで分かる?」
「ええ、とても」
サイスが目を輝かせていたのでティターニアはすぐに服を着て、たまたま近くを泳いでいたヌイグルミに抱きつく。
「なら良いけど、本当に聞きたいことは?」
サイスは少し考え、
「その、お酒のお勧めを……」
少し歯切れの悪い言い方をしていたので気になったが、とりあえず聞いてみる
「甘いお酒と辛いお酒、どっちが好き?」
ティターニアはとりあえず好みを聞き出そうとする。
「えーと、甘い方で」
「炭酸はあり?なし?」
「なしで」
「重さは?」
「割れるなら重くても大丈夫ですわ」
ティターニアは少し考え、アマレットの瓶を投げる。
「きゃっ、危ないじゃない」
サイスが避けたので瓶は壁に当たり漂い始めるのでティターニアはそれを拾いサイスに手渡す。
「半分くらいしか残ってないから、あげるわ」
サイスは手渡されたアマレットの瓶を眺める。
「何で割ればいいのかしら?」
サイスは飲んだことのないお酒に困惑していた。
「えーと、コーラ、ジンジャエール、牛乳、あたりかな。強くてもいいならウィスキーやブランデー、コーヒーリキュールでもいいけど、炭酸がダメなら、牛乳あたりになるかな」
ティターニアが言うとサイスは少し考え
「牛乳?どんな感じになりますの?」
「杏仁豆腐みたいな味になるよ」
サイスに通じるかどうか分からない、と思ったが杞憂に終わった。
「ああ、それでしたら大丈夫ですわ」
「あ、無重力状態でお酒飲んじゃダメだからね?」
「ダメですの?」
サイスが首をかしげる。ティターニアはヌイグルミを自分の隣に漂わせると
「無重力だと酔いが回りやすいのよ」
「それはストローで飲むからではなくて?」
ティターニアの台詞にサイスが聞く。
「いえ、それがストローで飲んでも良いやすさは変わらないらしいわよ」
「じゃあ、やっぱり効きやすくなるのですわね」
サイスが納得していた。そしてしばらくしてティターニアは口を開く。
「あと、無重力状態でお酒が飲めるのは世界広しと言えど冥王星だけよ」
と繋げた。
「根拠のない法ですわね」
「根拠はないけど、昔からのしきたりみたいよ。冥王星は天王星からの派生だから、無重力状態での禁酒法はないのよ」
無重力状態での飲酒が許可されてるほうが異常なのだ、とティターニアは言う。
「で、実際どうでしたの?」
「睡眠薬がすぐに効かなくなって、ウォッカを飲んだら気分良く寝れたわ」
ティターニアは苦笑いしながら応える。
「あら、じゃあ地球圏の禁酒法の方が異常なのではないかしら。ただ、地球圏は長らく無重力状態とは無縁だから、そのしきたりが残ったままなだけかもしれませんわね」
サイスはそう言うと、酒瓶を持って玄関へ移動する。
「今日は相談にのってくれてありがとうございましたわ。また来ます」
そう言って部屋を去っていった。一人残されたティターニアはベッドに飛び込むと
「一番困ったのは『空中に物を置く癖』が暫く抜けなかった事なんだけどね」
ティターニアは冥王星に5年いたため、完全にその癖が残ってしまったので、重力のあるコロニーへ移動した際、かなり苦労した。今思えばいい思い出である。
NASAでは酒類の持ち込みを禁止してるそうです。
しかし、様々なお酒が宇宙を旅をし、宗教上の理由で月面ですらお酒を注いだとかゆう噂話を聞いた事があります。
しかし、もっとも笑ったのは「私はひどく喉が乾いていたので妻に水をせがんだ。そして飲みきり、手を離した……なんの他意もなかった」と言う体験談でした。睡眠薬よりもウォッカの方が効く、というのもおかしな話ですが、どうもソユーズ時代に実際やったらしい。




