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そして。

 自宅のある駅で電車を降りた私は、家までの帰り道を駆け抜けた。重い冬服、纏わるコート、そして肩に食い込むスポーツバッグ。どれもが私の気持ちを、重く重く沈めていく。


 おにーさんを勝手に好きだった自分も。彼女がいることに勝手に落ち込む自分も、何もかも嫌だった。


 駆けこむようにして家に入った私は、誰もいない自宅の玄関で座り込む。制服越しの床が、とても冷たい。


「ふ……っ」


 両親は共働きだし、すぐ下の弟はまだ学校だ。

 ここで、泣いても、誰にも、バレない。


「ふ……ぅ、うくっ」


 もう我慢しなくていいと思ったら、止まらなくなった。次から次へと零れる涙は、拭う制服の袖を濡らしていく。


「ふ、……うぇっ」



 止まらない嗚咽が、静かな家に響き渡る。




 ――ほら、駄目だよ。皺になっちゃうよ

  そう言って、眉間の皺を伸ばす様にぐりぐりと人差し指を押し付けて。


 ――若い頃からちゃんと気を付けてないと、将来後悔することになるよ

 そう言って笑ってくれた。



 あのやりとりが。

 自分の中で大切にしていた、あのやり取りが。



 一瞬にして、薄っぺらいものに変わってしまった。

 ベンチに座る二人を思い出すだけで、胸が苦しい。



「もう、やだ。い……っ」



 いつか、あの電車に、おにーさんとあの人が一緒に乗ってくるかもしれない。それを見るのは、辛すぎる。自分勝手だけど、酷いと思うけど。



「……もう、止めよう」


 もう、おにーさんには会わない。


 元々、約束をしていたわけじゃない。たまたま会えば、話しかけてくれていた関係。優しいおにーさんは、もしかしたら気にしてくれるかもしれないけれど……



 会わないまま日が過ぎれば、きっと忘れる。たまに、「どうしてるかな」って思い出されるだけの、過去の人になる。

 それで、いい。

 決定的な言葉を貰うより。決定的な、場面を見てしまうより。




 きっと私の中のこの気持ちも、時間が消してくれるはず……




 独りよがりな私の恋は、今日、終わらせるんだ。

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