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わらって。

 思わず、びくりと肩を震わせてしまった。


 言えって?



 痛い女子高生だった私は、おにーさんに彼女がいる事を知って、勝手に「いつかは~」とか夢見てたそれをぶっ潰されて、泣いて怒って落ち込んで……?



 あ、なんか考えただけで落ち込んできた。




「君?」



 名前を……いや、名前じゃなくて。

 声を掛けられて、顔を上げる。そういえば、この期に及んで名乗ってないや。


 頭を下げたまま、自嘲気味に目を伏せた。

 知らないままの方が、いいかな。私は、知ってるけれど。


「いえ、その。思春期って事で……」

「思春期、ねぇ」


 あれ。

 なんかおにーさんの声が、剣呑です。

 当たり前か。

 でもほらー。乙女の妄想は思春期で説明できるよねっ。


「ふーん」


 うん、何か怖いよ!

 おにーさんは、何も言わずにじとっとした目で、私を見ていて。


 でも。


「あの」

「うん?」


 私の声に反応するように、その色が揺れた。



 ――緊張、してるんだ。



 こんな年下の女の言葉に。

 態度に。


 自分と同じ立ち位置にいてくれているのかと思うと、それだけで自分の緊張がゆっくりと解けていく気がする。体から抜ける力に、心も落ち着いていく気がした。


 そう。

 もう一年半くらいまえの話。

 たとえ気持ちがまだ終わっていないとしても、それでも伝えられるよね。


「おにーさん。あのね」


 ゆっくりと開いた口、丁寧に紡ぐ言葉。

 終わることが怖くて、あの日に置いてきたはずの恋心が胸を締め付けるけれど。

 終わらせないと、自分も進めない。

 誤魔化せば、また生まれる、後悔。


 おにーさんは、どこか緊張した面持ちで私の言葉を待ってる。 表面は、何でもない顔をして。

 あの時でさえそうなんだから、今なんてもっと見せて貰えはしないだろう。


 ”怒・哀”なんて。


 口端を、意識的に引き上げる。

 笑えるだろうか。

 笑えてるだろうか。



「あのね、私」


「うん」


「おにーさんの事が、好きだったの」



 どこか、張り詰めた空気。

 おにーさんは表面に張り付けていた顔を作ることも出来ず、ただ目を見開いた。


「おにーさんの事が好きだったから、彼女がいるのを知って逃げちゃったの」


「……う、え?」


 なにその反応。


 目をまん丸くして固まっているおにーさん、口も半開きですよ。

 あまりにも可愛い反応に、思わず笑ってしまった。

 あぁ、言葉にしてみれば、なんて簡単な事だったんだろう。心臓はばくばくしてるけど、それでも逃げた時の苦しさなんかとは比べものにならない。


 言えばよかった。

 あんなに苦しんで、こんなに引きずって、おにーさんにもしこりを残すくらいなら。


「ごめんなさい、子供だったよね。私」


 今も、学生という名の子供。けれど二十歳を過ぎているから、大人でもいなくちゃいけない。

 中途半端な、私。


 だから。


「ごめんなさい」


 謝るから。


「おにーさん」


 呼び掛けに、ぴくりと肩を震わせたおにーさんに精一杯笑顔を見せた。




――笑って、許して?

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