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おにーさんが、

 そう言って、おにーさんはベンチについていた手を外して私の眉間に指で触れた。



 そしたら。



 びくり、と体が勝手に反応した。


 体を反らせるようにその指を避けてしまった私を見て、おにーさんは目を細める。剣呑な……ではなく、少し傷ついたように。けれど私も私で、自分の反応にかなりびっくりしていた。



「あ、いやいやあの! 今のはですねー、あのですねー」

 慌てて両手を振る私の頭に、おにーさんの手がぽすりとのった。今度は何の反応も示さない私を見て、がくりと肩を落とす。

「それだけ、君を傷つけたって事だよね。……無意識に、嫌悪感を示すくらい」


 ……嫌悪感?

 おにーさんの言葉に、眉を顰めた。

 嫌悪感……嫌悪感なんかじゃない。でも……どうしても、あの時のショックが抜け切れてないのかもしれない。


 私は、おもむろに眉間に自分の指を近づけてみた。。むにむにと押してみても、別に何も感じない。


「俺が、もっとちゃんと君と話していればよかったんだ。あの時も、それまでも」

「……あの、時?」

 眉間をぐいぐい押していた私は、おにーさんの言葉に顔を上げた。指はそのままに。

 いつの間にか頭から外れていたおにーさんの手は、今、彼の両脇に戻ってる。ほんの少しだけ温もりがまだ頭に残っている気がして、眉間を押していた自分の手を頭にのせた。


 おにーさんは私のその行動に微かに笑うと、小さく頷く。


「あそこにいたのはね、俺の姉」

「……おにーさんのおねーさん?」


 嘘くさい。


「いや、嘘じゃないから。ホントだから。血、繋がってるから」


 ……なぜバレた。


 苦笑したまま私を見下ろすおにーさんの目は、嘘をついているようには見えないけれど。

 でも。


「ならなぜ、おねーさんと一緒にいたんですか? 私と約束した時間に」

 思わず刺々しい声になってしまって、口を噤む。

 だって、おかしいじゃん。私と待ち合わせしてるのに、なんでおねーさんがそこに来るの? しかも私に合わせないとか、そりゃ彼女だって思いますって。


 内心ぶつぶつ文句を言っていた私に、おにーさんはふわりと笑った。


「……文句は言うけど、信じてはくれるんだ」

「だって、おにーさんが嘘をつけると思えないし。……って、なんで私が文句を言ってると……!?」

「口に出してる」



 ……すみません。素直になろうと決めたばかりなもので。



「あのさ。俺……君に、合格祝いを買ってあげたかったんだ」

「……合格祝い、ですか?」

「そう」


 そこに、なぜおねーさんが絡んでくるの?


「うちの姉は……4つ上なんだけど。化粧品会社に勤めててね、その手の事に詳しいんだ」

「お化粧……ですか?」

「うん。君の話を姉にしたら、それなら実用的で、でも贈り物っぽい化粧品はどう? ってすすめられてさ」

まぁ姉が会いたかったっていうのが殆どを占めてるとは思うけどと、そう笑う。


「君、高校の時化粧してなかったから、確かに姉のアドバイスとかも聞けるしいいかなって思ってさ。俺じゃ、まったくわかんないし。だから合否を教えて貰ったら買い物に誘おうと思って、姉にも来てもらってたってわけ」

「受かってるかわからないのに、合格祝いって……」

「合格してるって、信じてたし。もし万が一落ちてたら、気晴らしにと思って」

 

 ……えーと?


「眉間のぐりぐりはさ、あれ、姉の癖なんだよね。昔っからの。だから俺も癖になってるっていうか、気になるというか」


 ……んーと?


「だから、彼女じゃないんだよね」



 分かってもらえるかな?



 そう言い切ったおにーさんは、にっこり満面の笑顔で。



「だって、俺」



 さっきまで項垂れてたのが嘘みたいな、ステキな笑顔で口にしたのは。




「君が、好きだから」




 現在進行形の、言葉でした。

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