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この太陽系で私達は  作者: えるふ
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おわび

ティターニアは授業を終え、教室を出ると、先に出ていったはずのサイスが待っていた。

「この間はとてもデリカシーの無い話題でしたので今日はお詫びをしたくて」

そこまで言ったサイスにティターニアは言葉を制する。

「いや、気にしてないから」

「ティターニアは嘘が下手ですわね。顔に書いてありますわよ。お詫びに、良いお店を紹介致しますわ」

サイスが言い終わると丁度移動用ポッドが目の前に停まる。

「ほら、お乗りになって?」

サイスの言葉にティターニアはため息を吐きながら乗り込む。

「金星の風土料理でも食べさせてくれるのかしら?」

ティターニアは行き先を確認しながら聞く。

「いいえ、この学園都市の料理ですわ」

この学園都市船は太陽系を旅をするように移動している国家に近い。そのため独自の文化を持つ。

「へえ、それは興味あるわね」

ティターニアはポッドに端末を接続して最新情報を入手してどんなものか見ようと試みる。

「ティターニアの舌に合うか、それは分かりませんけれど、少なくとも私の好みですわ」

ティターニアは評判を見てみるが、生徒による悪い評価はないようだ。

「あの、私…天王星で、サイスは金星……美味しいと感じる部分それ自体が違う人種だけど、本当に大丈夫?過去に天王星の人はあまりこの学校にいなかったみたいだけど」

ティターニアは不安そうに言う。

「そう言えば天王星と海王星の人は魚介類で美味しいと感じるのでしたわね」

サイスが思い出した様に言う。

「金星人や火星人は肉類で美味しいと感じるだったよね?」

ティターニアが続ける。金星や火星でピンクの服を着ていると美味しそうに見えるらしい。

「ところで、天王星や海王星はどうやって魚介類を手に入れてますの?」

サイスが話題を変えてくる。地球より遠い星に液体の水は存在できない。テラフォーミングしたのは金星と火星だけであり、次に大気のある星は衛星タイタンくらいであるが、この星はテラフォーミングされていない。

「え?コロニーの中に海があるよ?」

サイスはそれを聞いて驚いた。コロニー生活において水は貴重品。そのはずであるから。

「海って……海ですわよね?そんなのがコロニーの中に?貴重な水を?」

ティターニアはそれを聞いて首をかしげる。

「水ってそこまで貴重かな?天王星は海水浴場とかもあるし、そんな貴重なイメージなかったな」

ティターニアの台詞を聞いてサイスは首を捻りながら

「そう言えば、無駄遣いと言う意味で『湯水の如し』て言い回しがあるのでしたわね……」

そう言う。なぜ天王星のコロニーに水が沢山あって、資源が潤沢に存在するか、それは木星もよく判っていない。天王星の独自技術である。そこまでして魚が欲しかったようである。

「遺伝的に人が作れるのだから、魚だって作れるはずなんだけどね」

ティターニアが言う。確かに不思議な話である。わざわざ海なぞ作らなくても魚は飼える。だが養殖に海は必要だろう。大型の魚を入手するには水槽では厳しい。もっとも、コロニーの中の海は大きな水槽とも言えるが。

「もしかしたら……地球の海に憧れがあったのかもしれませんわね。地球から遠い星で、移動にはFSDが必要で……」

サイスがそこまで言ったところでポッドは足を止め、扉が開く。目的地についたようだ。

「ついてしまいましたわね、では行きましょうか」

サイスに手を引かれポッドから降りる。


「洋食店MammaMia」


ティターニアはその看板を見て首を傾げた。

「これ、何語?」

ティターニアが言うと

「古代イタリア語ですわ」

サイスが言う。失われた言語の一つ。英語を標準語として定めたが、それでも英語を使うのは国際交流に限られている。それでもなお、地球時代の言語の幾つかは失われていた。

「意味は?」

ティターニアが看板を見ながら言う。サイスは扉を手にしていたので後に続こうとしていたが、まだ看板を見ようとしていた。

「驚きを意味する言葉ですわ。我々のOhMyGodみたいなモノだと思っていただいて結構ですわ」

サイスが扉を引くと鈴の音色が響く。

「えーと、2名っと」

サイスは人数を打ち込み端末に持っている個人の端末をかざす。

『A-15席へどうぞ』

二人は端末に表示された席へ移動すると、端末を操作してメニューを開く。

「麺類なのに汁に浸かってない、なんで?」

ティターニアが言うとサイスはまたも驚く

「そちらの麺類は汁に浸かってますの?そちらの方が珍しいと思うのだけど」

サイスはティターニアの言う麺類が想像できてなさそうであった。

「でもフードハラスメントって言われそうだから、オススメはしないかな」

ティターニアが言うと、サイスは少しだけ納得した顔でメニューを選んでいた。

「国が違えば文化が違う、文化が違えば考え方が違う、当たり前の事ですわ」

サイスが端末を机の上に置きながら言う。ティターニアは少しだけ安心して、メニューを選んだ。

「ティターニア……まだデリケートな話で申し訳ないのですが…個人情報、公開されてますのね」

サイスの言葉にティターニアの手が止まる。

「見たのね……?」

「ええ」

ティターニアの震える声にサイスは即答した。

「結局私は玩具だった、と」

「違いますわ!」

ティターニアが言うとサイスは言葉を遮った。

「もし本当にただの玩具だったら……今こうして私と一緒に食事なんてしてないはずですわ。今もきっと研究所にいると思います。しかも弱視まで矯正してもらって。……貴方の生まれは不幸かもしれないけれど、その中でも幸せを確実に掴んでますわ」

サイスはそう断言する。

「本当に?」

ティターニアは今にも泣きそうな顔で言う。

「ええ。私とフーガとお友達ですから」

サイスは言う。ティターニアは首を傾げ

「え?」

ティターニアは疑問を浮かべる。

「貴方、今まで自分を話せる相手と出会ったことがありまして?」

サイスはテーブルに運ばれてきた料理を受け取りながら考える。

「私……私を…なかったかも…」

「私は貴方を知って、なお、私は貴方を友人だと認めますわ」

サイスは再び断言する。

「まったく、サイスにはいつも驚かされるよ」

ティターニアは料理を口に運びながら言う。

「出会いこそ問題があったかもしれませんが、貴方は私に大いなる一歩を踏み出させてくれた大切な人ですもの」

サイスは金星の親に連絡を取るつもりはあの当時なかった。それから、故郷と連絡をとり、貿易などのアドバイスをしている。

「そんな大げさな」

ティターニアの台詞にサイスは首を振る。

「大げさなモノですか。むしろ謙虚ですわ」

サイスも同じように料理を口に運びながら言う。それを見てティターニアはため息一つ。

「偉大なる一歩に」

「偉大なる友に」

二人は水の入ったグラスをかかげ、乾杯をする。


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