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この太陽系で私達は  作者: えるふ
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1話


 入学式がおわった初日は休日である。それはこの学園都市船が出港するというのもあるし、学生が荷物を受け取るというイベントもあるからである。

『荷物届いてますよ』

呼び鈴の後、室内に声が響く。ティターニアは目をこすりながら時計を見る。

「いけない…寝過ごしたわ……」

ティターニアはベッドから起きるとそのまま扉を開ける。

「えーと、ここに受け取り…の…さ……いん……」

配達員の言葉が途切れ途切れになってティターニアは首をかしげながら配達員から端末を受け取り指定の場所にタッチペンでサインをする。

「えーと、全部で4箱ですね……では、失礼します…...」

一旦床に箱を置いて、一つずつ部屋に運び入れる。箱を眺めながら自分の姿を見下ろした。

「あっぁあ…」

悲鳴にも似た声が漏れた。上はキャミソール、下はパンツのみとばっちり下着姿であった。

「そりゃ配達員さんも困惑するわけだよ……」

肩を落としながらも開梱作業を行った。

「これが服で、これが下着で…これが食器。これ何だっけ?」

箱を開けながら確認していくと、一つ記憶にない物があった。

「あー、お酒……持ってきてたっけ?」

ティターニアは箱の奥にある手紙に気が付き取り出す。

『政府より愛を込めて』

わざわざ手書きのあたり判ってるのか、長い文の手紙がそこにあった。

「本当に愛があるならお酒なんて選ばない気が……す…る?」

箱の中のお酒はアブサントにアマレット。ブランデーにウイスキーだった。アブサントはともかく、アマレットはティターニアが最も好きなお酒だった。

「愛はありがたく受け取りましょう、うん」

ティターニアはテーブルにアマレットとブランデーを置いてフと誰かと飲めないか考える。

「フーガ君と飲めないかな……?」

ティターニアは端末を操作してフーガを探して通話釦を押す。

『そろそろだと思ったよ』

「いえ、その件は良いの。アマレットが手に入ったから一緒に飲まない?」

『判った、すぐ行く。部屋はどこだ?』

「えっと、ちょっと待ってね。G-205よ」

『判った』

フーガが来るまでに、箱の一番上にたまたまあったワンピースを着て、少しネットサーフィンでもしようかと端末を手に「どうせ時間もないから」とニュースサイトを開いた。トップに「金星の地表に非常事態宣言」と書かれていた。内容を見てみると、どうやら複数の火山が同時に噴火したようで、地表は大変危険な状況で、コロニー側から救助艇が降下している、との事だった。

「これ……」

詳しく記事を見ようとしたタイミングで呼び鈴がなったので、端末の画面を消して扉を開けた。

「早かったわね」

「いや、これでも時間かけたほうだぞ」

ティターニアはフーガが手に持っていた物を覗き込む。

「コーク。フレンチ・コネクションを飲むわけにいかないからな」

フーガが少しため息混じりに言う。

「フーガ君、あまり強くないもんね」

ティターニアがテーブルに腰を下ろしながら言う。

「いや、ティターニアがザルなだけだぞ」

フーガも隣に腰を下ろしながら言う。テーブルの上にはアマレットにブランデーが置かれている。ティターニアはアマレットを注いでからブランデーを注ぎ、フと思う。

「フレンチ・コネクションがダメなら、ゴッドファーザーなら行け……」

そこまで言った時にフーガが言葉を制した。

「行けねぇから」

素早いツッコミにティターニアはアマレットだけを注ぐ。

「酒を酒で割るのは良くないって」

フーガは注がれたアマレットにコークを混ぜながら言う。

「え?地球時代は普通にあった飲み方らしいわよ?」

「地球人ってやっぱり頭悪いんじゃねぇのか?」

フーガはグラスを傾けながら言う。

「そう?美味しいから良いじゃない」

ティターニアは少し楽しそうに飲んでいる。

「普通、酒ってなにかで割るだろ?割ってないだろ?酒足してるだろ?やっぱり頭悪いぜ」

フーガがグラスをテーブルに置きながら言う。

「えー?でも……」

ティターニアは少し歯切れの悪そうに言うが、少し間を置き、

「でも…こうやってお酒一緒に飲むの、いつぶりか判らないけど、楽しいじゃない?」

ティターニアの突然の話題の変わり方にフーガは少し驚くが、

「え?あぁ、そうだな。でも2年ぶりくらいか、な?」

フーガはカレンダーを見ながら言う。

「2年も経つんだ…フーガ君に襲われてから」

2年前、フーガとオフ会したときにそのまま押し倒された。ティターニアはその時驚いたが抵抗せず、その行為を許容した。

「いや、あれはその…」

「ふふっ、怒ってないわ。私も望んでたし」

ティターニアはからかうように笑いながらグラスを傾けていた。

「魔が差したとはいえ、悪かった……」

「今度は私が襲おうか?」

「勘弁してくれ……」

肩を落とすフーガに楽しそうにしているティターニア。




「結構飲んだわね」

見ると瓶が空になっている。

「そうだな。だいぶ飲んだな……」

フーガが空になった瓶を手に取る。天王星文字でかかれており、読めなかった。

「何て書いてあるんだ?」

「ネキサモーロ・カアメッノ」

フーガはある程度予想していたが、まさかそのまま発音されるとは思ってなかったので何を言ってるか判らなかった。

「天王星語は判らないのからできれば英語で……」

「ディサローノ・アマレットよ」

言いながらグラスを棚にしまうティターニア。

「洗わないのか?」

「後でね。もう出港するみたいだし」

そう言えば船内放送が流れていた。

『間もなく出港します。対G姿勢をとって下さい。4、3、2、1、エンゲージ』

「きゃっ」

加速Gによろけて可愛い悲鳴をあげるティターニアをフーガは抱きとめる。

「あ、有難う……」

ティターニアはGが無くなるまでフーガの腕の中にいた。少し恥ずかしいような、くすぐったいような、不思議な感覚に顔を赤らめた。

「大丈夫か?」

「う、うん…」

フーガが優しく離すと、ティターニアは長い髪をわざと肩に流さずに顔を隠しながら棚からグラスを取り出しキッチンの食洗機に入れる。

「もう飲まないと思うと安心できる」

フーガはそう言って扉の前に移動していた。

「もう帰るの?」

「まだ荷物整理終わってないしな。そっちも」

ティターニアは言われて思い出す。まだ箱が積まれている状態だ。

「あはは……じゃあまたね」

笑ってごまかすと、フーガも手を振って部屋を出ていった。

「と、とりあえず、タンスにしまっちゃおうか」

服をクロゼットに、下着類をタンスにしまいながら言う。箱を解体する頃には船内時間は夜遅くを指しており、ティターニアはシャワーを浴びるために服を脱いだ。

「温かい」

船内が微妙に涼しいので温かいお湯を頭から浴びると、その暖かさに安心する。しかし同時に不安に襲われる。夜になると時折襲われる不安だ。

「……私は…あと何年生きれるのだろう」

ティターニアの小さなつぶやきはシャワーの音に流されて消えていった。


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