の、はずが。
私は、じっとおにーさんをみつめた。
これで、最後だ。
うん。
「おにーさんのことが、好きでした。迷惑かけて、本当にごめんなさい」
黙ったままのおにーさんに、頭を下げる。そして再び勢いよくあげると、精一杯、笑顔を作った。
「なので、おにーさんが謝る事は一つもなかったんです」
もうこれで、おにーさんは、もう私に煩わされない。
終わり。
全部、終わり。
おにーさん怒ってるみたいだから、許してもらえないかもしれない。そうしたら、もうこうやって顔を合わせる事もなくなっちゃうと思う。だから、最後は笑顔でさよならを言おう。
――うーん、やっぱりまだ、思考が思春期抜けてない気がするけどね
「おにーさん、今までありがとうございました」
私の、支えになってくれて。
あの時、私を助けてくれて。
今の私は、おにーさんのおかげでここにいるんだもの。
じっと見上げていた私は、何も言わずに私を見下ろすおにーさんにもう一度小さく頭を下げた。
もう、いいかな。
気持ちを伝えてすっきりしたけれど、じくじく痛む心は止められない。早く、おにーさんの前から立ち去って、自分に酔ってるって言われても泣きたい。
それで、終わりにするんだから。
「……そういう事なので……。おにーさん、お元気で」
何も言いださないおにーさんから目を逸らして、私はベンチに置きっぱなしだった鞄を手に取った。そうしておにーさんの横を通り過ぎようとした、その途端――
「……だから!」
腕を掴まれて、引き留められた。勢いがついていたからか、引き留める力が強かったのか、バランスを崩して後ろに倒れ込む。
そこは、ベンチの上。
腰掛けた状態の私は、びっくりしておにーさんを見上げた。
そこには……
「……おにーさん、顔が怖いです」
なんだか、顔を真っ赤にしたおにーさんが立ちふさがってます。見下ろされると、さすがの童顔おにーさんでも怖いのですが。
おにーさんは一瞬眉を顰めたかと思うと、目を瞑って溜息を零した。
「あのさ。少女漫画じゃないんだから、ごめんなさいさよーなら、とか言ってすべてが終わるとか思わないでよ」
「へ?」
つっこみどころは、そこですか?
「さよならされた後、相手がどう思うとか気付こうよ」
ゆっくりと覆いかぶさるように上体を屈めたおにーさんは、私を両腕で挟むようにベンチの背もたれに手を着いた。
ちょっ、この体勢はドキドキしてしまいますよ!
これこそ、少女マンガシチュエーション!
「あのさ」
そんな、ドキドキシチュエーションの中。
「それ、過去形?」
告げられた言葉は、よく分からないものでした。