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この気持ちは、あの日に。  作者: 篠宮 楓


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20/23

好きだから……

 真っ白です。


 頭が真っ白です!!



 目をこれでもかと見開いておにーさんを凝視する私に、彼は笑みを浮かべたままもう一度告げた。



「君が、すきだよ。今も……、あの頃も」



 あの頃、も?



「嘘」


 思わず口をついた、言葉。

 おにーさんは少し目を細めたけれど、幾度か瞬きをして首を傾げる。

「なぜ、そう思うの」


 脳裏に浮かぶ、おねーさんとおにーさんの姿。

 例え恋人同士ではなくても共有していた、その感情を私には見せてくれなかった。私を心配しているのに、欠片さえ私に見せてくれなかった。

 そう伝えれば、困ったなぁと首もとを右手で押さえる。


「好きな子にさ、情けない所見せたくないでしょ。しかも俺の方が五つも年上なんだから、大人の余裕というものを見せたいわけで」

 要するに、

「見栄ですか」

「そこまでストレートに言うか」

 ――この口は。

 そう言いながら、おにーさんの右手が私の頬に触れた。



「……っ」



 ――どくり、


 鼓動が、跳ねる。



「あの日、名前を聞くつもりだったんだ。連絡先も。でも、君は帰ると言って電車に乗ってしまった。本当は引きずりおろしてでも留めようかと思ったんだけど、やめた」


 私の変化に気付かず、おにーさんは指の腹で頬を撫でる。

 どんどん、顔に血液が集まって行っているのが分かる。けれど、止められない。


「君、凄く泣きそうな表情してたから」


 それは、おねーさんとおにーさんを見て……


「それに、また会えると思ったんだ。電車を使っていれば。だって……」

 そこまで話して、おにーさんはその指を口元で止めた。

「君、俺と時間合わせて電車に乗ってただろ……?」

 一気に顔が熱くなった。

「なっ、ななななっ!」


 何で知ってるの!?

 ばれないようにそ知らぬふりしてたのに!


 焦りすぎて声にならない私。

 確かにその通りだったから。しかも、用事もないのに自習するために学校行ってましたが!


 おにーさんはそんな私を見下ろしながら、くすりと笑った。



「俺ね、君の事、知ってたんだ」



「……え?」



 知ってた?



 初めて聞く事に、私は思わず聞き返す。


「俺が話しかける前から。一人でいる時は凄く辛そうなのに、友達がいる時は綺麗に隠して笑ってる姿をみてさ、なんか……こう……」


 そこまで言って、おにーさんは口を噤んだ。


 そして目を伏せると。




「笑わせたいって、思ったんだ」




 呟いた。




「君の笑顔を、見たいと思ったんだ」




 おにーさん、笑えません。



 ……泣きそうです。



 だって、今でも……好きだから。



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