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あやまる。

「へ?」



 開口一番、飛び出た言葉は、言葉にもならない一音だった。


 目の前には、頭を下げたおにーさん。

 それに相対する私は、ベンチに座ったまま腰を浮かせた状態。


 周囲から……いや私から見ても、どう考えてもおにーさんのThe 謝罪の場。


 考えてもいなかった状況に、思わず呆けてしまう。

 なんでおにーさん、謝ってるの?謝るのは私で、おにーさんが謝る事なんて一つもないのに。

 え、気付かないうちに、私何かされてた?

 え、じゃあ、ちょっとお相子とかしていいの?

 いやいやいや、何その卑怯な考え。逃げてる、私逃げてるよねこれっ。



 呆けている私の脳内はパニック中で、訳の分からない思考がぐるぐる渦巻いて駄々漏れ気味になってきたところで聞こえてきた、じゃり、という小石が擦れる音にはっとする。


 呆けている場合じゃないっ。


 ベンチから立ち上がって、両手を目の前で振る。

「あのっ、おにーさんっ。私、おにーさんに謝ってもらう事何もないですっ! あっ、頭上げてくださいっ」

「いや、俺、ずっと謝りたくて」

「ですから、……っていうか! 謝るなら、私の方なんです!」


 おにーさんの言葉を遮って、がばっと同じように頭を下げた。

 視界に入るおにーさんの靴のつま先を見つめて、過ぎた年月に再度気付く。スニーカーをいつも履いていたおにーさんのその足元は、革のビジネスシューズ。それは綺麗に磨かれていたけれど、使い込まれている風合いが見えて。

 おにーさんが社会人で、その生活を頑張ってるんだなって……もうあの頃とは違うんだなって、私に実感させた。


 もう、本当に会えないだろうな。

 こんな偶然、本当にないだろうな。

 だから、ちゃんと。

 貰ったチャンスっていう所が情けないけれど。



「変な態度をとって、本当にごめんなさいっ」


 

一気に叫んで、ぎゅっと目を瞑った。



 もう、きっと次に会う事なんて期待できないから。

 こんな偶然、無いだろうから。

 だからちゃんと謝ってもしまた偶然見かける事があったら、「こんにちは」って言えるような関係になりたい。過度の期待は、おこがましいよ。



 そう考えながらも。


 名前を呼ばれて。

 腕を掴まれて。

 ここまで連れて来られて。


 ほんの少し、気持ちが膨らんでいくのが分かる。

 この気持ちは、あの日に置いてきたはずだったのに。心の奥底に残っていた欠片が、急速に気持ちを取り戻していくのを感じて私はぎゅっと握りしめた手に力を込めた。


 しばらく静まり返っていたけれど、ぽつりとおにーさんが呟いた。


「変な態度?」

 おにーさんの言葉に、反射的に口が開く。

「はいっ! いきなり避けて、本当にすみませんでした!」


 なんか色々端折った感が拭えないけれど、仕方がない。誰だって今まで普通に話していたはずなのに、避けられたらいやな感じするよね。理由とかじゃなくて、してしまったことを謝らないと。


 おにーさんの事が好きで、彼女さんがいる事がショックで、それで逃げました!


 とか、言わないよ……言えないでしょ。


 おにーさんは私の言葉を聞いて、小さく息を吐き出した。




「なんで、避けたの?」




 ……言えってか。

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