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この太陽系で私達は  作者: えるふ
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ティターニアのバイト

ティターニアは少し考え、ジムへ行くことにした。無重力期間は短いが、無重力状態に体がさらされると筋力などが低下する。心筋とて例外ではない。その事もあって無重力状態2日目である本日はもともと休校である。

「この時間でも移動ポッドは満員多いなぁ」

昼近いといえど、無重力状態では移動が難しいので移動ポッドの人気度は高い。ティターニアは天井に飛んで天井伝いに移動を開始した。重力下を歩くのとちがって飛んで移動するのがメインになるので長距離でもそこまで疲れない。

「そんなに急いでどこへ行きますの?」

高速移動をしていたら偶然追い越したサイスが声をかけた。

「スポーツジムへ。運動しないと、重力戻ったら辛くなりそうで」

ティターニアは減速し速度を合わせると言う。

「私もそうするところですわ。良かったら一緒にいかがかしら?」

サイスの申し出に嬉しそうにティターニアは答えた。

「ええ、良いわよ」

二人は並んで移動する。



ジムに到着すると、すでに多くの人がおり、並んでいる状態だった。

「まぁ、こうなる事は予想できてたわ」

ティターニアはそう言いながら端末を機械にかざす。端末には12番と表示されている。直後に同じ操作をしたサイスは13番だ。

「しかしそのあいだ暇ですわね」

ティターニア達が順番を待っていると、男が一人二人の脇を通過していく。ティターニアは何気なく男の手を見る。銀に光る何かが握られていた。店員が止めようとしているのを見ると、あまり良くない状況である。ティターニアは迷わず911通報した。

「あの、刃物を持った人がジムで暴れています。すぐに来て下さい!」

ティターニアは刃物と判断して早めの通報。

『承りました。ただちに急行します。5分ほどお待ち下さい』

そう言って通話は終了した。ただの杞憂であって欲しい。その願いは打ち砕かれる事となった。

「きゃーっ強盗よ!」

誰かが叫んでいる。店員をだけではない、利用者全員が人質である。数人の武装した人が威嚇をしている。

「犯人は5人、出口は2つ、FFUの稼働率は高い……壁も…大丈夫そうね」

ティターニアは呟き床を蹴ろうとして、サイスが腕を掴む。目を合わせるとサイスは首を横に振った。

「でも…」

「だめですわ」

サイスはティターニアを落ち着かせようとしていた。実際、ティターニアが英雄的行動にでたとして、相手は5人。ティターニアだけでなく、他の人に危害が及ぶ可能性の方が高い。

「女ぁ!何話してやがるぅ!!」

犯人の一人が大声を上げる。

「お花を摘みに行きたいって話をしてたのよ」

ティターニアはその場しのぎをする。

「ちっ、我慢してろ!」

「苛ついてますわね」

サイスがため息混じりに言う。

「誰が?」

ティターニアが言う

「貴方が」

サイスはティターニアを指をさす。

「私、反社会的な人、キライなの」

「気持ちは判るわ。貴方は今までそういう目にあっていたのだから」

人間が生きるのに300年と言う年月はあまりにも長過ぎる。

「おいお前!」

気がつけば犯人の一人がティターニアの前まで移動していた。

「何よ、今取り込んでるのよ」

「五月蝿ぇんだよ、さっきから!死にてぇのか!」

犯人の一人はティターニアに刃物をつきつける。

「そうよ、当たり前じゃない。夫は先に死ぬし、友達もみんな先に死んじゃったし、故郷には帰れないし……そろそろ疲れたわ」

ティターニアが言うと

「お前なに言って……」

そこまで言った時に警察が突入を開始していた。予定よりも早く到着する辺り、優秀なようだ。

「両手を上げて降参しなさい!」

「ジャスト2分ってところね」

ティターニアは言う。サイスはあっけからんとしていた。

「まぁ、今回は準備してたので……こんなの本当に訓練になる?」

ティターニアが続けて言う。サイスは肩を叩きながら

「あの、訓練って…」

サイスが引きつった顔をしている。

「警察から直々に『防犯訓練がしたいから、ぜひイメージキャラクターに』て言われたのよ」

そのメールを受け取ったのはなんと当日の朝だったりする。

「寿命が縮みましたわ……まさか演技だっただなんて」

「お、ティターニアもいたのか。俺も従事してたんだぜ?犯人役だけどな」

「フーガ君、バラクラバしてても分かりやすかったわよ」

ティターニアが言うとフーガは機嫌悪そうに

「うるせえよ、ただ、今回用意したのが模擬刃で良かった。そうじゃなかったら今頃犯人役の誰かが死んでた」

と返した。フーガ、この時代に168しか身長がない、小柄な男。火星では珍しい部類にはいる。

「で、順番はまだかしら?」

ティターニアが言いながら端末を見る。

「切り替え早すぎません?」

サイスが驚いていたが、フーガはティターニアの言葉を無視して続けた。

「ティターニアに銃は絶対に持たせるなよ?引き金が軽すぎる」

「ちょっと、人を野蛮人みたいに言うのやめてくれない?」

ティターニアは抗議の声をあげる。

「地球のコロニーでやらかしたってのは軍関係じゃ伝説になってるからな」

「呆れて物が言えないですわ」

サイスはため息を吐きながら言う。

「違うから、天王星は1.2Gだけど地球は0.98Gじゃない!だから力が強く感じられるだけだって」

天王星と海王星が1.2Gもあるのはコロニー建設時に置ける設計ミスなのだが、同じ事が地球でも起きていた。

「何を…しましたの?」

「現役軍人3人をのした」

フーガは言いながら当時の記事を引っ張り出す。

「ティターニアは体術も得意なのですわね?」

「あ、いや、その…昔護身術として少林寺を少々……」

サイスの言葉に弱々しく応えるティターニア。

「そう言えば天王星はアジア系でしたわね……」

「アジア系の体術はわりとヤバイ。宇宙時代になってもそのヤバさは変わってない」

サイスとフーガの話を聞いてティターニアは顔を赤くしながら

「ちょっと二人共ひどくない?」

「ただの事実ですわ」

サイスが言い切ると、フーガは

「まぁ、その結果、軍人といえど、高重力下の人間は力が強い、体術習得者なら一般人であっても軍人にも匹敵する。と軍は判断して、新しい対策を考えてるみたいだけどな」

フーガはそう言いながら二人の元を離れようとする。

「どちらへ?」

サイスが聞く。

「いや、これ、バイトだから。クライアントに請求に」

フーガは言いながら離れていく。

「私はもう振り込まれてたし、運動したら帰ろう」

ティターニアは店員に話しかけ、トレッドミルに案内してもらう。

「走ればいいのね?」

「はい。速度は10キロくらいを目標にして下さい」

サイスの方を見ると、サイスも別の店員に案内されていたので、自分は目の前のトレッドミルに乗り、体をゴムバンドで固定する。無重力状態では体を固定しないとトレッドミルで走ることができない。

「う~ん、スパッツでよかった」

ティターニアはスカートなのだが体の動きでスカートが捲れ上がってしまっている。見ると、同じ様な事になっている人を何人か見かける。

「やっぱり運動するのにスカートはダメか……」

そんな呟きをティターニアはしながら距離計を見る。徐々に増えていく数字を楽しみながら走った。


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