夜に焦がれたひとりのなにか
好奇心は猫をも殺すらしい
今より少しだけ前のお話。
とある村外れの集落……より少しだけ離れた所に不思議な山があった。
その山の麓は沢山の果実が成り中腹には様々な山菜が生息しており、集落の人々は山に
足を運んでは必要な分だけ収穫し戻る。そんな日々を暮らしていた。
しかし集落の者は山頂へだけは決して足を踏みれない。
その山頂は何故か木々は切り払われ、不自然なまでに大きな岩が剥き出しになっている
という他の山では見ない形状であった。
だが、集落の者が近付かない理由はそこではなかった。
なんでも毎夜毎夜その岩の上に座り続けるなにかを見たという。
最初の頃は何人かの若人が怖いもの見たさや度胸試しで山頂に訪れていたものの、岩の
上の大きな影は声をかけど物を投げど全く持って見向きもしなかった。
何をする事もなくただただひたすら夜空を見続けていた。
春の風が季節の香りを纏った暖かで優しい夜も。
夏の日中の熱を隠した涼やかな夜も。
秋の小さき演奏者たちが奏でる旋律が響く夜も。
冬の全ての感覚を閉じ込めてしまいそうな凍える夜も。
雷雨が唸りを上げても、猛吹雪が牙を向けても決して夜になるとその山頂の岩に現れ、
ただただ夜空を見上げ続けていた。
朝日が顔を出す頃にはその姿は消え、また月が昇り世界を染め行く頃には忽然と岩の上
へと姿を見せる。
その行動は集落の者には一切理解出来ず、徐々に徐々に関わらないようにと山頂は踏み
入るべからずという暗黙の了解が定着していた。
そんな日々が続くある日の夜。集落の者は誰一人と気がつかない間に山頂の影が一つ増
えた。
その日は厚い雲に覆われた月の美しい夜だった。
それは最初からある何か大きな影ではなく、とても小さな小柄な影。
「こんばんは、良い夜ですね」
小柄な影は目前の大きな影に声をかけた。
大きな影は見向きもしない。
「何を見ているんですか?」
小柄な影は距離の縮めつつ問いかけた。
大きな影は反応を見せない。
「お隣、失礼しますね」
小柄な影は拳二つほど離れた場所に腰をかけた。
大きな影は微塵も動かない。
雲が流れ、切れ間から月明りが山頂を照らす。
その時初めて大きな影の姿を知った。
薄汚れてはいるもののよく見れば上質な生地を使用した羽織りに裾がボロボロの袴。月
明りに照らされしその巨躯は猫背なのかぐっと丸められ、薄黒いそれは鈍く輝き人間では
ない顔を夜闇の狭間に露見させた。
「……熊?」
同じ様に照らされた小柄な影、和装の長髪の者は思わず口にした。
「……違う」
それに応える様に大きな影は低く小さく音を出す。
「喋れたんですね」
内心驚愕しつつもこの機を逃すまいと続く。
「……まさかまだ喋る事が出来るとは思っていなかった」
熊の様な何かは聞かれた事に応える。その間も決して夜空から目を離さずに。
「ここで何をしているんですか?」
その横顔を、目が合う事のない横顔を見つつ質問を重ねる。
「……何もしていない、ただここに居るだけだ」
その者は淡々と低く唸る様に答える。
「じゃあ」
「……もう直ぐ夜が明ける。戻るなら早くした方が良い」
そう言葉を遮るとゆっくりと右手をのばし、道を示す様に指を出す。その手はとても人
間のそれには見えなかったが不思議と恐れはなかった。
「……この道を真っ直ぐ進め。そうすれば麓は直ぐだ」
言うや否や手を元の位置に戻し、悲しそうな色を宿す瞳は夜空を眺める。
「また来ます」
そう言って一礼すると大きな影だった方の指し示した道を真っ直ぐ下る。
行きと違って険しい道もなくあっさりと麓に到着すると、月は何処へか太陽が顔をのぞ
かせる時間に。
私は集落の者に気付かれないように、ひっそりと家路へ急ぐ。
初めて抱くこの胸の高鳴りを押さえ込みながら。
また今宵山頂で一時を過ごせる事を願って。
その好奇心がたまには心を活かす事があっても悪くない。
どうも、仕事中に創作や二次創作のネタばかり考えてるヤツ、牛蒡野時雨煮、です。真面目に働け。
大変お久しぶりですね、本当に。
そして更新が滞り続けて初めて知りました。二年以上更新されてない無い作品は次話投稿されない蓋然性が極めて高いって表示されるんですね。
本当にすいません!!!!!!!!!!
ちゃんとゆっくりではあるものの進めてはいるんです!!
と、とりあえず今回はこれまでですがね!!!
もしよろしければ別の作品でもお会いできることを願っております……。