むり。
会いたくないと思えば思うほどその姿を見かけ、会いたいと思えば思うほど……
「会えない」
私は、おにーさんのいつも降りていた駅の改札で、がっくりと肩を落とした。弟に話を聞いて貰ってから、大体いつもおにーさんと遭遇していた時間帯を狙って電車に乗ってはみたもののその姿は全く見つけられかった。昨日から駅で降りてみたりもしたけれど、やっぱり会えない。
さすがにずっと待ってるわけにもいかないし、かといって学校まで押しかけるわけにもいかないし。おにーさんの降りていた駅を使っている大学は、実は三校もあるのだ。なぜ、大学名だけでも聞いておかなかったのかと悔やまれる。
「まぁ、今更なんだけどさ……」
溜息をついて、ホームに入ってきた電車を待って乗り込む。
今日も、会えなかった。
おにーさんに会えないまま、私は高校を卒業した。
なんであんなに当たり前のように会えていた時間帯に、おにーさんの姿が無かったのか考えられる理由は二つ。私に避けられていると知って、おにーさん自身もその時間帯に電車を使うことを止めたか。もしくは……、大学四年生で卒業してしまったか……。
せめて、後者だったらいいな……なんて、そんな自分に甘い事を考えた。
その後、入学した大学は今まで使っていた電車の沿線だったこともあって、もしかしたらいつか会えるかもしれないとも思ったけれど。
おにーさんの姿を見る事は、一度たりとも無かった。仕方ない事だと、そう思うしかなかった。卑怯だと思ったけれど、そう思うしかなかった。
忘れるしかないと思いながら。
忘れられずに、ずっといる。
いつか会えたら。
いつか会えたら、謝ろう。
そんな事を考えて、一年が過ぎ。
もう、会えないんだろうなぁと思い始めて二年目。
会えたら、ちゃんと謝りたいのに……。
でも――
「余計、無理だわ」
ぽつり、呟く。
顔を上げた先には、ずっと車窓を見ているおにーさん。
会えたけど。謝ろうと思っていたけれど。
スーツを着ているおにーさんの姿に、謝らなきゃと思っていた気持ちが、萎んでいった。